特集
» 2008年09月01日 00時00分 UPDATE

その使いどころから各方式の特徴まで:昇降圧型コンバータの基本を知る (1/2)

昇降圧型コンバータは、現在、自動車のバッテリ関連の回路や、携帯機器、LED駆動回路などの幅広い用途に適用されつつある。本稿では、まず同コンバータの利用を検討すべき用途について説明する。その上で、同コンバータの各種実現方式や、代表的な製品の特徴について解説を加えることで、その有用性を明らかにする。

[Paul Rako,EDN]

高い汎用性

 昇降圧型コンバータ(buck boost converter)は、入力電圧より高い電圧と低い電圧の両方を生成できるスイッチングレギュレータである。この特徴から、同コンバータは実にさまざまな用途に適用できる。例えば、自動車のバッテリから電池に対して充電を行う場合や、LED列に電力を供給する場合、1個のセルで携帯機器を動作させる場合などに、昇降圧型コンバータは重要な役割を果たす。低コスト、高効率、低ノイズといった目的に応じ、何らかの昇降圧型コンバータによって問題を解決できるケースは少なくない。

 また、昇降圧型コンバータの設計を工夫すれば、負荷条件が異なる場合でも個別に電源回路を設計する必要がなく、多大な労力を省くことが可能になる。しかし、どのような設計もそうであるように、昇降圧型コンバータにも設計上の課題が存在する。

 本稿では、この昇降圧型コンバータを活用すべき場面や、各種実現方式のメリット/デメリットについての解説を通して、同コンバータの有用性を明らかにしたい。

広範な利用分野

 まずは、昇降圧型コンバータの有効な利用分野の例をいくつか示す。

■車のバッテリでの利用

 最初の例は、自動車のバッテリからほかの電池を充電するケースである。図1(a)に、自動車のバッテリで10.8Vのニッケル水素(NiMH)電池を充電するケースの概念図を示した。

図1 昇降圧型コンバータの利用例 図1 昇降圧型コンバータの利用例  昇降圧型コンバータの利用例として、自動車のバッテリから電池への充電に用いられるケースがある(a)。多くの設計者にとってより一般的なのは、携帯機器において1セルのリチウムイオン電池から3.3Vの電圧を安定して得る方法であろう(b)。それ以外に、車載用LEDドライバ(c)と携帯電話機のLEDを用いたカメラのフラッシュ(d)などの応用例もある。あるいは、入力として整流AC電圧を用いる用途にも昇降圧型コンバータが適している(e)。

 このような場合には、LDO(low dropout:低ドロップアウト)レギュレータを使えばよいと考える人もいるだろう。例えば、自動車に12Vの鉛酸電池が使われているとすると、LDOレギュレータにより10.8Vを生成するのは容易だと考えられるからである。しかし、車の走行中には、バッテリの充電電圧が13.75V〜14.2V程度となるので、電力損失を防ぐためにはLDOレギュレータではなくスイッチングレギュレータを使用すべきである。

 それでも、簡単な降圧型レギュレータを使えば十分だと考える人もいるだろう。しかし、その方法には問題がある。NiMH電池は一定の電流によって充電され、各セルの電圧は1.4V〜1.6Vに上昇する。9セルで10.8Vの電池パックの場合には、充電終了電圧が12.6Vにも達することになる。車が走行中だという条件に限ると、最新の同期式降圧型レギュレータであれば使用できるかもしれない。しかし、実際のアプリケーションでは走行中でないケースも考慮しなければならないかもしれない。自動車用の鉛酸電池では充電電圧は13V〜14Vだが、通常の出力電圧は12Vである。12Vの電源と降圧型レギュレータを組み合わせたのでは、終了電圧が12.6Vとなる9セルのNiMH電圧を充電することはできないのは明らかである。

■携帯機器での利用

 上の自動車の例は難解だったかもしれない。設計者にとって、より一般的な例としては、1セルのリチウムイオン電池でいかにして携帯機器に3.3Vの電圧を供給するかというケースが挙げられる(図1(b))。ノート型パソコンに搭載されるメモリーなどのデジタル電子部品は、3.3Vの電源で動作するものが多い。1セルのリチウムイオン電池が供給する電圧は3V〜3.7Vであるため、それらのICを3Vで動作させようとすることもあるだろう。しかし、電源電圧範囲に関しては、デジタルICは許容範囲が狭く、メーカーによっては3Vでの動作を保証しない。

 2セルのリチウムイオン電池を使用する方法もある。しかし、この方法にはいくつかの欠点がある。まず、多セルの電池では単一セルの場合よりも信頼性に関する手厚い配慮が必要になる。いずれかのセルが開回路となって故障すると、システムは電力を失ってしまう。また、いずれかのセルが短絡すると、内部の可融性配線で断線が起きる恐れや、断線の前に発火してしまう恐れがある。いずれにせよ、短絡が発生すればシステムは機能しない。

 もう1つ厄介なのは、各セルの充電状態をそろえなければならないということである。また、電池を再充電する際には別の問題が生じる。複数のセルのうち1つでも充電が足りないと、それによって電池パックの出力が制限されてしまう。例えば、2個のリチウムイオンセルを使用する場合、充電電圧は8.4Vに制限される。しかし、この方法では各セルの電圧が正確に4.2Vになるとは限らない。これを保証するには、充電状態をそろえるための複雑で高コストな回路を実装し、それによって各セルを最適な電圧で充放電しなければならない。

