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スイッチドファブリック最新事情多様化する組み込みシステムボードの高速伝送技術(1/3 ページ)

組み込みシステムボードの分野では、スイッチドファブリック技術に注目が集まっている。同技術を用いることで、高速でのデータ伝送はもちろん、動作性能の最適化、サブシステムの故障の回避、既存コンポーネントとの共存といったことの実現が可能になるからだ。本稿では、スイッチドファブリック技術に分類される各種インターフェースの規格を概観するとともに、それらに対応した新製品の動向などについてまとめる。

» 2008年08月01日 00時00分 公開
[Warren Webb,EDN]

スイッチドファブリックの台頭

 組み込みシステムボードを利用する分野では、データ伝送速度への要求がとどまることなく高まっている。この要求に応えるには、ボードレベルでの信号線の扱い方を改善し続けなければならない。予算の範囲内でシステム性能を向上させるために、設計者は最新のファブリック技術を選択することになるだろう。

 医療用の測定機器、軍事システム、通信機器、プロセス制御機器などでは、帯域幅が増大し、処理性能への要求がより強くなっている。応用範囲はますます複雑になり、そうした数多くの分野がファブリック技術の限界を押し上げるように働いている。

 高性能のシステムの構築に向け、これまで、コストの削減と開発期間の短縮を実現するために、市販のプロセッサやモジュールが利用されてきた。それらには、組み込みシステムボード上で利用するための規格が定められている。このことから、冷却性能や機械的な寸法、位置合わせといったことを最適化するために、設計時に試行錯誤を繰り返し行う必要がなくなる。規格に基づいて設計すれば、互換性のあるOS、ベンダーが提供するドライバ、ファームウエアのサンプルなどの入手が可能となり、ソフトウエアの開発期間も短縮することができる。

 PCI(peripheral component interconnect)、VME(versa module eurocard)、CompactPCI、ATCA(advanced telecom computing architecture)など、広く使用されている組み込みシステムボード規格の多くには、すでにいくつかのファブリック接続のオプションが定められている。そのため、設計者は、必要に応じて共有バスアーキテクチャを用いないシステム構成をとることができる。その一方で、システムにおける高性能化への要求が技術的な限界のレベルに近づきつつあり、標準化団体やメーカーにとっては、ますます拡大する高度な応用分野の要求に対応して新製品を提供し続けることが困難になってきている。

 スイッチドファブリック(switched fabric)のアーキテクチャは、演算ノード間のデータパスを動的に変更することで、複数のデータ伝送を同時に行うことを可能にする。任意のノード間を接続するデータパスが、あたかも布地に織り込まれた糸のようであるため、「ファブリック(fabric)」と呼ばれている。スイッチドファブリックの最大のメリットは、各ノードを直接接続するポイントツーポイントのデータパスが実現されることである。これによって電気的特性は高くなり、バスアーキテクチャよりも高い伝送周波数と広い帯域幅を実現することができる。一般的なスイッチングファブリックでは、複数のスイッチを用いてソース/ターゲット間のトランザクションのルーティングが行われる。

LVDSによる高速伝送

 ほとんどのスイッチドファブリック規格は、ノード間の帯域幅を最大にするために、低電圧差動伝送(LVDS:low voltage differential signaling)を利用することを要件としている。LVDSでは、約350mVの電圧振幅により、数ギガビット/秒の通信をプリント配線板の配線や差動伝送ケーブルを介して行う。これだけの帯域幅があるので、ほとんどのシステムでは、パラレルデータ伝送ではなくシリアルデータ伝送が使用される。将来的にさらなる性能向上が必要になったときは、シリアルではなくパラレルデータ伝送にすることで対応できる。LVDSでは信号電圧の振幅が小さいことや定電流ラインドライバを利用することが理由となって、ノイズや消費電力が少ないことも特徴の1つである。LVDSの詳細については、ANSI/TIA/EIA-644やIEEE 1596.3などの規格で規定されている。

 スイッチドファブリックでは、高速なデータ伝送が行えること以外にも、システム上の利点がいくつか得られる。そのうちの1つが、各ノードがポイントツーポイントで直接接続されるので、バス構成における多数のパラレル接続配線が不要であることだ。このことは、コネクタのサイズを小さく抑えられるという利点につながる。スイッチドファブリックでは、障害のあるパスやノードを迂回し、重要なデータの伝送経路を動的に確保することによって、システム性能を維持することも可能である。設計者は、複数段のスイッチング機能により、要求の変化に応じて接続数を容易に変更できる。さらに、I/Oコンポーネントやスイッチを新たに追加することで、拡張後もシステムにおける接続の柔軟性を維持することが可能である。

 共有バスのデータ伝送速度を上げたり、既存の製品の通信速度を確保したりするために、VMEやPCIの規格はこれまでに何度かアップグレードされている。こうした組み込みシステムボード規格の性能レベルをアップグレードしたり拡張したりする際には、製品間の互換性が厄介な問題となる。スイッチドファブリックによるアップグレードでは、共有バス構成では使用されていないエッジカード接続を介してバックプレーン上に高速データを送信する方法をとる。多くの高性能システムにおいて、長期的な可用性は最も重要な要件である。デスクトップ型パソコン用の部品の平均寿命が約1年6カ月であるのに対してユーザーは5年以上の製品寿命を要求するが、軍事用途などでは、15年もの寿命が要求される場合もある。

