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» 2006年08月01日 00時00分 UPDATE

安全な製品設計を行うために:「電圧の危険性」を学ぶ

自分が開発している製品の危険性について、考えてみたことはあるだろうか。たとえ使用する電圧が低くても、条件によっては、その製品がユーザーを危険な目に遭わせる可能性がある。安全な製品を設計し、消費者に正しく使ってもらうためには、電圧が人に及ぼす危険性と、「安全原則」、「認定」の重要性を知っておかなければならない。

[David Lohbeck(米National Instruments社),EDN]

 屋内の電源コンセントの電圧は、米国では120V、欧州では230Vである。こうした高い電圧に感電すると、重傷を負ったり、あるいは死に至ったりするケースがあることは周知のとおりだ。しかし、120V、230Vくらいであれば、「低い電圧である」と考えている人が多いことをご存じだろうか。信じられないかもしれないが、電圧にかかわりのある多くの規格では、1000V以下の電圧は低電圧であると規定されているのだ。

 一般に、ピーク電圧が42.4V以上であった場合、危険な状態だと見なされる。逆に、それ以下の電圧、すなわちSELV(safety extra-low voltage:安全特別低電圧)であれば、危険ではないとされている(表1)。しかし、実際には6mA〜200mA程度の電流に1〜3秒間触れるだけでも、感電、心拍数の乱れ、心房細動を起こす可能性がある(場合によっては、死に至ることもある)。これは、120V/15Wの常夜灯でも感電してしまうかもしれないということを意味する。そう考えれば、身の回りでよく使われている125mAという電流値は、危険ゾーンにあるといえる。          

表1 電圧の分類 表1 電圧の分類 注1)名称と値は、規格によって異なる場合がある注2)IEC60950-1とそれ以外の規格注3)NECNFPA70での低電圧は600V、ANSI/IEEEでの低電圧は交流1kV、欧州低電圧指令での低電圧は交流50V〜1kV、直流75V〜1.5kV注4)ANSIC84.1とIEEE100注5)IEEE1312とIEEE100注6)30Vrms、ピーク時42.4Vの交流電圧あるいは60Vを超える直流電圧を危険電圧と呼ぶ。試験/測定機器の場合は、33Vrms、ピーク時48.7Vの交流電圧あるいは70Vを超える直流電圧を危険電圧と呼ぶ。この値は国によって異なる場合がある。※クリックすると拡大します。

電圧が人体に及ぼす影響

 米国では、感電によるけが人/死亡者の数が年間で1000人以上にも上る。電源コンセントの電圧値は100V〜250Vが最も一般的だが、この範囲の電圧で感電すると、身体に大量の電流が流れる。屋外の電気設備はさらに高電圧で、これに感電すると、ひどい火傷や心停止に至る可能性がある。

 電流が流れる速さはほぼ秒速30万kmと光速に匹敵し、最も抵抗が小さい経路を通って地面まで到達する。一方、人体の約70%は水分であり、伝導性が極めて高い。人体の抵抗値は、接地の具合や年齢、体格、性別などによって異なるが、意外なところでは発汗量も抵抗値に作用する。発汗量が多いほど、電流が流れたときに人体へのダメージが大きくなる。

 電圧が人体に及ぼす影響は、電圧値を抵抗値で割って得られる電流値から知ることができる。120Vの電圧について考えると、抵抗が100kΩと高い場合、流れる電流は1.2mAである。抵抗が10kΩ、1kΩの場合には、電流はそれぞれ12mA、120mAとなる。1.2mAという電流値は、「ビリビリ」と感じる範囲の限界値である。電流値が12mAに達すると、耐えられないほどの凍えるような寒気を感じ始める。120mAでは激しい痛みを覚え、心房細動を引き起こす可能性がある。

 先述したように、電流は最も抵抗が小さい経路を通って地面に流れる。血管、神経、筋肉の抵抗値は小さく、骨、脂肪、腱の抵抗値は比較的高い。5mAを超える電流が手から足に流れると、人はその電源から離れることができなくなる。仮に強い衝撃によって電源から弾き飛ばされたとしても、呼吸停止か心停止、あるいはその両方に陥る可能性がある。20mAを超える電流が流れた場合には、致命的なショックを受ける恐れがある。そして電流が1Aを超えてしまったら、心臓が収縮し、体内温度が急上昇する。それによってひどい火傷を負った場合には、死亡することもある。なお、脳、心臓、神経系統は最も感度が高く、これらの部位では、0.5mAほどの電流でもショックを感じる。

