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4GワイヤレスでICアーキテクチャはどう変わる?(2/2 ページ)

» 2008年02月01日 00時00分 公開
[Ron Wilson,EDN]
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新たなアーキテクチャ

 アーキテクチャを進化させる上で最初に課題となるのはMIMOだろう。ドイツInfineon Technologies社通信ビジネス部門のThuyen Le氏は、「MIMOはワイヤレス接続の品質を高めるために用いられる。これを送信機と受信機のダイバーシティに用いてフェージングに対処するという考え方がある。もう1つの考え方は、空間多重においてフェージングを利用し、複数の送信アンテナ上に独立したデータストリームを同時に送信できるようにすることでデータ伝送速度を高めることだ。しかし、後者の考え方は、チャンネルマトリックスをどれだけうまく調整できるかということに依存する。いずれにせよ、どちらの考え方においても、高いデータ伝送速度を達成するためにはMIMOが必須になるだろう」と説明する。

 エアインターフェースの設計においては、チャンネル等化の性能を向上させるために受信アンテナをペアで利用する。そのため、空間分割多重によって実際に複数のチャンネルを生成することを考えると、無線部における冗長的なハードウエアの数がかなり増加することになる。各アンテナには、専用のアナログフロントエンドとデジタルフロントエンドが必要となり、無線部ではデジタルベースバンド部のために冗長構成またはスループットを向上させるための構成が必要になる(図1)。ただし、この要件自体が理由でアーキテクチャの改革が必須というわけではない。これまでとほぼ同じアーキテクチャでも構わないが、処理能力を上げなければならないということだ。

図1 受信器の構成例 図1 受信器の構成例 Infineon社の構想では、LTEにおける受信機の構成はこの図のようなものになる。同一の2本のアンテナを用いたMIMOにより、複雑な処理が必要になることが見てとれる。

 4Gのアーキテクチャをどのように構成するにしても、問題となるのは、アプリケーションレベルの処理能力を飛躍的に増加させるために、現在の10倍もの最大データ伝送速度に対応しつつ、消費電力を抑えなければならないということである。米国の調査会社Forward Concepts社の社長を務めるWill Strauss氏は、「4G携帯機器は最終的には現在の3G携帯機器の100倍の演算能力を必要とするだろう」と予測する。その上で同氏は以下のように語る。

 「誰もが32nmプロセスに大きな期待を抱いているが、実際にはプロセスの微細化が進んでも消費電力はそれほど減少しない。なぜなら、ダイナミック電力を抑えてもリーク電力が増加してしまうからだ。結局、新しいアーキテクチャと電力管理機構を開発するしかない。さもなくば、予備の電池を持ち歩くしかなくなる」。

 新しいアーキテクチャの開発を促す要因はほかにもある。それは、LTEでは単に最大データ伝送速度が定められるだけであることと、投資家らに喧伝される4Gモバイル機器の空想的な使い方との間に、大きな隔たりが存在することだ。

「進化」ではなく「創造」を

 ベルギーIMEC(Interuniversity Microelectronics Center)のサイエンスディレクタを務めるLiesbet Van der Perre氏は、以下のように述べる。

 「4Gの明確な定義が存在しないことは事実だ。しかし、いずれにせよ、現時点で実現可能なレベルよりもずっと高いモバイル性やデータ伝送速度を実現するヘテロジニアスなネットワークを想定しなければならないと考えている。今日のモバイル機器では実質的に2メガビット/秒未満の伝送速度しか実現されていない。しかし、4Gでは、実際のスループットが10〜20メガビット/秒でなければならない。例えば、品質の良い映像を提供するには、最大速度ではなく、少なくとも10メガビット/秒の実効速度が必要となる。3Gにおいて期待外れだったのは、品質の良い映像を提供するに十分な実効データ伝送速度が実現できなかったことだ」。

 Van der Perre氏を含む研究者らは、今日のワイヤレスネットワークよりも、より動的な環境を想定している。「今日の携帯機器向けICベンダーは、30ものエアインターフェース、複数の非連続的なチャンネル、同時に動作する多種多様なサービスなどに対処している」と同氏は述べる。しかし、実際に1台の携帯電話機がサポートするのはこれらの機能のうちほんの一部なので、その複雑さの大部分は解消されるであろう。

 将来的には、モバイル機器は複数の基地局からの複数のエアインターフェースを同時に利用することになるのかもしれない(図2)。移動中の携帯機器の位置と方向にリアルタイム映像を対応させるのに十分な実効帯域幅と、その時点における処理に必要な分だけの帯域幅、符号化能力を確保できるような電力効率を実現するためだ。4Gでは、連続したデータ、映像ストリーム、制御情報、キーボードやカメラからの情報のすべてが別々のサービスのために伝送され、リアルタイムに切り替えられる可能性がある。例えばカメラが静止していれば、H.264の動き補償においてカメラをゲームサーバーに接続するのに必要なビットレートは著しく減少する。従って、この場合、無線コントローラはより低いビットレートを持つエアインターフェースを選択できることになる。

図2 複数のエアインターフェースの利用 図2 複数のエアインターフェースの利用 IMECの研究者らは、帯域幅の変更が必要になったら、瞬時にエアインターフェース間を切り替えてチャンネルの状態を変更するような、実行時に再構成が行える方式を考案中である。

 このような構想に対し、Van der Perre氏は「今日のハードウエア処理パイプラインを専用ブロックとともに利用するのも1つの手だ」と述べる。同氏は、リアルタイムな再構成とタスクマッピングが行えるプロセッサと、構成可能なネットワークなどによるモジュラ構成のクラスタを想定している。このようなアーキテクチャでは、迅速な電圧周波数スケーリングや、アイドル状態のブロックに対する適度に細粒度なパワーゲーティング、ソフトウエアとハードウエアとの間のアルゴリズムの迅速な移行など、積極的な電力管理手法の適用が可能になるはずだ。実際、32nmプロセスが登場したとしても、この手法こそが、4G携帯端末の電力効率に対する要求を満たすための唯一の方法かもしれない。

 これらのうちの多くの要素は、おそらくVan der Perre氏の構想を反映したIMECのさまざまな研究プロジェクトにおいて具現化されつつある。また、実際にはこうした構想は決して独創的なものではない。ベンダーらは、公には独自のパイプラインベースのハードウエアの開発に専念しているとしている。しかし、ある業界情報筋によると、いくつかの主要なチップベンダーが、4Gにおける課題に対して、大規模なマルチコアアーキテクチャを追求する研究チームを発足させ、かなりの労力と資金を投入しているという。

 ここで問題となるのは、大規模マルチコアアーキテクチャに関する一般的な課題ではない。ビットレートの高いベースバンド処理の多くは、並列的なものであるとされている。単にデータを分割することによってタスクを分散するのは困難なことではない。しかし、システム制御、動的負荷分散、そしておそらく最も重要な電力管理は、新しく複雑なものであり、設計の成功には欠かせない要素となる。

 このような観点から、4Gは実は発展的なものではなく、まったく新しい形式のリアルタイム組み込み処理を具現化していくことによって創造されるものだと考えられる。

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