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高輝度LED、さらなる用途拡大の決め手は何か(1/2 ページ)

高輝度発光ダイオード(HB LED)製品の性能は着々と向上している。それに伴い、建造物の照明から医療機器まで、HB LEDは多種多様な用途に使われるようになってきた。本稿では、HB LEDのさらなる用途拡大に向けた最新技術動向や現状の課題についてまとめる。

» 2008年04月01日 00時00分 公開
[Margery Conner,EDN]

照明用途では効率が課題

 高輝度発光ダイオード(HB LED:high brightness light emitting diode)の発光効率は着々と向上している。例えば、米Cree社は発光効率が100lm/W(ルーメン/ワット)クラスのHB LED製品を提供している。また、5年以内には150lm/Wの製品の提供を計画しているという。単体部品としてのHB LEDは、白熱灯や蛍光灯よりも効率が良い。しかし、システムレベルでは、LEDを駆動するためのAC-DC変換やDC-DC変換、電流量調整などに伴う電力損失も考慮に入れなければならないため、その利点は埋もれてしまう。

 米国エネルギ省(DOE:Department of Energy)は、LEDを用いた照明器具(SSL:solid state lighting)向けの省電力化プログラム「Energy Star」の新たな規格を策定した*1)。これは、システム設計者が発光源や照明器具を一定の基準で比較できるようにするためのものである。新規格では、HB LEDの単体レベルでの発光効率ではなく、照明システム全体としての効率に焦点を当てている。

 LEDの光量は、駆動に用いる電流(順方向電流)の量に比例的に依存する。LEDの電圧‐電流曲線は傾きが大きく、電圧が少し変化するだけで比較的大きな電流の変化が生じる。つまり、電圧が少し変わるだけで、光量が大きく変化するということだ。そのため、LEDを利用する際には、電圧ではなく電流の制御が重要になる*2)。現在では、主に電源コントローラを対象としていた多くのICメーカーが、LEDの駆動電流を制御するためのLEDドライバICを市場に投入している。米Texas Instruments社、米National Semiconductor社、米Intersil社、米Cypress Semiconductor社、米Maxim Integrated Products社、米Linear Technology社などのベンダーである。

 照明システムには、LEDドライバ以外に、AC-DCコンバータが含まれる場合がある。一方、電池で駆動するシステムでは、昇圧型のDC-DCコンバータが必要な場合もある。このように、システム全体で見ると、こうした電圧変換処理だけで全体の10〜15%の電力が損失するケースがある。それに加え、反射やレンズによる損失によって、SSL器具の光束密度が最大半分ほども失われてしまう可能性がある。

 Energy Starの新規格は、2008年9月30日に施行される。同規格は2つのカテゴリに分かれている。カテゴリAは、今日提供されている器具を対象としている。カテゴリAに準拠した埋込型照明器具(ダウンライト)の発光効率は35lm/W以上と定められている。

 カテゴリBは、今後3年以内に登場するであろう70lm/WクラスのSSL器具を対象とする。このカテゴリに含まれるSSL器具は、従来の光源を使用する最も高効率の照明システムに匹敵するものになる。例えば、一般的に提供されているものの中で最も高性能なT8型の蛍光灯とバラストを組み合わせると、約100lm/Wの発光効率が実現できる。これを用いた照明器具全体の効率は約70%ほどになり、発光効率は70lm/W程度ということになる。

 現時点では、HB LEDを用いた照明器具によって、カテゴリBがターゲットとする効率を実現することはできない。しかし、LED技術は急速に進歩しており、いずれはカテゴリBの要件を満たすであろう。

 LEDには効率や寿命の長さ以外にも利点があり、効率が改善される前の時点でも利用してみる価値がある。例えば、蛍光灯では明るさを調整するのは難しいが、LEDでは電流を減らすという簡単な原理でそれを実現できる。また、LEDを利用する場合、例えば寒色系や暖色系の白色LEDを用意しておけば、室内の色を動的に変更することが可能である。こうした背景もあることから、今後5年のうちに、SSLは家庭用/産業用照明における重要な技術になると期待される*3)

 エネルギ価格の上昇に伴い、照明器具の効率はますます重要になってきている。米国エネルギ省は、ビルで消費される電力のうち20%は、照明によるものだと推定している。それに対し、信頼性の高い電力網を持たない発展途上国には、そもそも十分な照明施設が存在しない。夜間に信頼できる照明を得るための手段は灯油ランプだが、これは危険で、しかも高価である。こうした地域でも、太陽光とLEDを活用することにより、信頼性の高い照明が得られるようになる可能性がある(別掲記事『発展途上国に効率と安全性をもたらすSSL』を参照)。

発展途上国に効率と安全性をもたらすSSL

 世界には、電気施設がほとんど整っていない地域に住んでいる人々が16億人もいる。そうした地域の人々は、最も基本的な照明を得るために、高価で環境に悪影響を及ぼす方法を利用しなければならない場合が多い。こうした地域の人々に、昼間の太陽光の利用によって、夜間に明かりを提供できる可能性が出てきた。LED技術の急速な進歩により、安価で、どこででも利用可能な、電力網を必要としない照明が得られる日が近づいてきているのだ。そのためのシステムとしては、例えば、屋根に設置されるノート型パソコンほどの大きさの太陽光パネル、屋内配線、鉛酸ゲル電池、LEDで構成されるものが考えられる。

 図Aの回路は、そのようなシステムとして、直列に接続された高効率な8個のLEDの利用を想定したものである。この回路では、LEDドライバIC1として、Intersil社の「ISL97801」を用いている。同製品はコンフィギュラブル(構成可能)な降圧/昇圧型アーキテクチャを採用しており、3A系のMOSFETスイッチやI/O回路の短絡保護機能などを搭載している。また、PWM制御に加えてアナログ制御による調光も可能である。図のように回転式スイッチを利用したり、アップダウン式のデジタル電位差計による調光機能を提供したりすることにより、さらに電力を節約することができる。

 Intersil社は、研究施設においてこの回路の検証を行った。その結果、8個のLEDを700mA/12Vで駆動し、18W相当の光出力を得ることができた。出力電流が700mA、100mAの条件での効率は、それぞれ91%と88%に達するという。

 一般に、LEDの輝度は25℃から100℃の温度変化に対して20%劣化する。そのため熱管理が重要となり、LEDをメタルクラッドのプリント配線板に配置し、十分に放熱できるようにするといった工夫が必要になる。コスト増が許容されるなら、LEDの列を並列に複数並べ、それぞれに対するPWM信号を周期的に発生させることにより、LEDの消費電力を低減するとよい。このことは、LEDのMTBF(mean time between failures:平均故障間隔)の改善にもつながる。

 図Aの18WのLED照明は、太陽光パネルによって充電される12Vの電池によって数時間動作する。この回路を最も必要とする人々に対し、明るい照明を十分に長い時間提供することができる。

図A 太陽光を利用するLED照明回路の例 図A 太陽光を利用するLED照明回路の例 


脚注

※1…"Program Requirements for Solid State Lighting Luminaires," Energy Star, Sept 12, 2007

※2…Eskow, Cary, "Light matters: designing illumination systems with high-brightness LEDs."

※3…"Solid State Lighting: LEDs Poised to Drive a New Lighting Revolution, says iSuppli," iSuppli, Nov 7, 2007


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