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オーバーサンプリングA-Dコンバータ:ノイズフリービットを推定するBaker's Best

» 2006年05月01日 00時00分 公開
[Bonnie Baker,EDN]

 もしこの世界がシンプルなデジタル理論で成り立っていれば、アナログ回路はとうの昔に消え去っていただろう。しかし、この世界から温度や音、圧力、振動などがなくなることはない。にもかかわらず、エレクトロニクス業界の最近のトレンドはデジタルシステム一色だ。アナログ回路を無視できるはずもないが、デジタル回路の設計者達はそれらにお構いなしに自分達の領域を広げ続けている。

 デジタル回路技術は設計上の多くの問題を解決してくれる。たとえば、チップサイズはアナログ回路より急速に小型化が進んでいる。デジタル線形化アルゴリズムがあれば複雑な回路を使わずに済む。デジタルゲート回路のおけるノイズマージンは、アナログ回路やミックスドシグナル回路よりもずっと大きい。エンジニアにとってアナログ設計で厄介なことの1つは、ノイズ削減に多大な時間を費やさなければならないということだ。アナログ回路の設計者はノイズを削減することで回路の精度を上げなくてはならない。

 実世界が消えてなくなることはないのだから、ノイズもなくなることはない。システム回路のデジタル部分がアナログフロントエンドに近づくことは、ノイズに近づくことでもある。この古くからあるアナログの問題に無関心だったエンジニア達は、システム内のアナログからデジタルへのインターフェースで起こるノイズが、精度の高い再現性を妨げる原因であることを知って驚いた。

 アーキテクチャに関係なく、サンプリングA-Dコンバータではノイズと歪み(ひずみ)が発生する。これらの発生源としては、サンプリングシステム内コンデンサの熱ノイズ、kT/Cも含まれる。ここでkはボルツマン定数、Tはケルビン温度、Cはファラド単位のコンデンサ容量を表す。その他、レジスタノイズ、アパーチャ・ジッタ、量子化ノイズ、微分非直線性、積分非直線性などがある。デシメーションフィルタとデジタルインターフェースがあれば、この種のA-Dコンバータ回路は、ほぼ完全にデジタルといっていい。

 一部のメーカーは、オーバーサンプリングA-Dコンバータのアーキテクチャでは、変換処理においてノイズがランダムに発生するとしている。グランドなど、「ノイズのない」直流信号をオーバーサンプリング・コンバータの入力に送ると、理論的には複数のデジタル出力コードによってガウス分布が形成される。サンプル数が十分であればデータの標準偏差は再現可能であり、コンバータに有効ビットを供給できる。これらの条件と仮定に基づき、rms(root mean square)または標準偏差の計算を行なえば、時間当たりの性能の予測と同時に、ピーク・トゥ・ピークまたはノイズフリーのビット値を推定できる。rmsのビット数をピーク・トゥ・ピークのビット数に変換すると、ピーク・トゥ・ピークのビット数=rmsのビット数+log2(2×3.3)となる。ここでlog2(6.6)ビット=2.723ビットである。ちなみにこの式では標準的な波高因子を3.3としている。

 こうしてみると、オーバーサンプリングA-Dコンバータにおけるノイズ特性の理論は、実際のチップに見合ったものではない。最良のオーバーサンプリングコンバータを開発するには、エンジニアリング上の洞察と近似解析、理論が必要である。このようなタイプのコンバータのノイズ生成を裏付ける理論はまだ十分に発達していない。したがって、メーカーはモデル化とテストによって、オーバーサンプリングコンバータで発生するノイズを規定している。

 一般的に、オーバーサンプリングアーキテクチャではガウスノイズが生成されると仮定されている。このことは数1000のサンプルをヒストグラムで表してみるとわかる。実効値を計算して前述のピーク・トゥ・ピークの式に当てはめる場合は、サンプルの数を数100に減らしても問題ない。

<筆者紹介>

Bonnie Baker

Bonnie Baker氏は、「A Baker's Dozen: Real Analog Solutions for Digital Designers」の著者である。ご意見は次のメールアドレスまで。bonnie.baker@microchip.com


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