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半導体の歩留りが低下、不純物混入の意外な経路とは…Tales from the Cube

» 2008年08月01日 00時00分 公開
[Martin DeLateur(コンサルタント),EDN]

 半導体製品の歩留り低下が繰り返し発生する場合、その原因は重金属汚染であることが多い。問題は、その不純物がどこから侵入して来たのかということだ。

 1980年代に、筆者はある大手半導体製造メーカーの製造技術部門で働いていた。当時、製品の歩留り低下が製造部門にとっての大きな課題となっていた。歩留りが日を追って低下するという状況だったのだ。

 不良の内容は、リーク電流が過大に流れるというものだった。この種の不良は、通常、ナトリウムなどの正イオンや重金属による汚染が原因で酸化物層のリーク電流が増大しているのだと考えられていた。このようなイオン性汚染の発生源としては、ドーピング剤の容器や製造用機材の汚染、作業者によって不用意に持ち込まれたチリなど、広範囲な事柄が考えられた。

 そこで、筆者らは歩留り低下への対処策として、ドーピング剤の交換やガラス機材の洗浄などといった常とう手段とも言える対策を行った。その結果、歩留りを向上させることができた。歩留りの低下が重金属汚染に起因していること、そして、対策によって汚染が減少したことは、CV(capacitance versus voltage)プロットにより確認することができた。

 ところが、1週間後に問題が再発した。CVプロットの結果からも、重金属の存在が再び確認された。そこで、次の対策には、拡散炉内の高価な大型石英ガラス管をすべて交換することも含めた。この石英ガラス管の中にはシリコンウェーハが置かれ、その管の中をウェーハに拡散/浸透すべき不純物成分を含むガスが流れる。この石英ガラス管を交換するという大掛かりな対策に、製造部門は多少混乱もしたが、以前この対策が成功したケースがあったことは認識していた。この対策は功を奏し、新しい石英ガラス管を使って製造したトランジスタは、すべての規格を満足した。その後3カ月間、製造は順調に進んだ。

 ところが、またもやまったく同じ問題が発生したのである。歩留りが急低下し、その原因はまたも重金属によるものだと判断された。

 筆者らの対策チームは、汚染源を究明すべく、さらに数多くの実験や分析を行った。そうした調査の中で、加工済みのシリコンに金(Gold)が含まれていることが認められた。このことが電気的特性を劣化させている原因だと判断された。

 高いスイッチング速度が要求されるトランジスタでは、金を含有させることで高速化を実現することがある。しかし、リニア用途のトランジスタでは、金の含有はリーク電流の増大や電流増幅率の低下などの特性劣化に結び付く要因となるため好ましくない。これは関係者には知られていた事実である。実際、歩留りの対策に当たっていたチームは、金による汚染については対策済みだと考えていた。

 そこで、筆者らは、製造工場において発生した変化や変更点などを、さらにつぶさに調査することにした。その結果、そのとき使用していた拡散炉が、ほかの部門から移設されたものであることがわかった。その拡散炉は高速デジタルICの製造ラインで使われていたものであり、金の拡散用に使用されていた。そのため、石英ガラス管の交換などは問題の根本対策にはならなかったのである。

 例えば、拡散炉に含まれている金が石英ガラス管内に拡散/浸透すると、長い時間をかけてその金が外部に拡散し、拡散炉の加熱用コイルを汚染することも十分に考えられる。こうした考えから、石英ガラス管とともに加熱コイルも交換することにした。

 この対策の結果、今度は3カ月たってもトランジスタは正常であった。このとき起きた問題は、製造部門の者だけでなく、半導体プロセス開発に長らく従事してきた人にとっても思いもよらない出来事だった。

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