メディア

進化を続けるリチウムイオン電池新材料の採用でポータブル電源、EV用途に対応可能に(2/3 ページ)

» 2008年03月01日 00時00分 公開
[Margery Conner,EDN]

自動車への適用

 リチウムイオン電池の新たな用途として最も注目を集めているのは自動車分野であろう。すべての電池メーカーが、巨大な可能性を秘めたEV(electric vehicle:電気自動車)、HEV(ハイブリッドEV)、PHEV(プラグインHEV)の市場に着目しているはずだ。

 自動車における最も重要な電池の特性は安全性である。携帯電話機やノート型パソコンでも電池パックが過熱したり、発火したりすることは許容できないが、EVの場合、何十キロワットにも上るエネルギレベルでの爆発や、その結果生じる大惨事につながる可能性がある。そのため、リチウムイオンコバルト電池は、電力容量の高さは魅力だが、熱暴走の可能性が高いことから、主流のEVやHEVには使用されていない。ただし、1回の充電で200マイル(約322km)以上の走行と、4秒間で60マイル(約96.5km)までの加速が可能な米Tesla Motors社の「Roadster」は例外である。この電気自動車は、リチウムイオン電池を利用しているが、電力制御機能と監視機能が強化されている。また価格が9万5000米ドル以上のハイエンド品であり、一般消費者向けのものとは言えない*2)

 EVは、完全に電池のみによってエネルギ蓄積を行い、電池によってその電動の車輪を駆動する。一方、HEVは内燃エンジンと電池動作のモーターを組み合わせる。電池を迅速に充放電したいという要求があることから、HEVとPHEVには、ノート型パソコン向けの電池パックのようなものよりも、ポータブル電源のようなもののほうが適していると言える。PHEVでは、電力容量が大きければ大きいほどよいパソコンとは対照的に、最小限の電力容量が満たされていればよい。言い換えれば、PHEVにおいては、エネルギ密度の優先度は低いと言える。

図1 GM社の「ChevyVolt」 図1 GM社の「ChevyVolt」 電池によって40マイル(約64km)の走行距離を実現する。

 米GM(General Motors)社のPHEVコンセプトカーである「Chevy Volt(以下、Chevy)」は、電池によって40マイル(約64km)の走行距離を実現する(図1)。米国における日常的な走行距離はほとんどこの範囲内であるため、Chevyではほとんど電池のみで事足りるということになる。この走行距離を実現するために、Chevyは電力容量が16kWhのリチウムリン酸鉄電池を搭載している。ほかのほとんどの電池もそうだが、リチウムイオン電池は、充電の状態が一定の範囲内にある場合に最も効率良く動作する。Chevyでも、電池を完全に充電し、完全に放電するのではなく、ACプラグによって理論的な最大容量の80%まで充電し、放電量を30%までとすることで40マイルの走行距離を実現する。電池が30%まで放電すると、自動車の内燃エンジンが起動するが、エンジンは直接車輪に電力を供給するのではなく、電池が30%の充電状態を維持するための電力を生成する*3)。この種の自動車では、電力容量よりもパワー密度が重要である。リチウムリン酸鉄電池は、十分に高いパワー密度を提供し、何千回も迅速に充放電可能であることから、PHEV向けの技術に適していると言える

 同様に、HEV向け電池においても電力容量は最優先の要求ではなく、より大きなパワー密度を提供できることが求められる。都市部を走行する場合には、電池は常に充放電を繰り返しており、長い走行距離において電池のみに依存することはまれである。HEVの身近な例としては、トヨタ自動車の「プリウス」が挙げられる。これは、今日最も普及している一般向けハイブリッドカーだ。プリウスは、パラレル方式を採用しており、電池または内燃エンジンのいずれかが車輪に電力を供給するようになっている。実際には、電池は主にプリウスの加速/減速時の補助電力またはハーベスタとして機能する。電池のみのモードで走行する場合には、約2マイル(3.23km)分しか電力を供給できない。このようなハイブリッドカーは、電池を完全に充電して長距離の走行に利用するのではない。電池を頻繁かつ急速に充放電することになるので、電池の特性としては、電力容量よりもパワー密度のほうが重要である。プリウスは、2004年の時点では充放電を急速に繰り返す特性が最良であったニッケル水素金属電池を使用している。

