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» 2008年02月01日 00時00分 UPDATE

4GワイヤレスでICアーキテクチャはどう変わる? (1/2)

「4G」とは、第4世代のワイヤレスサービスを表す言葉である。しかし、その実体は漠としており、人によって思い浮かべるものはさまざまだ。当然、それを実現するICがどのようなものになるのかは現時点では明確ではない。従来の延長ではなく、まったく新しいアーキテクチャが必要となる可能性もある。

[Ron Wilson,EDN]

混迷する「4G」の定義

 第4世代ワイヤレスサービス、すなわち「4G」の実体は現時点では明確ではない。4Gは、一般消費者に対してまったく新しいモバイルサービスをもたらす可能性がある。その半面、電子メールの添付ファイルをよりうまく処理できる程度のものになるという可能性も否定できない。

 また、4Gはまったく新しいICアーキテクチャの源となる可能性がある。しかし、4GのベースバンドICは、実際には今日のそれが単に進化しただけのものになるのかもしれない。2015年の時点でICの世界における大きな設計課題となるのかもしれないし、この課題が現実のものになるのはわずか数年後のことかもしれない。

 4GがIC設計にもたらすであろう影響を理解するには、この用語がどのような意味で使われているのかをもう少し深く知る必要がある。また、4Gを実現する際に生じるシステム設計面での課題を理解し、それらの課題に対してどのように対処するつもりなのかをシステム設計者に示してもらう必要もある。

 4Gがもたらす影響に関して異なる見解が生じる理由はただ1つである。それは4Gという言葉の定義が明確でないことだ。実際、米Texas Instruments社CTO(最高技術責任者)のBill Krenik氏は、「4Gについては、言葉の定義から始める必要がある」と指摘している。同氏によれば、「4Gという言葉を取り巻くあらゆる議論と混乱によって、その意味が狭く解釈されてしまっている」という。

 本来の4Gは、真の意味でのユビキタスワイヤレス環境を実現するものであるはずだ。Krenik氏は「そのような接続性によってサポート可能な、対話型で、位置ベースで、メディアリッチなサービスであるとのイメージを抱いている人が多い」と述べる。このイメージでの4G携帯機器には、地図データや、建物の名称、興味の対象である場所、目的地までの経路などが連続的に表示される。また、アドレスファイルに登録された友人を訪ねるために、その場所に向かう道路の動画をリアルタイムに見ながら、見知らぬ町を歩くことができる。その画面は、マルチメディアプレーヤのビデオゲームに切り替えることができ、ほかのプレーヤのアバターやエイリアン、武器の3D画像などが表示される。さらには、仮想的な戦闘によるダメージの具合をリアルにレンダリングするといったことが可能になる。このようなイメージを抱いている人が多いということだ。

 それに対し、システムを実装しなければならない設計者らは、4Gをより具体的なものとしてとらえていることが多い。Krenik氏は、「当社は、4Gという言葉を独断的に定義しようとはしていない」と述べる。「そうではなく、HSPA+(high speed packet access plus)、WiMAX、LTE(long term evolution)といった技術的な名称で区別している」(同氏)という。その上で、GSM(global system for mobile communications)通信の展開と、3Gへの進化の促進を担う国際電気通信連合(ITU:International Telecommunication Union)の役割にも言及し、「ITUが新たに規格を定めるまで、それ以外のすべてのものは1つの見解にすぎない」(同氏)と述べた。

 また別の技術者らは、より定量的な見方をする。フィンランドのNokia Siemens Networks社で無線製品シニアマネジャを務めるAlan Brown氏は、「3GPP(Third Generation Partnership Project)によるLTEの考え方に従い、4Gの性能は『最大スループットが民生モバイル機器では100メガビット/秒、ノート型パソコンなどでは1ギガビット/秒』と定義している」と述べる。このように見解が異なるため、4G携帯機器を実現するベースバンドICがどのようなものになるのかについては、それぞれに異なる考え方が生じている。

