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信号発生器を選ぶ、使う何年たっても変わらないその秘訣(1/3 ページ)

信号発生器を購入する際には、データシートを注意深く読み解く必要がある。印象的な機能を持ち、魅力的な価格で提供されるたくさんの製品の中から、自分の用途に合ったものを的確に選び出すのは意外に困難なことだ。そこで本稿では、信号発生器の選び方、さらには使い方においてポイントとなる事柄をまとめてみたい。

» 2006年12月01日 00時00分 公開
[Dan Strassberg,EDN]

空白の8年間?

 筆者は8年前、本誌米国版(EDN)に信号発生器の選び方を解説した記事を投稿した*1)。その時点から、信号発生器で用いられる技術や製品には変化がないといえばもちろん語弊があるし、製品ベンダーは不当な批評だと感じるだろう。

 実際には、この分野にも多くの変化があった。最も明白な変化は、1998年に記事で取り上げたメーカー数社が業界から姿を消したことである。ただし、その製品ラインのほとんどは、そのビジネスを吸収した企業から今でも提供されている。また、1998年当時に比べ、2006年時点での各社製品の機能は改善され、性能も向上しているように見える。さらに、同じ値段であれば、当時よりも優れた波形生成機能を備えた製品を入手できる。

 こうした事実があるのにもかかわらず、信号発生器の基盤となる技術は不思議なほど変わっていない。新しい機能がいくつか追加されているのは確かだが、2006年時点の多くの信号発生器と1998年時点の製品のブロック図はほとんど同じなのである。また、8年前と変わらぬ事実は、信号発生器を購入する前に、その仕様や操作方法を理解しておくことが非常に重要であるということだ。

信号発生器の基本仕様

図1 米Fluke社の「Fluke291」 図1 米Fluke社の「Fluke291」 Fluke291は、1/2/4チャンネルのDDS方式信号発生器シリーズの1つである。100Mサンプル/秒と高いサンプルレートに対応しているのにもかかわらず、実行性能がはるかに低い製品に近い価格を実現している。

 本稿で取り上げる信号発生器は、すべてデジタル技術を基盤としてアナログ信号波形を生成する。オシロスコープの分野では、すべてがアナログ回路で構成された製品もまだ製造されているが、その多くは主に教育機関で使われる低価格の製品である。それと同じことが、アナログ方式の信号発生器にもいえる。デジタル技術を基盤技術とする信号発生器の種類は、数メガヘルツ程度の正弦波出力が可能なものから、500MHz程度の正弦波出力が可能なものまで広範囲にわたる。ただし、一般的に出力正弦波の周波数の上限値は50MHz〜80MHz程度である。方形波の最大周波数は正弦波の最大周波数と同じであることが多いが、方形波/正弦波以外の波形の最大出力周波数は通常それ以下だ。

 高品質な信号発生器としては、1000米ドルより少し高いくらいのものから、5万米ドル以上もする最高性能のものまで、さまざまな製品が存在する(図1)。帯域幅が非常に広く数百メガヘルツもの信号を生成可能であるものも含め、本稿で取り上げる信号発生器は、通常、ベースバンド帯の機器として扱われる。ただし、周波数が80MHz以上の信号を生成する製品の多くは、RF帯の信号発生器に分類されることもある。RF帯の信号発生器はベースバンド帯の信号発生器とは異なり、変調/非変調キャリアの両方を生成できることが多い。

 また、デジタル方式の変調が可能なベースバンド帯の信号発生器は、I(in-phase:同相)チャンネルおよびQ(quadrature:直交)チャンネルの2つの独立した出力を生成する必要がある。なぜなら、多くのデジタル変調では、RF信号のI/Q成分をそれぞれ別々に制御する必要があるからだ。

代表的なアーキテクチャ

 信号発生器には、いくつかの代表的なアーキテクチャが存在する(図2)。おそらく、最も一般的(ただし、認知度は必ずしも高くない)なアーキテクチャは、SFG(synthesized function generator)、つまりファンクションシンセサイザである。SFGは、DDS(direct digital synthesis:ダイレクトデジタル合成)をうまく利用したものだ。より知名度が高いのは、AWG(arbitrary waveform generator:任意波形発生器)またはARBと呼ばれるアーキテクチャである。ARB/AWGアーキテクチャがよりよく知られている理由は、それがブロック図レベルで理解しやすいものであるからだろう。ただし、詳細な実装レベルでは必ずしも理解しやすいわけではない。

図2 信号発生器のブロック図 図2 信号発生器のブロック図 (a)が真の任意波形ジェネレータ(AWG)のブロック図である。SFGのブロック図もこれによく似ているが、SFGには通常、マイクロプロセッサシステムがなく、信号のコンディショニング処理ブロックに比較的簡単なフィルタを使用する。固定波形に対応したファンクションジェネレータ(b)では、サンプルクロック発生器はDDSベースでもよい(出典:パキスタンWavetek社)。

 比較的安価な製品であっても、SFG/AWG両方のアーキテクチャを採用し、各種信号の発生に最適だと思われるアーキテクチャを選択して使い分けているものもある。イスラエルのTabor社によると、同社の「Wonder Wave」シリーズ(図3)は、AWGとSFG双方の優れた機能がそのまま利用できる。しかも、一般的にAWGよりも安いとされるSFGに近い価格で実現されている(表1)。そのうたい文句を聞くと、アーキテクチャとして斬新なものが採用されていることを想像するが、実際にはDDSベースのクロックを用いたAWGそのものである。

 代表的な任意波形発生器として、ほかには米BK Precision社の「4070A」(図4)などが挙げられる。

図3 Tabor社の「WW1281」 図3 Tabor社の「WW1281」 400MHzの帯域幅や、大容量メモリーなど、真のAWG機能を誇る製品。Tabor社によると、この製品ファミリは、SFGとAWGの欠点を除去して利点のみを提供していながら、価格はSFGとほとんど変わらないという。
図4 BKPrecision社の「4070A」 図4 BKPrecision社の「4070A」 帯域幅が21MHzのDDSベース製品。適度な価格で多くの魅力的な機能を提供する。
表1 信号発生器のアーキテクチャ 表1 信号発生器のアーキテクチャ ※クリックすると拡大します。

脚注:

※1…"Strassberg, Dan, "Choosing a waveform generator: The devil is in the details ," EDN, Sept 1, 1998, p 75.

※2…"Direct-Digital Frequency Synthesis: A Basic Tutorial," Osicom Technologies Inc,

www.meretoptical.com.

※3…"The ABCs of Arbitrary Waveform Generation," Agilent Technologies, Publication No. 5989-4138, http://cp.literature.agilent.com/litweb/pdf/5989-4138EN.pdfNovember 2005.

※4…"XYZs of signal sources," Tektronix Inc, Publication No. 76W_16672_3, www2.tek.com/cmswpt/tidetails.lotr?ct=TI&cs=Primer&ci=2323&lc=EN, June 2005.


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