コラム
» 2008年11月01日 00時00分 UPDATE

Tales from the Cube:電子機器の解析では、「原点」に帰れ

[Hugh Shane Mitre,EDN]

 ずいぶん昔のことになるが、筆者は海底探査用のサイドスキャンソナーの製造と運用の立ち上げにかかわったことがある。新たなプロジェクトを立ち上げる際には珍しくないことだが、そのプロジェクトも予算は少なく、長時間の残業や深夜に及ぶデバッグ作業など、若手技術者(筆者もその1人だった)の苦労が頼りといった状況だった。

 筆者の主要な任務は、当初はデジタル信号処理部のハードウエア/ソフトウエアを開発することだった。運用段階に移ってからは、そのソナーを搭載する船舶の電子装置全般の操作と保守が仕事となった。


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 サイドスキャンソナーは2つの主要部分から構成される。調査船によって海中でけん引される曳航(えいこう)体(tow fish)と、船内に搭載される電子装置の2つである。曳航体のサイズは利用するソナーの周波数によって異なる。小さいものは魚雷くらい、大きいものは大型自動車並みの大きさになる。船舶の後方に接続されて海中を曳航されるのだが、海面の波の影響を受けないように十分に深く、また海中の音波伝播に歪(ひずみ)を与える水温躍層(thermocline)の下に位置するように設定される。曳航体の内部には、左舷用/右舷用として各1対のソナー(トランスデューサ)アレイ、ソナーの駆動/前処理用の電子回路、船内の電子装置にソナーの信号を送信するとともに、各種指令信号を受信するためのテレメトリ装置などが格納されている。

 一方、船内の電子装置は、ソナーの信号の強度と位相を演算するリアルタイム信号処理用のプロセッサ(筆者が開発を担当)、それらの演算結果から音波の後方散乱イメージを生成し、最終的には海底の地形図を作成するためのコンピュータから構成される。後方散乱イメージは海底の反射率を表すものである。海底の地形図は海底高度(深さ)の分布を表す。

 実は、筆者らが製造したシステムは、度々問題を起こしていた。左右のソナーからの信号ラインが混線したかのように、各ソナーが生成するイメージに他方のソナーからのイメージがゴーストとして重複してしまうのだ。このようなイメージが生じる原因は無数に考えられたが、開発期間が短すぎて十分には対処できておらず、そのまま運用フェーズに移行していた。

 この問題の解析には多大な時間が必要だった。適切な解析手法になかなか気付かず、カーペットの下を掃除するような無駄な努力を重ねていたのだ。このような無駄な時間に終止符を打てたのは、自己テストモードでシステムを動かしてみたときのことだった。このモードでは、ソナーの信号の前処理を行う回路に入力したテスト信号がデータとして出力されるまでの間を追跡することができた。このモードを使用することでゴーストの原因の解析ができることに誰も思いが至らなかったのである。幸いこのゴーストの問題には再現性があり、2〜3時間のうちに信号処理プロセッサ用のラックに組み込まれた1枚の基板に異常があることが判明した。

 問題の基板は、曳航体からテレメトリで送信されるデジタルデータの同期/多重化処理を行うためのものだった。1980年代の中ごろの技術を用いて設計されたもので、「74LS」シリーズの多数の部品によってステートマシンやマルチプレクサなどの機能が実現されていた。オシロスコープを用意し、試験台の上に回路図を広げて、問題の基板の入力から出力までの信号パスをプローブでチェックした。

 結果として、その苦労は報われた。ソナーの信号を左右それぞれのプロセッサに導く、8ビットのゲートの2つの制御端子の間に、はんだのくずを見つけたのだ。これが異常な信号が発生する原因だった。はんだのくずを吸い取ることで、ゴーストの問題は解決した。「信号パスを追跡する」という原点に戻ることが、多忙だった筆者らにはなかなか気付けないことだったのだ。

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