 電気が人体に及ぼす影響の度合いを決める要因は、電圧、電流、抵抗、電圧の性質(直流か交流か)、接触時間、電流経路である。それぞれ、以下のような影響を及ぼす。

電圧

電流は、電圧が存在することによって流れる。電流が流れることにより、心臓や脳が損傷したり、筋収縮が発生したりする。

電流

電流は、損傷の度合いを決定し、人体の組織と器官の温度を上昇させる。

抵抗

抵抗値は、身体の乾燥の度合いや、体内での電流の経路によって異なる。腕から電流が流れた場合、腹部から流れた場合よりも熱損傷が大きくなる。これは、腕の方が断面積が小さく、抵抗値が小さいからである。

電圧の性質

直流よりも交流のほうが心房細動を引き起こしやすい。言い換えれば、周波数も危険度に影響する。

接触時間

接触時間は、組織/器官の温度上昇度に影響を及ぼす。接触時間が長いほど、損傷が大きくなる。

電流経路

心臓を挟んで手から手に電流が流れた場合、致死率は60%に達する(手から足の場合は20%)。そのため、感電の危険性がある場所で作業するときは、手から手に電流が流れないよう、「片方の手をポケットに入れろ」と昔からよく言われている。

事故の発生原因

図1 エルドラド変電所の事故の様子 図1 エルドラド変電所の事故の様子 この事故では、大気へ向けて500kVの電気アークが発生した。その高さは30mにも及んだ(米StoneridgeEngineering社提供)。

 電気にかかわる事故は、さまざまな状況/原因で発生する。以下に、代表的な例を示しておく。電気への直接接触による事故

最も一般的な事故は、電気エネルギーに直接触れることによって発生する。直接接触による事故は、30Vrms以上でピークが42.4V以上の交流電圧か、60Vの直流電圧に触れたときに発生する。このようなリスクを減らすには、対象物に適切な絶縁を施すとともに、十分な距離を置くことである。電気アークによる事故

電気アーク(フラッシュオーバー)とは、大気を通した人体/物体への放電現象のことだ。これも典型的な事故原因の1つである。電気アークは、落雷や、モーターの始動、ラインサージなどが原因で発生する。

米ネバダ州ボルダーのエルドラド変電所では、従業員がそうした超高電圧の電気アークで感電するという事故があった。同変電所では、2つある開閉器のうち1つが開かないと、気中開閉器が「高温」の状態で開放されるようになっていた。これが原因で、30m以上にわたって500kVの電気アークが放出されてしまったのだ(図1)。2次的要因による事故

電気による間接的な理由で人体に影響が及ぶこともある。例えば、過電流によって高温に熱せられた物体の表面や燃焼物に触れれば火傷を負ってしまう。一般に、人間が触れることができる表面温度の限界は金属で約70℃、プラスチックで約80℃である。過剰な消費電力は熱を発生させるが、その結果、製品から発火し、周りに延焼する可能性がある。

また、電気事故の影響で人が転倒したり、モノが落下したりすると、それが原因となって筋収縮やショック反応などが起きることもある。

配電の仕組み

 火力発電では、石炭/石油/天然ガスを燃焼させて、蒸気タービンを回転させる。そのタービンにつながれた発電機によって電気を発生させるという仕組みだ。

 発電機は3相交流電力を長距離送電用の高電圧で供給し、それを受けた電力変電所が送電電圧を分配網の電線向けに降圧させる(図2)。分配網は、一般に4kV〜35kVの3相中間電圧で送電し、この送電電圧はトランスによって1kV未満に降圧され、住宅や商業ビルに供給される。なお、電線を地下に埋設し、トランスだけを地上に設置している地域もある。

図2 発電所からの送電の仕組み 図2 発電所からの送電の仕組み ※クリックすると拡大します。

 巨大な鉄塔の上には、送電線のケーブルがある。それらの鉄塔の頂点に沿って、落雷を誘導する目的で地上ケーブルが渡されていることもある。これは、電線網やビルの電気設備に雷のエネルギーが伝わらないようにするためだ。

 配電用の電線は、電柱によって各所に渡される。磁器製の絶縁器の間にぶらさがっている電線をよく見かけるだろう。電柱の下の方にあるほかの線は、電話やケーブルテレビなどに使用される。これらの電力線は絶縁されていない(絶縁されているように見えても、実際には耐候性しかない)。