 以上のような理由から、現在の携帯機器のほとんどは、1セルの電池を使用する。リチウムイオンセルの出力は3V〜3.7Vであるため、3.3Vを必要とする携帯機器では昇降圧型コンバータの利用が適切だということになる。

■LEDの駆動

 そのほかに、昇降圧型コンバータを使用する一般的なアプリケーションとしては、車載用LEDドライバがある(図1(c))。車載用LEDドライバは、図1(a)の例と同じように、電池の電圧範囲に関する問題を抱える。それ以外にも、車両での使用においてはもっと重要な制約が存在する。車が発進する際、電池の電圧はスタータをクランクするために8Vくらいまで低下する可能性がある。何らかのコンバータによってブレーキライトを点灯させる場合は、充電回路の出力が入力電圧の変動によってドロップアウトしないようになっていなければならない。昇降圧型コンバータを使用すればこの問題を解決することができ、また過渡的に発生する40V程度の電圧にも対処できる。

 携帯電話機におけるLED点灯ユニットもよく似たアプリケーションである(図1(d))。LEDのフォワード(順方向)電圧は、1セルのリチウムイオン電池電圧よりも高い場合もあれば低い場合もある。昇降圧型コンバータを使用すれば、電池の状態にかかわらず、またプロセスばらつきによりLEDのフォワード電圧が変化しても、LEDの駆動電流を一定に保つことができる。

 米Linear Technology社の設計マネジャであるSam Nork氏は、「LEDをカメラのフラッシュとして使用している携帯電話機がある。おそらく、そのLEDにはおよそ0.5Aの電流が流れているだろう。この条件下でLEDのフォワード電圧は約3.6Vだ。温度、部品のばらつき、電池の種類や構成によって条件が変わるので、最大性能を得るために昇降圧型コンバータを使用すべき典型的な例だと言える」と述べる。このようなアプリケーションの電源としてリチウムイオン電池を使用する場合がある。こうしたケースでも、昇降圧型コンバータを利用すれば、同様に設計上の利点が得られる。

 昇降圧型コンバータは、入力電圧が大きく変化する用途に適用すべきものだと考える人もいるだろう。しかし、実際には、部品の特性ばらつきによって必要な出力電圧が変化するような用途にも適している。米Supertex社のアプリケーションエンジニアであるRohit Tirumala氏は、「例えば、安価な24Vのブリック電源を使用する汎用照明の用途などがこれに当たる」と指摘する。このような用途では、入力電圧は調整が施されてそれなりに安定しているのだが、LED列の駆動に必要な出力電圧はLEDの特性ばらつきによって大きく変化する。「LEDの電圧特性のばらつきにより、LED列を駆動するために昇圧が必要になる場合と降圧が必要になる場合がある。各LEDでは、フォワード電圧が最大で1V程度異なる可能性がある。すなわち、フォワード電圧が3V〜4Vほどの範囲でばらつくため、6個のLED列を用いる場合であれば18V〜24Vが必要になるかもしれない」と同氏は述べる。

 米Analog Devices社の製品マーケティングマネジャであるBrian Wengreen氏によれば、「松下電池工業などのリチウムイオン電池メーカーは、3Vから2.5Vに放電する際に、より多くのエネルギを生成するような電池を開発している」という。その上で、「1セルのリチウムイオン電池で動作する携帯電話機やカメラには、ズームレンズなど、機械システムにトルクを供給するために安定した電圧を必要とするアクチュエータが存在する」(同氏)という例を挙げた。このようなカメラを製造するメーカーは、電池から最大限のエネルギを得るために、昇降圧型コンバータを使用する。

■その他の適用例

 ここまで、昇降圧型コンバータの有効な活用例として、入力電圧と出力電圧の両方の要件が変動するケースを示した。それ以外にも、昇降圧型コンバータは多様な用途に適用できる。Tirumala氏は、「同じ用途向けだが若干仕様が異なるモデルに対し、同一の電源を使用したいケースがある。例えば、4個のLEDを使用するモデルと、6個のLEDを使用するモデルが存在する場合などだ。両モデルで、同一の昇降圧型コンバータを使用できれば、開発コストの低減が可能になる」と語る。

 さらに、Tirumala氏は「整流されたAC電圧を入力として使用する場合にも、昇降圧型コンバータが適している」と説明する(図1(e))。MR16のようなごく普通の12Vのハロゲン電球の代わりにLEDが使用されることがある。これがそのようなアプリケーションの例だ。ハロゲン電球は、AC電源または整流したAC波形で駆動する。この条件において、LEDを昇降圧型コンバータで駆動することにすれば、変動する入力電圧に対し、より安定した平均電流を保証することができる。

       1|2 次のページへ

Copyright© 2017 ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

RSSフィード

EDN 海外ネットワーク

All material on this site Copyright © 2005 - 2017 ITmedia Inc. All rights reserved.
This site contains articles under license from UBM Electronics, a division of United Business Media LLC.