 トヨタは、電池の新技術に関して現状にとどまっているわけではない。しかし、リチウムイオン電池の開発に関し、GM社ほど多大な自信を抱いているわけでもないようだ。トヨタは2007年に、リチウムイオン電池搭載のハイブリッドカーを2009年に発売すると発表した。しかし、後にリチウムイオン電池の安全性に関する懸念から、発売を2011年に延期することとした。同社は、研究対象としているリチウムイオン電池の材料について詳細は発表していないが、同社の安全性に関する発言は、リチウムイオンコバルトが少なくとも調査中の材料の1つとして含まれていることを示唆している。この材料は、現在トヨタにハイブリッド電池パックを供給している松下電器産業の強みでもある。リチウムイオンコバルト電池の利点は、電力容量ではなくパワー密度に優れる点である。トヨタはPHEV電池開発においてはGMに遅れをとっているのかもしれない。

 リチウムリン酸鉄電池のベンダーは、EVとHEVの電力容量とパワー密度に対する要求にさまざまなバリエーションがあることに気付いている。例えば、A123Systems社は、1種類の電池ですべてに対応しようとはしておらず、2種類の電池を発表している。その1つである高電力電池「32113 M1 Ultra」はHEVをターゲットとする。もう1つの「32157 M1 HD」はそれとは異なる電極を用いたもので、PHEVにおいて電池のみで長い走行距離を実現できるようになっている。どちらも、自動車向けに設計された電池パックとして、10年以上の使用と、15万マイル(約24万1042km)以上の走行を可能にする。A123Systems社は、2009年に製造開始予定であるGM社PHEVの開発プログラム「Saturn Vue」に電池を提供している。その電池は夜間に充電が可能なものだが、EV走行距離はわずか10マイル(約16km)になる予定である。

電池管理技術の進化

 ポータブル電源において変化したのは、材料や主要な特性だけではない。それ以外の部分にも改良が施され、ますます高度なものになっている。例えば、電池残量の予測は、長くリチウムイオン電池の“アキレス腱”的な存在であった。リチウムイオン電池の放電特性は、予測が非常に困難なのである。リチウムイオン電池の残量は、その放電率や、温度、使用年数などの要因によって変化するため、どれだけ残っているのかを知ることが難しい(図2)。この問題に対処するために、米Texas Instruments社は2007年に、同社の「Impedance Track」技術を活用した電池残量計測IC「bq27500」を発表した。同製品では、電池の劣化や温度、充放電のパターンなどによって変動する電池の内部インピーダンスをリアルタイムに計測/記憶することができる。これを基に、「電池残量を99%の精度で測定できる」(同社)という*4)

図2 リチウムイオン電池の放電特性 図2 リチウムイオン電池の放電特性 このグラフのカーブは、放電率、温度、使用年数などの要因に基づく複雑な関係によって決まる。

 例えば、医療機器では、ほかのどの分野よりも電池残量予測の精度が重要視される。ポータブル医療機器には、電池が完全に放電するまでの時間を示す警告フラグが必要となる。そのフラグは、例えば電池が完全になくなる30分前から高い精度で残時間を表示する必要がある。しかし、上述したように、リチウムイオン電池では残量の予測/計測の精度を高めるのが困難であったことが、医療機器への適用の障害となっていた。Micro Power社は、TI社のImpedance Track技術を利用することで高精度な残量表示が可能となったため、医療機器向けにリチウムイオン電池パックを供給している。

 Valence社のマーケティング/販売担当バイスプレジデントを務めるAlastair Johnson氏は、「電池分野では、もっと広い観点からの問題が見落とされがちだ」と指摘している。「われわれが共同開発を行ったあるハイブリッドカーでは、電池のコストが車両総コストの25%を占め、走行システムの次に高価な部分となっていた。設計者は電池システムをいかなるストレスからも保護する必要がある。電池パックの監視機能や微調整機能が優れているほど、電池の寿命は延び、顧客のROI(return on investment:投資回収率)が守られることになる」と同氏は述べる。


脚注

※2…Voelcker, John, "Lithium batteries take to the road," IEEE Spectrum, September 2007.

※3…Latest Chevy Volt Battery Pack and Generator Details and Clarifications.

※4…Conner, Margery, "Battery-fuel-gauge chip provides 99% accuracy," EDN, Oct 25, 2007, p.22.


Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

RSSフィード

公式SNS

EDN 海外ネットワーク

All material on this site Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
This site contains articles under license from AspenCore LLC.