 人や建造物を危険な電力線から隔てているものは、鉄塔と電柱だけである。人や建造物の安全を確保するには、電力線から少なくとも3mは離れている必要がある。

安全原則の遵守

 安全に関する法律を遵守して消費者の期待に応えるには、製品を設計する際、「安全原則」を適用し、安全に関する規格(安全規格)を満たすようにすることが最低条件となる。言い換えれば、設計者は安全規格を満たすよう、最新の安全技術を駆使して製品を設計しなければならない。技術や材料、作成方法が規格で定められていない場合や、新たな安全原則が生まれた場合などには、安全規格以上の仕様を満たすよう製品設計を行わなければならないこともある。製品の設計者は、通常の動作条件のほかに、故障が起こり得る条件や、予測される誤使用状況、さらには温度、湿度、高度、汚染の度合いなどといった要因についても考慮する必要がある。

 安全原則には、「安全設計」、「保護対策」、「警告」という要素が含まれている。まず最初にやるべきことは、安全設計を行うための基準を定め、できる限り危険要因を排除することだ。安全設計が行えず、リスクを取り除けない場合には、保護用の装置を取り入れるといった保護対策をとる必要がある。その他すべての手段を講じた上でまだ不足している点があれば、どういったリスクが生じる可能性があるのか、ユーザーに警告しなければならない。あるいは、製品を利用するためのトレーニングを実施したり、個人用の保護装置を利用したりしなければならない旨を警告する必要もあるだろう。

 安全な製品を設計するためには、設計者はユーザーと修理要員の両方のことを考えなければならない。

 通常、安全カバーの裏側など、修理領域に当たる危険な個所にはユーザーは触れられないようにする。ユーザーは危険を特定するための訓練を受けていないが、自らを意図的に危険な状況に置くこともない。ユーザーへの指示は、誤使用の防止、電源への不適切な接続の禁止、ヒューズ交換時の注意点など、危険につながるような状況の回避に重点を置いたものにすべきである。その上で、リスクの可能性が残されている旨を、警告として製品に明記しておかなければならない。

 一方、修理要員は明らかな危険から身を守るための訓練を受けている。しかし、それでも予期しない危険からは保護される必要がある。従って、メーカーは修理が必要になる部品を電気的/機械的に危険な場所から離れたところに配置し、また偶発的な接触を遮るための防護対策を施した上で、可能性のあるリスクについての警告や指示を提供しなければならない。修理時のための警告は、事故の可能性と重大性の度合いに応じ、製品に直接記載するか、またはマニュアルに記載する。

 ところで、「警告」をどのように適用すべきなのかということについては少なからず誤解があるようだ。安全設計が可能な場合や、規格で警告が許可されていない場合などには、警告の正当性が認められず、安全規格(あるいは法律)に違反してしまう可能性がある。安全設計はユーザーを保護し、通常動作時、故障時、予測可能な誤使用時といった各条件下における製品の安全性を保証するための最重要かつ最良の方法である。これが行えない場合にやむを得ず警告を用いるのだということを忘れてはならない。

 誤使用が行われた場合、つまりメーカーが意図しない方法で製品が使用された場合であっても、それが人間の行為の結果として予測できる範囲にあるなら、ユーザーの安全は確保されなければならない。例えば、ユーザーが誤った方法で調節器やノブ、コントロールを操作した場合でも、ユーザーの安全は確保される必要がある。メーカーは、自らの責任範囲を限定するために警告に頼るのではなく、ユーザーがどのように製品を誤使用する可能性があるのかを予測し、そのような場合でも安全が保証されるように製品を設計しなければならない。

 製品には、通常動作時/故障時の感電と火災を防止するための保護対策が施されている必要がある。製品によっては高電圧が使用されているものがあり、故障が発生すると電流が劇的に増加してしまうケースがある。

図3 保護対策を施したボード 図3 保護対策を施したボード このボードでは、コンデンサが短絡しても、通常動作時には0.5mA程度の電流しか流れない。

 例えば、250Vが供給されるプリント基板に、5Vの直流電圧で駆動される回路があったとする。保護対策とは、その回路で用いているコンデンサが短絡しても、安全な範囲で電圧が維持され、通常動作ならば0.5mA程度の電流が流れるだけで済むといった具合に設計することをいう(図3)。