ベースバンドICの課題

 LTEが目標としている4Gの最もわかりやすい特徴は、モバイル機器では少なくとも100メガビット/秒の下りデータ速度が実現されるというものである。米Freescale Semiconductor社シニアフェロー兼バイスプレジデントのKen Hansen氏は、「この点について言えば、ベースバンド部は、現在UMTS(universal mobile telecommunications system)で使用しているものと機能的にはあまり変わらない」と述べる。このブロックには、サンプルレートに対応するためのハードウエアアクセラレータや、MAC(media access control)を実現するCPUコア、セキュリティエンジン、ホストインターフェースなどが存在することになる。

 サンプルレートで無線部から入力されたデータは、アナログからデジタルに変換され、デジタルフロントエンド処理を経た上でOFDM(orthogonal frequency division multiplexing:直交周波数分割多重)信号としてFFT(fast fourier transform:高速フーリエ変換)エンジンへと送られる。周波数領域の信号に対してさらにデジタル処理が施され、それが復調器へと送られる。そこでは、各キャリアの64QAM(quadrature amplitude modulation)信号がデコードされ、各アクティブキャリアから1つの符号が生成される。その符号はターボデコーディングによって復号される。

 このアーキテクチャでは、3Gと4Gの違いは「量」であり「種類」ではない。米QUALCOMM社のCDMA技術部門で製品管理担当シニアディレクタを務めるPeter Carson氏は、「3Gでは、1Hz当たり約1ビット/秒の性能が実現されている。4Gで100メガビット/秒のスループットを達成するには、より広い帯域に対して1Hz当たり少なくとも3〜4ビット/秒のかなり高い性能が必要になる」と指摘する。この場合、実際には例えばUMTS900で使用される5MHzのチャンネルと比較して20MHzとより広いチャンネル上にキャリア周波数が存在することになる。さらには、MIMO(multiple input multiple output)構成において複数のアンテナを使用する必要があるかもしれない。

 現在、MIMO構成はチャンネル等化のために利用されることが多い。つまり、2本のアンテナからの信号を合成して可能な限り最良の受信を行う目的で用いられている。しかし、4GでMIMOを用いる目的はそれとは異なる。つまり、ビーム形成アルゴリズムを利用して、基地局のアンテナと受信機のアンテナの各ペアを実質的に別々のチャンネルに割り当てることにより、実効帯域幅を2倍にすることを目的としている。Freescale社のHansen氏は、「複数の受信機を使用すれば、2本のアンテナで約1.75倍のデータ伝送速度を実現できるとの研究結果が得られている」と述べている。

 こうしたすべてのことを実現するためには、随所で新たな集積回路が必要となる。サンプルレートが高くチャンネル幅が広いということは、より大型でより消費電力の多いA-Dコンバータと、高速で広帯域幅のFFTエンジンが必要だということを意味する。それよりも大きな問題は、最大100メガビット/秒のスループットを得るためには、高速シンボルレートのプロセッサ、より大容量のメモリー、より高速なMAC用プロセッサが必要であるということだ。Hansen氏は、「MAC部への入力データの伝送速度は10倍になり、一部の処理における許容遅延は1/10となる。しかし、消費電力の観点から、MAC用のハードウエアはそのビットレートよりもずっと低い周波数で動作する必要がある。これは大きな検討課題だ」と述べる。

 QUALCOMM社のCarson氏もこの意見に同意する。「最大データ伝送速度がそのままチップサイズに影響する。システム設計者が自問自答しなければならないことの1つは、規格として定めるデータ伝送速度が、現実のICを用いて実際の平均データ伝送速度として実現可能かどうかということだ」と同氏は語る。

 チップのコストは考慮しないとしても、この速度を達成するためにはベースバンド部のアーキテクチャをかなり進化させる必要がある。QUALCOMM社のCarson氏によると、「当社の『Snapdragon』のアーキテクチャは、現時点でも30〜40メガビット/秒のデータ伝送速度までならば対応可能だ」という。この速度ではLTEの仕様を満たせないことになるが、LTEが実際に登場するのはまだ先のことである。実用化までにはかなりの時間がかかるという意見もある。それまでに、32nmのCMOSプロセスが開発者らに救いの手を差し伸べてくれるかもしれない。

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