 PCI Express(PCIe)は、最も普及しているファブリック拡張技術の1つである。組み込みボードシステム以外に、市販のデスクトップ型パソコンなどにも広く利用されている。基本的なPCIeリンクは、LVDSと低電流ラインドライバを用いた2本の信号パスから成り、各方向に対して2.5GT(gigatransfers)/秒での通信が可能である。標準化団体は、このデータ伝送速度を5GT/秒にまで高めたPCIeのバージョン2.0を承認している。ただし、8B/10B符号化方式を使用することで遷移数が多くなるため、最大実効データ伝送速度は4ギガビット/秒となる。

 PCIeリンクでは、必要な性能に達するまで単に信号ペア(レーン)を追加することにより、容易に帯域幅を増やすことができる。PCIe規格では、1、2、4、8、16、32レーンがサポートされている。PCI-SIG(special interest group)は2007年8月、PCIeの次期バージョンでは8GT/秒のビットレートに対応させる予定であると発表している。

各種の標準規格

 ここでは、スイッチドファブリックの代表的な標準規格をいくつか取り上げて紹介する。

■RapidIO

 RapidIOは、RapidIO Trade Associationが定めた規格であり、ポイントツーポイント接続技術としてよく利用されている。もともと、米Motorola社と米Mercury Computer Systems社が考案したパケットスイッチドアーキテクチャをベースとしており、組み込みシステムにおける演算ノードと周辺ノードとの間でデータ/制御情報の伝送を行う。

 RapidIOの全二重/ポイントツーポイントのリンクには、1本または4本の高速シリアルレーンがあり、ピーク帯域幅20ギガビット/秒に対して1.25、2.50、3.125ギガボー(G baud)の速度で8B/10B符号化データを伝送する。

 RapidIOの最初の仕様では、パラレルのビットクロックとデータをベースとしていたが、それ以降の仕様では、端子数の削減や信号の到達距離の拡張を行うために、シリアルのクロック/データを用いる伝送方式が採用されている。

■InfiniBand

 InfiniBandも一般的に用いられている接続方式であり、多くの高性能コンピューティング用途で採用されている。ほとんどのメインフレームコンピュータで使用されているチャンネルモデルと同様に、すべてのInfiniBand伝送は、チャンネルアダプタを介して行われる。各プロセッサにはホストチャンネルアダプタ、各周辺機器にはターゲットチャンネルアダプタが搭載されることになる。これらのアダプタによって、セキュリティやサービス品質(QoS)に関する情報を送受することもできる。

 InfiniBandでは、128ビットのIPv6(internet protocol version 6)を用いて各ノードを一意的に識別し、インターネットとの互換性を実現している。InfiniBandによる伝送は、パケットベースまたは接続ベースであり、それぞれデータブロックまたは連続データストリームをサポートする。

 InfiniBandは、基本的には2本のLVDSペアから成る双方向リンクであり、それぞれが2.5ギガビット/秒で動作する送信パスと受信パスとなっている。利用可能な帯域幅がその80%であったとすると、各方向のデータ伝送速度は2ギガビット/秒または250メガビット/秒となる。各伝送パスに対し4本または12本のリンクを束ねることにより、帯域幅を上げることが可能である。12リンクでは、実効スループットが48ギガビット/秒となる。

■CompactPCI

 PCIe、RapidIO、InfiniBandのほかにも、これらに類似する数多くのファブリックアーキテクチャを備える技術がある。例えばCompactPCIは、PCIベースの低コストのデスクトップ型ハードウエアを頑丈なパッケージに収める形態で利用される。現在では、元の仕様に追加された一連のオプションにより、シリアルファブリック接続が定義されている。

 CompactPCIの規格は、業界標準のユーロカード(Eurocard)のサイズを基にして3Uおよび6Uの基板サイズを規定している。同規格にのっとったボードは、前面からの取り付けとカードケージからの取り外しが可能である。3Uよりも一般的な6U版は、カードの背面に5個のコネクタを備える。そのうち2つは従来のCompactPCIバスに割り当てられており、残り3つはオプションでバックプレーンファブリックへの接続に使用することができる。CompactPCIとCompactPCI Expressは、PICMG(PCI Industrial Computer Manufacturers Group)がサポート/管理しているオープン規格である。

■VITA 41

 VITA(VMEbus International Trade Association) 41 VXS(switched serial extensions)は、VMEbus規格にファブリック技術を追加し、製品間の互換性を維持したものである。VXS仕様では、ペイロードカード、スイッチカード、および広帯域幅の新たなP0バックプレーンコネクタを定義し、標準的なVMEbusパラレルコネクタであるP1とP2も残している。

 各P0ファブリックポートでは、4本のシリアルビットチャンネルが、入力データ用と出力データ用にそれぞれ1セットずつ合計2セットで構成されている。同仕様が定めるP0コネクタ技術は、各シリアルチャンネルに対して最大10ギガビット/秒のデータ伝送速度をサポートする。ペイロードカードは、標準的なVMEbusプロセッサ、メモリー、またはI/Oボードに、新しいVXSファブリックインターフェースが追加されただけのものである。スイッチカードは、P1/P2コネクタがなければペイロードカードと同じサイズで、最大18個の全二重シリアルコネクタと1個のパワーコネクタを搭載する。スイッチカードは、ペイロードカード間でシリアルデータを伝送するために必要なスイッチドファブリック機能を搭載している。

 さまざまなファブリック規格に対応するために、VITA 41のサブ仕様では、InfiniBand、シリアルRapidIO、GbE(ギガビットイーサーネット)、PCIeに対応するスイッチカードおよびペイロードカードについて定義されている。

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