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» 2008年09月01日 00時00分 UPDATE

AUTOSAR対応ツールの最新事情 (1/2)

パワートレイン、シャーシ、ボディ電子、そしてカーナビなどの車載情報システムをはじめ自動車機能の電子制御化が進むことで、搭載するECU数が増加している。「ハイブリッド・レクサス」のように、ハイブリッド車かつ高級車ともなるとECU数は100個を超える。そして、ECU数が増えれば、自動車1台あたりの車載ソフトウエアの規模も増大する。その増大率は単純にECU数に比例しない。ある自動車機能を実現する場合に複数のECUが関わることを考えれば、その組み合わせマトリックス数に合わせてソフトウエアが複雑化して、指数関数的に車載ソフトウエアは増大して行くことになる。この現状を打破するために、策定が進んでいるのが車載ソフトウエア標準規格「AUTOSAR(Automotive Open System Architecture)」である。

[本誌編集部 取材班,Automotive Electronics]

 かつて、パソコンは「ソフトがなければただの箱」と言われたものだが、自動車のECUも同じで、制御のための車載ソフトウエアがなければ空の弁当箱である。1980年代に、エンジンを電子制御するために搭載されたECUのROMにも、もちろん制御ソフトウエアが入っていた。当時の車載ソフトウエアの規模は、Cコードに換算して約2000行程度と言われている(当時の開発はアセンブラで行われていた)。

 そして、ECUによる制御は、エンジンのみならずトランスミッション、ブレーキ、ステアリング、シート、パワーウインドウなど対象を広げて行き、さらに1990年にはカーナビという大規模プロセッサを必要とするシステムも自動車に搭載されるようになった。車載ソフトウエアの規模は、2000年には1980年の1000倍となる200万行に到達し、2008年現在は約800万行と1000万行はもう目前となっている。今後、各種の安全システムの装備が一般化し、さらに路車間通信や車車間通信を行うITSシステムが実現されるようになれば、早々に1億行に達する可能性もある(図1)。

図1 車載ソフトウエア規模の爆発的増大(提供:日産自動車) 図1 車載ソフトウエア規模の爆発的増大(提供:日産自動車) 1980年から2000年までの20年間で1000倍となっている。1000万行到達は2015年と言われていたがこれも早まる可能性が高い。

 さらに、自動車メーカーのソフトウエア開発体制が、この状況をより複雑にしている。自動車メーカーは、従来の車載ソフトウエアに接ぎ木するような形で新機能モジュールを組み込んできたため、もはや周辺モジュールとの接続を確認するだけでも新機能開発の2倍以上の工数が必要になっている。そして、自動車メーカーの各システムを担当する事業部は完全に縦割りになっているため、事業部を横断してECUを連携させるような機能を実現する場合には、さらにすり合わせの時間が必要になる。そして、Tier1サプライヤにとっては、ECUソフトウエアの構造やインターフェース形式が自動車メーカー間で異なるため、サプライヤ内でソフトウエアリソースを再利用することが非常に難しく、ますます増大して行くECUソフトウエアの規模に対応できなくなりつつある。

 この車載ソフトウエア開発の問題に対して、標準化の手法を業界に先駆けて取り入れてきたのが欧州メーカーである。1995年には、車載制御用の組み込みOSの標準「OSEK/VDX」の規格化を開始し、現在はほぼ業界標準となっている。2003年に設立されたAUTO SARは、このOSEK/VDXでの活動をもとに、標準化という概念に通じた欧州メーカーが車載ソフトウエア全体の構造にまで活動を広げることが狙いとなっている。

AUTOSARの構造

図2 AUTOSARのソフトウエア構造 図2 AUTOSARのソフトウエア構造 中央のベーシック・ソフトウエア(BSW)は、上層のサービス、中央のECU抽象化複合ドライバ、下層のMCALに分かれる。また、左端のシステムサービス内にOSが含まれている。
図3 従来の車載ソフトウエアとAUTOSAR対応ソフトウエアの比較(提供:AUTOSAR) 図3 従来の車載ソフトウエアとAUTOSAR対応ソフトウエアの比較(提供:AUTOSAR) AUTOSARにおけるソフトウエアの再利用性は、RTEやハードウエアと接続するMCAL、そして各SWCやBSWのAUTOSARインターフェースにより実現される。

 コンソーシアムであるAUTOSARの会員は、規格化を主導し組織管理などに責任を持つコア・パートナー9社(ドイツBMW社、Daimler社、Volkswagen社、Robert Bosch社、Continental社、米General Motors社、Ford Motor社、フランスPSA Peugeot Citroen社、トヨタ自動車)、規格策定作業に参加するプレミアム・メンバー54社、文書の閲覧と規格使用が許されているアソシエイト・メンバー80社で構成される。特に、トヨタ自動車が、コア・パートナーとして参加しているという事実は、国内自動車業界も車載ソフトウエアの問題に直面していることを如実に表している。

 AUTOSARは、各ECUのハードウエアに合わせて最適化しなければならない車載ソフトウエア開発の現状に対して、ソフトウエアを各階層でモジュール化できるようにし、このモジュールを再利用できるように車載ソフトウエアの構造を再定義することを目指している。AUTOSARにおける車載ソフトウエアは、大きく分けて以下の4つの層に分かれる(図2図3)。

