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イメージプレーン手法の活用Signal Integrity

» 2006年10月01日 00時00分 公開
[Howard Johnson,EDN]

 米Capstone Visual社に勤める知人が、「2層プリント回路基板上に高速ネットワーク信号の配線を行いたい」との相談を持ちかけてきた。その基板は、厚さ62mil(1.57mm)のFR-4素材でできており、ソリッドなプレーン層(十分に広い面状のグラウンド層。いわゆる「ベタグラウンド」)は存在しない。2本の配線間のスキューを抑えるために、知人は上層の配線を下層の配線のちょうど真上に配置した。この構成で、差動インピーダンスが100Ωとなるような配線幅を計算する方法を知りたいということである。

 この問いに答える前に、完璧な伝送線路を得るには、断面形状が一定に保たれた差動構成の配線にする必要があるという点に気付いたことに対し、知人に拍手を送りたい。

 一言で差動構成といっても、実際にはさまざまな配線構造が考えられる。しかし、2本の配線を隣接して左右に配置するか、あるいは上下に配置すれば、後はインピーダンス、遅延、減衰、クロストークについて考慮するだけだ。知人の配線は、そのネットワーク全体の長さに対して十分に短いため、配線遅延と配線損失(減衰)は問題にはならない。従って、考慮しなければならないのは、インピーダンスとクロストークの2つである。

 まずインピーダンスについて考える。この構成の場合、「イメージプレーン手法」を用いることで、差動インピーダンスを計算することができる。

図1 イメージプレーンのモデル 図1 イメージプレーンのモデル 対称性を持った差動構成には、それを2分割するゼロ電位面が存在する。

 図1は、2つの丸い導体の断面図とその周辺に生じる電気力線を表している。つまり、これは上下に配置した差動ペア配線をモデル化したものとなっている。上の配線の電位は正で、下の配線の電位は負である。このとき、2つの配線の形状は丸でなくてもよい。どのような形であっても、似たような図となる。配線の周囲は空気であるとしよう。

 電気力線は、各配線の表面から垂直に突き出て、両側に膨らんでいる。図では数本しか示していないが、実際には多くの電気力線が上の配線から下の配線へと直接伸びていく。いずれの電気力線も、その中央の点の電位は、正確に0Vとなる。

 図を2等分する緑の点線が、イメージプレーン(仮想プレーン)である。この場合、上下に配置された差動配線がきちんと平衡を保っていれば、イメージプレーン上の電位はどこでも常に0Vとなる(ゼロ電位面)。つまり、対称に配置された差動配線の場合、0V電位のプレーン層が中央に物理的に存在しても存在しなくても、等価的な構造になるということである。

 プレーン層を持たないプリント基板上に上下に配置された差動配線の特性インピーダンスを計算するには、2-Dフィールドソルバ(解析ソフトウエア)に擬似的な情報を入力すればよい。つまり、上下の配線の中央に、ソリッドなプレーン層が存在すると仮定するのである。上層の配線とプレーン層(つまり、通常のマイクロストリップライン)の特性インピーダンスを計算し、その値を倍にすれば、完全な差動インピーダンスが得られる。

 以上のようにしてイメージプレーン手法を用いることにより、差動配線の特性インピーダンスは簡単に計算できた。では、クロストークについてはどうなのか。

 知人の配線にはソリッドなプレーン層が存在しない。そのため、周辺の信号などからのクロストークの影響を受けやすい。その影響のせいで、知人の回路はうまく動作しないかもしれない。しかし、少なくとも反射の問題は生じないはずだ。

<筆者紹介>

Howard Johnson

Howard Johnson氏はSignal Consultingの学術博士。Oxford大学などで、デジタル・エンジニアを対象にしたテクニカル・ワークショップを頻繁に開催している。ご意見は次のアドレスまで。www.sigcon.comまたはhowie03@sigcon.com。


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