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ワイヤレス電力伝送技術最新研究(1/2 ページ)

配線を介さずにさまざまな電気製品に電力を伝送する――この長年の夢は実現可能なのだろうか。本稿では、実用化済みのものから研究段階のものまで、ワイヤレス電力伝送にかかわる最新技術を紹介する。

» 2007年10月01日 00時00分 公開
[Margery Conner,EDN]

「夢」は実現するか

 電源コードや壁のコンセントを不要にする技術があれば、電気製品に対して確固たる販売力をもたらすことができるはずだ。しかし、現時点では、ワイヤレスでの電力の伝送によって利用可能な機器はほとんど存在しない。

 ワイヤレス電力伝送の恩恵を受けるアプリケーションにはさまざまなものがある。例えば、携帯電話機やMP3プレーヤなどの民生機器から充電用のコンセントや電源アダプタを排除できれば便利だ。また、低消費電力センサーネットワークは、頻繁な電池交換の煩わしさから解放されるだろう。あるいは、患者の体内に埋め込まれた医療機器であれば、電池を交換するために手術を行う必要がなくなる。

 では、実際に電源コードがなくなる日は近いのだろうか。そして、それを実現する技術にはどのような選択肢があるのだろうか。また、それらの選択肢における電力レベル、周波数、機器の配置に関する制約はどのようなものになるのだろうか。さらには、そうして実現されたワイヤレス電力は人体に害を及ぼさないのだろうか。

インダクティブカップリング

 ワイヤレス電力伝送技術の1つであるインダクティブカップリングは、充電式電動歯ブラシを使っている人にとってはなじみ深いものかもしれない。電動歯ブラシには、充電器との間に導電性の接点がないものがある(図1(a))。この種の電動歯ブラシの場合、壁のAC電源に接続された充電器の底部にトランスの1次コイルがあり、それが歯ブラシ内の2次コイルに作用する。歯を磨いた後は先端のブラシの部分をはずし、柄の部分を充電器に置く。その際、1次コイルと2次コイルがぴったりと対応するように、両コイルの物理的な配置がx、y、z座標上で固定されるようになっている(図1(b))。この正確な配置が重要である。1次側と2次側が少しでもずれていると、電力伝送の効率が低下してしまうのだ。

図1 充電式電動歯ブラシ 図1 充電式電動歯ブラシ (a)の充電式電動歯ブラシでは、歯ブラシと充電器との間には導電性の接点はない。エネルギは、インダクティブカップリングによって伝送される。充電器側の断面(b)を見ると、トランスの1次コイルがある。トランスの効率を最大にするために、歯ブラシを正確に配置することが必要である。

 携帯電話機メーカーも、充電器ではなく、これと同様の原理による充電方式を利用することができる。しかし、洗面所に置きっぱなしの歯ブラシとは異なり、ポケットに収まるサイズでなければならない携帯電話機の中に設けるには、2次トランスは大きすぎる。電動歯ブラシにインダクティブカップリングを利用する主な理由は、接続を容易にするためではない。電動歯ブラシはぬれた環境に置かれることから、接点を外部にさらさない方法を必要とするためである。

 米Fulton Innovation社は、距離を空けずに正確に配置しなければならないというインダクティブカップリングの制約を取り除くために、「アダプティブインダクティブカップリング」という技術(eCoupled技術)を開発した。電力回路が2つのコイルの最適な位置からのずれを検知し、その構成での最良な動作ポイントを検出するというものである。回路の負荷の変化によってインピーダンスが変化し、それにより回路の共振周波数を変化させるのだ。Fulton Innovation社の高度技術担当ディレクタであるDave Baarman氏によると、この技術により最大1400Wの電力が得られることをテスト済みであるという。

 さらに同社は、トランスのカップリングデバイス(コイル)以外の負荷の変化にも対応するデジタル制御ループを採用した。Baarman氏によると、「アダプティブインダクティブカップリングとデジタル制御ループの組み合わせにより、デバイスがx、y座標上を数インチ、z軸上を1インチ弱移動しても、電力回路はデバイスへの電力を維持することができる」という。

 この1インチ弱という制約は、それほど大きなものではない。Baarman氏は、「MP3プレーヤや携帯電話機において、(z軸方向に)必要な距離はごくわずかだ」と説明する。また、機器を充電部に置いたときのx、y座標の配置は磁石によって正確さを保つ。

 Fulton Technologies社は、2002年から同社浄水システムにおける電気機器への電力供給に同技術を利用している。また、同社は、米Motorola社、米Visteon社、米Herman Miller社にアダプティブインダクティブカップリング技術をライセンス提供していると発表しているが、これら3社からはまだ同技術を利用した製品は発表されていない。しかし、Herman Miller社のコーポレートコミュニケーションズマネジャであるMark Sherman氏によると、「2008年初めには、これに関する発表を行う予定だ」という。

RFエネルギ伝送

 インダクティブカップリングの欠点は、電力レベルは比較的高いものの、通信距離が短いことである。ワイヤレスセンサーネットワークなどの用途では、電力が小さくても構わないが、電力の伝送距離は長いほうが望ましいだろう。そのような用途に対しては、RFエネルギ伝送のほうが適しているかもしれない。

 米Powercast社は、900MHzで動作し、エネルギの配信と受信が可能なトランスミッタの「Powercaster」とレシーバの「Powerharvester」を開発した(図2)。通信距離は数メートルで、電力レベルは最大100mWだ。PowercasterとPowerharvesterの価格は、それぞれ5米ドル未満である(量産価格)。

 電力レベルが低い点は、用途によってはさほど制約にはならないはずだ。ワイヤレスセンサーネットワーク上のノードで用いられる機器などでは、大きな電力が必要な時間の後に、長時間のスリープ状態が続く。このようなケースであれば、機器に充電池を持たせ、RFエネルギ伝送レシーバをトリクル充電に利用すればよい。

 ワイヤレスセンサーネットワークにPowercast社製品を用いた例としては、米ピッツバーグ動物園/PPG水族館のペンギン施設にある温度/湿度監視ネットワークがある。その低温で水に囲まれた環境にはケーブルを引くことができず、通常の電力は利用できなかった。当初はノードの電源としてアルカリ電池を用いたセンサーネットワークを敷設していたが、電池は数週間で切れてしまう。Powercast社は、ノードにPowerharvesterと電力回路を加え、パッチアンテナを持つPowercasterを、レシーバから30フィート(約9.1m)離れた施設の天井に設置した。トランスミッタからのパルスにより2分ごとに起動するセンサーノードが温度、湿度、変化に関する情報を送信し、再びスリープ状態に戻るという仕組みだ。RFエネルギ伝送による連続的な充電により、充電式アルカリ電池は常に3Vの状態を維持することができる。

図2 RFエネルギ伝送の仕組み 図2 RFエネルギ伝送の仕組み RF通信プラットフォームであるPowercastは、トランスミッタのPowercasterとレシーバであるPowerharvesterで構成される。出力電力は100mW未満だが、ワイヤレスセンサーノードや小さな携帯型民生機器の内部電池を充電するには十分である。
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