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組み込み向け「x86」の現状に迫る(3/4 ページ)

» 2008年09月01日 00時00分 公開
[Brian Dipert,EDN]

先行きは不透明――AMD社

 続いて、過去の歴史も振り返りながら、AMD社の現況を紹介する。

 AMD社は、Intel社が2000年代前半にもたついている隙を最大限に活用した。AMD社が1999年に発表したマイクロプロセッサ「K7(Athlon)」は動作周波数当たりの性能の高さと消費電力の少なさでIntel社が翌年に発表したNetBurstベースのPentium 4を上回り、市場に普及した。

 Intel社は対抗策として独自アーキテクチャの64ビットマイクロプロセッサであるItaniumを開発し、64ビットシステム向けに攻勢をかけ続けたが、極端にハイエンドな一部のシステムを除いては受け入れられなかった。これに対し、AMD社は32ビットシステムとの互換性を重視してAthlonに64ビット命令のサポートを追加することにした。それが2003年に登場したK8ベースのAthlon 64とOpteronである*4)。これらのプロセッサはHyperTransportリンクとメモリーコントローラを内蔵しており、このことも市場に普及する要因となった。2005年にはAMD社はマルチコア版のOpteronと「Athlon 64 X2」を発表した。x86系では初めてのモノリシックマルチコアプロセッサである。

 しかし、ここ数年の間に、AMD社の大きな弱点が明らかになった。AMD社の事業規模はIntel社のそれよりもはるかに小さい。そのため、個々の開発プロジェクトの成否がAMD社の企業収益に非常に大きな影響を及ぼしてしまうのである。

 AMD社は2003年に次期マイクロアーキテクチャ「K10」の議論を始めた。2006年にはクワッドコア版のOpteronである「Barcelona」と、Athlonの後継となる次世代クワッドコアプロセッサ「Phenom」の概要を発表した。しかし、Barcelonaの製品発表は2007年9月と当初の計画から遅れた。

 さらにまずかったのが、Phenomの2次TLB(translation lookaside buffer)における不具合である。AMD社はTLBそのものを修正する前に、当初の対策としてBIOSベースのパッチ(マイクロコード)をPhenomに添付して出荷した。ところが、このパッチを適用すると、多くのベンチマークテストで性能が明らかに下がるという副作用がオマケについていたのだ。

 AMD社の製造プロセスは、Intel社に比べると1世代遅れている。そのため、最新のOpteronとPhenomでも、ベンチマークの結果はIntel社の競合製品に劣っている。ただし、AMD社のマイクロプロセッサ製品は、動作周波数はIntel社の製品に比べると低いものの、周波数当たりの性能は高い。HyperTransportリンクとDRAMコントローラを内蔵したおかげである。そのため、2000年代の初めは競合製品と互角に戦うことができた。しかし、Intel社がCoreブランドの製品を投入してからは、性能差を埋められないでいる。AMD社が45nmプロセス技術による次期版のK10を市場に投入するころには、Intel社は32nmプロセス技術によるプロセッサ「Westmere」の製造を始めるので、再び1世代分の差がつくことになる。

写真2 AMD社のクワッドコアプロセッサPhenomX4 写真2 AMD社のクワッドコアプロセッサPhenomX4 

 もっとも、AMD社にとって悪いことばかりというわけでもない。チップ当たりの利益を低く抑えた思い切った値付けのおかげで、性能と消費電力の要求がAMD社のチップで十分な分野では、Intel社のチップに対してかなりの競争力を持っている。また、AMD社はクワッドコア版の「Phenom X4」(写真2)のほかに、トリプルコア版の「Phenom X3」も製品化した。さらに同社はK8ベースのデュアルコアCPUを65nmプロセスへと移行中である。この移行によってウェーハ当たりのチップの採れ数が向上し、全体の生産能力が拡大するはずだ。

 Intel社と同様、AMD社も組み込み向けの製品系列を用意している。供給期間を長期間保証する、出荷前のテストを強化するといった組み込み向けの扱いを加えた製品群である。

 なお、AMD社は、2003年に米National Semiconductor社から組み込み向けx86系マイクロプロセッサ「Geode」シリーズを買収した。ただし、2006年にAMD社はGeodeの設計センターを閉鎖している。


脚注

※4…Dipert, Brian,“Itanium: 'Itanic’or full steam ahead?”EDN, April 27, 2006, p.106


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