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高電力機器のホットスワップ回路高い信頼性を確保する設計とは(3/4 ページ)

» 2008年03月01日 00時00分 公開
[Shyam Chandra(米Lattice Semiconductor社),EDN]

ホットスワップ回路の設計例

 ここで、前述したすべての要件を満足するホットスワップ回路の設計例を紹介する。この例では、ホットスワップ回路の制御の中心となるホットスワップコントローラとしてプログラマブル電力管理デバイス「ispPAC-POWR607(以下、POWR607)」(Lattice Semiconductor社製)を使用した(図3)。同デバイスを選択した理由は、PLD(programmable logic device)ブロックやプログラマブルな6系統のコンパレータ、2系統の高電圧出力、2系統の汎用デジタルI/O、4系統のプログラマブルタイマーなど、ホットスワップコントローラとして用いるのに適した機能を備えることと、低価格であることからである。


図3 POWR607の内部ブロック 図3 POWR607の内部ブロック Lattice社のPOWR607はPLDと6つの周辺機能部から構成される。

 これらの機能の用途を説明する。6系統のコンパレータはプログラマブルに閾(しきい)値を設定できるため、電源電圧の監視に利用することが可能だ。2系統の高電圧出力は、内部のチャージポンプによって9Vの電圧を出力することができるので、電源ライン用途のMOSFETを駆動することが可能である。汎用デジタルI/Oは、パワーグッド信号などの補助的な制御用途に使用できる。16マクロセルのPLDと4系統のプログラマブルタイマーは、制御アルゴリズムの構築に用いる。

 このような電力管理デバイスを以下ではPHSC(programmable hotswap controller)と呼ぶことにする。このPHSCを用いて設計した−48V電源のホットスワップ回路が図4である。以下に、その機能や動作の詳細を説明する。

図4 ホットスワップ回路 図4 ホットスワップ回路 この−48V電源用のホットスワップコントローラ回路では、PHSCがMOSFETを制御して突入電流を制限する。回路電流は電流検出抵抗により計測し、MOSFET電圧およびバックプレーン電圧は43kΩ、3.3kΩの抵抗の分圧回路を利用して計測する。6VツエナーダイオードはPHSCの入力保護用として働く。

■ホットスワップ時の制御手順

 ホットスワップ時の制御の流れは次のようになる。まず最初に問題となるのは、コネクタ接続時に発生するバウンシングだ。これへの対処は、バックプレーン電源電圧の監視とMOSFETの制御によって実現する。

 まず、バックプレーン電圧を監視し、チャタリングが落ち着いて接続が安定するまで待機する。次に、MOSFETをオンにする。ここでMOSFETを単純にオンにしてしまうと大きな突入電流が流れることになるので、それを抑えなければならない。そのために、MOSFETを一定の周波数でオンにして徐々にホールドオフコンデンサを充電する。この駆動信号は、MOSFETの電力規格やSOAに適合するようプログラミングする必要がある。このソフトスタートによる充電によってホールドオフコンデンサの電圧が一定レベルに達したら、次に電流パルスの周波数を上げて充電時間を短縮する。

 ホールドオフコンデンサが完全に充電されたことを電圧の監視によって判定したら、MOSFETを完全なオン状態にする。これに伴ってパワーグッド信号を出力し、DC-DCコンバータをイネーブルにする。以上が制御の流れであるに。

■プログラマブルコンパレータの活用

 上述したような制御を行うには、電圧/電流の監視が必要になる。この用途には、プログラマブルコンパレータを活用できる。

 MOSFETの動作をSOA内に抑えるための電流監視は、0.05Ωの電流検出抵抗の電圧をコンパレータに入力して実現する。電源電圧の監視は、43kΩと3.3kΩの抵抗によって構成される分圧回路を経由した信号がコンパレータに入力されることによって行う。なお、この分圧回路におけるツェナーダイオードは、PHSCの入力端子を保護する役割を果たす。

 図4ではVMON5/6の系とVMON3/4の系の2つをPHSCに入力しているが、これは前者をバックプレーン電源電圧の監視のため、後者をMOSFET電圧の監視のために用いるからである。また、MOSFET電圧の監視に用いるVMON3/4のうち一方には、高速充電を開始する閾値電圧を設定し、ホールドオフコンデンサを高速充電できるようにする。もう一方にはソフト充電から高速充電へ切り替える閾値電圧を設定する。

■プログラマブルタイマーの活用

 不具合の判定に関する制御には、プログラマブルタイマーを活用する。

 まず、プログラマブルタイマーの1つは、短絡監視用のウォッチドッグタイマーとしてプログラミングする。ホールドオフコンデンサを高速充電するモードが長期間継続するのを防ぐために、一定の期間高速充電が継続した場合、ブレード内の回路に何らかの短絡異常が発生したと判断してMOSFETをオフするようにする。このような機能によって、短絡異常があった場合でもMOSFETの動作条件をSOA内に制限することができる。

 もう一方のプログラマブルタイマーは、5msのタイムアウト回路として用いてブラウンアウトと過小電圧の判定に利用する。具体的には、通常動作時にバックプレーン電源の電圧が規定値以下に低下した場合、ブラウンアウト条件に入ったと判定し、タイムアウト回路を起動する。5ms以内に電源電圧が正常復帰した場合には、回路は正常動作を継続する。一方、5ms以上かかった場合には、過小電圧条件が発生したためタイムアウトしたと判定し、MOSFETをオフにしてバックプレーン電圧の正常復帰を待つモードに移行する。

 また、突入電流の抑制に利用した電流監視を、通常動作時にも継続的に行う。この監視によって規定値を超える過大な電流が検知された場合、直ちにMOSFETをオフにすることで回路の保護が可能になる。

■実際の回路波形

 実際のホットスワップ回路において、4700μFのホールドオフコンデンサを充電する際の電流/電圧の波形は図5のようになる。上段の波形は5ms幅で1.5A振幅のパルスによる充電電流を表す。下段は同コンデンサの電圧波形である。この回路では2つの高電圧出力端子を用いて充電電流を制御する。具体的には、一方の端子が電流振幅を1.5Aに保持し、もう一方の端子がパルス周波数を制御する。このパルス周波数は、260msごとに1パルスという割合に制限されるため、回路が短絡するといった最悪の場合でも、MOSFETで消費される平均電力は1.5A×48V×5ms÷260ms=1.4Wを超えないように制限されることになる。

図5 ホールドオフコンデンサへの充電電流/電圧の波形 図5 ホールドオフコンデンサへの充電電流/電圧の波形 上段の波形は、5ms幅で1.5A振幅のパルスを表している。下段はホールドオフコンデンサの電圧(ほぼMOSFETへの印加電圧に等しい)を表している。

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