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USB充電器の設計技法新規格の概要と設計上の要点を知る(3/3 ページ)

» 2008年06月01日 00時00分 公開
[Takashi Kanamori,George Paparrizos(米Summit Microelectronics社),EDN]
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充電電流の制限

 携帯型機器の内部回路では、充電器を検知した後に充電器の電流供給能力の判定や充電電流の制御が必須事項となる。例えば、充電電流が充電器から供給可能な電流を超えそうな場合、携帯型機器側ではそれを過大電流と判定して保護回路を作動させる必要がある。その保護回路としては、充電器からの出力電圧をクランプする回路などが一般的だ。こうした保護回路について考察してみよう。

 中国通信規格では、最大充電電流が300mAから1800mA、一方のBattery Charging 1.0では500mAから1800mAである。従って、両方に対応するには、充電電流を300mA/500mAから1800mAの間で制御することになる。充電電流を最適に制御できない場合には、安全性の観点から最大充電電流を300mAに設定すべきだろう。それによって、最大充電電流が300mA〜1800mAの充電器が接続された場合でも、安全性を確保できる。しかし、携帯型機器の充電電流が300mAという少ない値である場合、充電時間が長くなるという欠点がある。これでは、その機器を使用するユーザーを満足させることはできないだろう。

 また、中国通信規格とBattery Charging 1.0は、いずれも充電器に出力電圧/電流などの性能を表示したラベルを貼り付けることを要求している。このラベル表示を利用して、電池が要求する電流で充電するようユーザーに推奨することにすれば、設計の自由度が高くなる。例えば、容量が800mA時で1Cクラス(Cは充放電能力の指標で、1Cとは1時間でフル充電が可能であることを表す)の電池パックを内蔵した携帯型機器に対して、出力電流が800mAとラベルで表示された充電器を使用すれば、短時間で満充電にしたいというユーザーの要求に応えることができるだろう。

充電器の構成例

 充電制御回路では、安全性の観点も含めて充電電流を最適に設定する必要がある。そのためには、電池における現在の充電レベルを判定しなければならない。筆者らのSummit Microelectronics社は、この判定方法と判定結果を利用した充電電流の最適化手法に関する特許を取得しており、実際にその手法をICに組み込んでいる。そのようなICを利用した充電回路の構成例を以下に紹介する。

 図5は、中国通信規格とBattery Charging 1.0に適合した充電回路の構成例である。図中の充電制御IC「SMB138」(Summit Microelectro

nics社製)*5)は、4.35V〜6Vと広い電源電圧範囲で動作するため、充電器からの出力電圧である5V±5%とUSBケーブルにおける電圧降下に対応できる。また、同製品は入力過電圧保護回路を備えており、充電電圧が約6.2Vを超えた場合に自身の動作を停止する機能を持つ。さらに、電池の過電圧状態と過電流状態を防止する保護機能も備えており、2次安全性に対する要求にも対応している。

図5 USBの新規格に対応した充電回路の構成例 図5 USBの新規格に対応した充電回路の構成例  この構成によって、1個のICで中国通信規格とBattery Charging 1.0に対応した電流制御が可能となる。

 この回路の動作を説明しよう。まず、この回路を組み込んだ機器がUSB充電器に接続されると、マイクロコントローラがD+/D−端子のインピーダンスをセンシングする。その結果、両端子が短絡していれば、それはUSB充電器であると判定する。次に、マイクロコントローラがSMB138のUSB5/1/AC端子をフローティングに保持する。これによって、SMB138を550mA〜1250mAの範囲で充電電流を設定できる状態とし、I2Cによって最大充電電流を設定すれば、充電に要する時間を最短にすることが可能になる。

 D+/D−端子の間が短絡していない場合には、対象とするポートは大電流による充電をサポートしていない一般のUSBポートであると判定できる。この判定を受けて、マイクロコントローラは、SMB138のUSB5/1/AC端子にローレベルを出力する。これにより、SMB138への入力電流を100mA以下に制限することができる。その後、マイクロコントローラが、対象とするポートであるUSBホスト/ハブとの間で通信を行い、500mAの電流を使用可能なハイパワーのUSBデバイスと認識させることができたら、SMB138のUSB5/1/AC端子をハイレベルに保持する。それにより、SMB138への入力電流を500mAに制御することが可能である。つまり、この構成によって、USB 2.0と中国通信規格/Battery Charging 1.0で規定された専用充電器に対応する回路を実現できることになる。


 USBの新たな規格により、USB 2.0で規定された最大値以上の充電電流を供給可能な充電器を設計できるようになった。また、USB-OTGによってホストなしで使用できるようになり、利便性が向上した。さらに、スリム化への要求に応えるべくMicro-USBコネクタが規定され、これが今後の業界標準になろうとしている。こうした動きは、いずれもコストの削減と互換性の向上によって消費者の満足を得ようとして生じたものだ。

 今後、機器設計者は、このようなUSBの新規格への対応を迫られることになるだろう。 

SMB138のメリット

 SMB138は、本文で紹介した以外にもいくつかの利点を備えている。1つは、従来のリニア方式の充電器とは異なり、スイッチング方式で充電できるため、入力電流よりも出力電流を多くできることだ。これにより、満充電に要する時間の短縮が可能になる。この機能は、特に一般のUSBポートを利用した最大電流500mAの制限下で充電を行う際に効果的である。

 また、SMB138は充電モードで動作していない場合、電圧が5Vで電流が100mA以上の電力を充電とは逆方向に出力することができる。そのため、USB-OTG適合機器を接続した場合に、それらの電源として動作することが可能である。USB-OTGに対応する場合であっても、追加の部品が不要だということである。

 加えて、種々の動作モードや種々の充電条件をプログラミングなどによって設定できるため、同じ構成で種類の異なる電池や電力の異なる製品に柔軟に対応することが可能だ。さらに、1次、2次の保護機能を備えるため、安全規格であるIEEE 1725への適合も容易である。



脚注

※5…"SMB138-Programmable Switch-mode, USB/AC Input Lit Battery Charger with TurboCharge Mode and 'On-the-Go' Power," Summit Microelectronics. http://www.summitmicro.com/prod_select/summary/SMB138/SMB138.htm


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