・ハードウエア層:ECUハードウエアやマイクロコントローラなど物理層の部分

・ベーシック・ソフトウエア(Basic Software:BSW):従来のOS、ドライバ、ミドルウエアにあたる部分

・AUTOSARランタイム環境(Runtime Environment:RTE):アプリケーションとBSW間やアプリケーションとアプリケーション間を接続するインターフェース

・アプリケーション層:機能別にモジュール化されたソフトウエア・コンポーネント(Software Component:SWC)で構成される

 このようにソフトウエア構造を4層に分け、さらにSWCやBSW内のOSや各ミドルウエアをモジュール化するためには、各モジュール間を接続するインターフェースが規格化されていなければならない。そこで、AUTOSARではマークアップ言語のXMLにより、各SWCに規定されるAUTOSARインターフェースや、BSWの標準インターフェースを記述している。RTEは、このXMLで記述されたインターフェースの情報を基に、ツールを使って生成することになる。

 一方、かつては一体だったハードウエア層とBSWをつなぐのは、BSW最下層に位置するマイクロコントローラ抽象化層(Microcontroller Abstraction Layer:MCAL)である。従来のドライバソフトウエアは半導体メーカー単独で提供していたが、MCALについてはBSWベンダと協業することが多い。

 AUTOSARの標準化により、自動車メーカー、ECUサプライヤ、半導体メーカー、ソフトウエアツールベンダなど、車載ソフトウエア開発に携わるすべてのプロセスで利益を享受できるといわれている。自動車メーカーは、ソフトウエア開発期間の短縮とコスト削減が可能になる。ECUサプライヤは、従来は各自動車メーカー個別に開発していたソフトウエアをSWCとして複数の自動車メーカーに販売できるようになる。半導体メーカーは、ソフトウエアがハードウエアに依存しなくなることにより5〜10年と言われる新規採用までの期間を圧縮できる。そして、ツールベンダにとっては、AUTOSAR準拠のソフトウエア開発では各種ツールの使用が前提になることから、新規市場を獲得するチャンスになる。

 AUTOSARは、2004年〜2006年にかけてPhase1として基本的な規格策定を進めてきた。2007年〜2009年のPhase2ではPhase1の成果活用と規格の発展を進めることとしている。そして、コア・パートナーは、AUTOSAR準拠のソフトウエアを採用した市販車を、2008年から2012年にかけて発売する計画。採用は、ボディ電子の一部などに限られるものの、2008年末のBMW社とBosch社を皮切りに、2009年には欧米メーカー、2010年にはトヨタが市場投入する見込みだ。

すべてのBSWを提供可能

表1 各ツールベンダのAUTOSAR対応 表1 各ツールベンダのAUTOSAR対応 

 AUTOSAR準拠の車載ソフトウエア開発のプロセスは上流側から、(1)要求仕様を基に車両内のECUシステムを設計する、(2)制御モデルからSWCを作成する、(3)SWCとBSWからRTEを生成し車載ソフトウエアとして実装する、という3段階に分けることが可能である。ツールベンダは、各プロセスでAUTOSAR仕様のリリース2.0もしくは2.1に対応した製品の市場投入を進めており、2008年以降は本格的なECU開発に利用できるリリース3.0に対応した製品開発が完了する見通しだ(表1)。

ベクター・ジャパンの櫻井剛氏 ベクター・ジャパンの櫻井剛氏 

 ドイツVector Informatik社は、車載ネットワーク関連の開発・テストツール「CANoe」などで有力なツールベンダだ。OSEK/VDX準拠の組み込みOS「osCAN」や、CANの通信スタック「CANbedded」など、組み込みソフトウエアそのもののも提供している。

 日本法人ベクター・ジャパン組込ソフト部の櫻井剛氏は「当社は、AUTOSAR準拠のソフトウエア開発すべてをカバーする開発ツールと組み込みソフトウエア製品を提供している。特に、自動車メーカーが市販車開発用の仕様として考えているリリース3.0に対応した製品を現時点で市場投入できているのは当社だけ。すでに、AUTOSARプラットフォームとして複数の自動車メーカーが採用している」と語る。

図4 Vector社のAUTOSARソリューションイメージ(提供:ベクター・ジャパン) 図4 Vector社のAUTOSARソリューションイメージ(提供:ベクター・ジャパン) 

 同社のAUTOSAR対応製品は、開発ツールの「DaVinci Tool Suite」と組み込みソフト「MICROSAR」に分けられる(図4)。DaVinciにも、車両のシステム設計を行う「System Architect」、ECUのネットワークトポロジーを決定する「Network Designer」、SWC内のタスク割付やRTEの生成を行う「Developer」がある。また、MICROSARでは、実績の高いCANbeddedやosCANのAUTOSAR対応製品をはじめ、すべてのBSWを提供できるという。「AUTOSARでは、段階的な移行を可能にするために、OSやCANドライバだけを利用することも可能になっている。そういった顧客の求めに応じて、BSWをコンポーネント単位で販売することも可能だ」(櫻井氏)という。また、MCALについては半導体メーカーとの共同開発だけでなく独自に対応することもある。リリース3.0に対応していないMCALと、すでに3.0に対応している上位BSWとの統合などにも実績がある。

 現在、国内で提案を強化しているのが、パソコン上での試作評価が可能な「AUTOSAR Evaluation Bundle」だ。基本的にはDaVinci Tool SuiteとMICROSAR製品のセットだが、CANoeのパソコン接続インターフェースに対応するBSWも追加することで、実マイコンや評価ボードなどを使わずにパソコン上でAUTOSAR対応ソフトウエアの動作検証ができる。

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