 一方、保護対策が行われていないと、コンデンサが故障したために20A以上の過電流が流れ、数秒のうちにプリント基板上で発火するといったことが起こりうる(図4)。いずれその火は消えるだろうが、これが製品の外部に広がったとしたら、わずか数分間のうちに、どのくらい大きな損害が発生するか想像がつくだろう。

 感電や火災の危険を防止するには、すべての電気回路を正しく評価し、ヒューズやブレーカを備えた製品を設計することが重要である*1)*2)

図4 電流制限をしていないボードの例 図4 電流制限をしていないボードの例 適切に電流を制限しておかないと、コンデンサがショートしたことで、数秒のうちに発火する(a)。その30秒後には、火によって大きな損害が引き起こされる(b)。結果として、プリント基板とコネクタが破壊された(c)。

製品の認定

 各種規格/仕様は、生命や財産、環境に対する安全性のことを考えずに決められていることが多い。一方、安全規格や法律は、電気が招く事故を含め、危険要因からユーザーを保護することをメーカーに義務付けている。製品は、通常使用時、故障時、予測可能な誤使用時のすべての条件下で安全規格に準拠していなければならない。

 製品の安全性に関しては、メーカーが最終責任を負う。しかし、万一事故が起きてしまったら、サプライチェーンの関係者全員が責任を追求される可能性もある。安全への意識が高まるに連れ、事故件数はここ20年間で大幅に減少したが、事故1件当たりのコストは急増している。

 製品の安全にかかわる技術的側面と法的側面を理解するのは難しい。これに対応できるのは、規格、法律、それらの解釈、国ごとの違いなどに精通しているプロフェッショナルだけだ。安全保証を担当するエンジニアは、各種の規格や業界標準に基づいて製品の評価と試験を実施し、製品のサプライヤ、ユーザー、管理当局からの要求があれば準拠証明を提供しなければならない。

図5 認定マークの例 図5 認定マークの例 これらのマークは、規格に準拠していることを表す第三者証明である。地域/国によっては、認定マークの取得が義務付けられている。※クリックすると拡大します。

 欧州で使われている「CE(Conformite Europeenne)」マークはメーカーの自己申告によって付加するマークであり、第三者の認定や承認を表すものではない*3)。その一方で、独立した第三者機関による準拠証明を表す認定マークも存在する(図5)。ニューヨーク、ロサンゼルスなどでは、そうした認定マークの取得が必須になっている。製品に認定マークが付加されていれば、ほぼ例外なく、仕様の範囲内で使っている限りは安全である。認定マークを取得することは、製品の安全性が問われた際に、それに関する適正な評価手続きを経たものであることを証明するための最善策だといえる*4)*5)

 電圧の危険性に対する認識が高まるに連れ、安全原則を考慮することがメーカーの義務となってきた。設計者も、関連する安全規格や法律を理解し、安全な製品を設計するために必要なツールを使わなければならない。認定マークは、製品の安全規格への準拠を目に見える形で証明する。これを取得することが、消費者に安心感を与え、また消費者の安全を確保することにつながるのである*6)*7)*8)


脚注

※1…Lohbeck, David, "Safety isolation protects users and electronic instruments," EDN, Sept 30, 2004, pg 59, www.edn.com/article/CA454635.

※2…Lohbeck, David, "Safety Design and Certification For Test and Measurement Products, Part 2," Evaluation Engineering, November 2003, www.evaluationengineering.com/archive/articles/1203prodsafe.htm.

※3…Lohbeck, David, CE Marking Handbook: A Practical Approach to Global Safety Certification, August 1998, Newnes, www.books.elsevier.com.

※4…Lohbeck, David, "Safety Certification for the T&M World," Test & Measurement World, August 2004, www.reed-electronics.com/tmworld/article/CA439351.

※5…Lohbeck, David, "The CE marking: separating fact from fiction," EDN, Jan 2, 1997, pg 133, www.edn.com/archives/1997/010297/01df_06.htm.

※6…Lohbeck, David, "Safety Design and Certification For Test and Measurement Products, Part 1," Evaluation Engineering, November 2003, www.evaluationengineering.com/archive/articles/1103prodsafe.htm.

※7…Lohbeck, David, "A review of CE Marking," Design News, Sept 23, 1996, pg 212, www.designnews.com/article/CA151162.

※8…Lohbeck, David, "Walk the Path to the European CE Marking," Test & Measurement World, November 1995, pg 23.


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