コラム
» 2008年12月01日 00時00分 UPDATE

Tales from the Cube:小さなネジが起こしたイタズラ

[David R Bryce(米Dataram社),EDN]

 1980年代の終わりごろ、筆者は紙幣の金額を自動的に読み取る装置の試験/修理を担当していた。その装置は、偽造した紙幣を検知する機能も備えたものだった。

 金額の読み取りは、ローラーによって紙幣を1枚ずつ送る際に行われる。そのローラーは、DCモーターによって駆動する仕組みだった。ローラーによって送られる紙幣が磁気ピックアップのヘッドを通過すると、紙幣に使用されているインクや印刷プロセスに依存した信号をヘッドが発生する。この方法を利用して、偽造紙幣の検知も行っていた。磁気ピックアップのヘッドからの信号は、高利得の計装アンプによって増幅し、その後、簡単なアナログ信号処理を施す方式だった。

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 このような仕組みを備えた装置を何台か製造したところ、いくつかの製品で、アナログ信号処理を施した信号にスパイクノイズが重畳するという問題が起きた。そこで、筆者はこの問題の解決に当たることになった。

 いろいろと試した結果、モーターの回転速度を変えることによってスパイクノイズの周期が変化するという傾向が見られた。また、スパイクノイズの振幅は、ローラーによる紙幣の送り速度を下げると減衰することもわかった。ただし、その装置で制御可能な最低の速度まで遅くしてもスパイクノイズが消えることはなかった。

 筆者は最初に、モーター自体、あるいはモーターの駆動回路がノイズの原因なのではないかと考えた。しかし、さまざまなモーターのノイズを観測してきた経験と照らし合わせると、今回のスパイクノイズが、従来のノイズと同じ類のものだとは思われなかった。筆者の経験からすると、DCモーターのノイズは、どちらかと言えば帯域が広く、連続性を持つ傾向があった。それに対し、ここで問題となっていたノイズは、心電図の波形に似たようなスパイク特性を有していたのである。

 筆者は、DCモーターを検討の対象から除外するために、駆動回路の電源をオフにし、手作業によって、できるだけ高速にローラーを回してみた。モーターによる回転速度に比べるとはるかに低速であったのにもかかわらず、やはりスパイクノイズが観測された。この結果からDCモーターが原因ではないことがわかった。

 次に、ベルトとプーリーを外して、シャフトとローラーを検討の対象とすることにした。さらに検討を進めてローラーを外してみると、スパイクノイズが発生しなくなった。逆に、外したローラーをシャフトに再度組み込むと、スパイクノイズが復元することがわかった。

 そこで、ローラーを詳細に調べてみることにした。そのローラーは特に変わったものではなく、アルミの枠の表面をゴムでカバーしたものであった。その単純な構造からは、到底、電気的ノイズなど引き起こしようもないものに思えた。

 あれこれ思案している最中、筆者は何気なく六角レンチをもてあそんでいた。それはネジによってローラーをシャフトに固定するために使うものだった。そこで、ふとひらめいた──「そうだ、このネジだ! この小さな鉄製のネジは、弱い磁気を帯びることがある」。そのネジは、磁気ピックアップのヘッドからわずかに数cm離れたところで、シャフトと一緒に回転していたのである。

 このとき、筆者の頭の中には、子供のころの光景が思い浮かんでいた。それは、筆者の父親が、コイルの近くに磁石を近づけることで、オシロスコープ上で飛んだりはねたりする波形を見せてくれたときのことだった。ずいぶん昔のことだが、今回のトラブルはそれと同じ現象ではないか。

 スパイクノイズの問題は、そのネジをステンレス製の非磁性タイプのものに変更することで解決した。その日、帰宅した筆者は、父にこの出来事を報告し、二人で昔を懐かしんだ。

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