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電動自動車の最新技術(5/6 ページ)

» 2009年01月01日 00時00分 公開
[本誌編集部 取材班,Automotive Electronics]

車体の横滑りやスリップを抑え旋回性能を高める運動制御

写真A 横浜国立大学大学院工学研究院 准教授 藤本博志氏 写真A 横浜国立大学大学院工学研究院 准教授 藤本博志氏 

 横浜国立大学 大学院 工学研究院の藤本博志研究室は、「電気自動車(EV)の運動制御」について研究している。

 EVの動力源となるモーターは、トルク応答性が速く、制御性に優れている。藤本氏(写真A)は「現行の自動車はアクセルを踏み込んでから(制御指令が出てから)エンジンが反応するまで0.5秒必要だ。これに対して、モーターのトルク応答は1m秒〜2m秒と速い。この特徴を利用して、車輪がスリップするのを防止する制御を行うことができる」と話す。

2次元車両運動を制御


図1 車輪のスリップ防止制御の例 図1 車輪のスリップ防止制御の例 制御なしの場合(左)と制御した場合(右)の車体速度と車輪速度

 同研究室は、高度な運動制御理論を研究しEVに適用している。車輪のスリップを防止するためには、車輪のイナーシャや角加速度、モータートルク、タイヤ半径などのデータを基に、制御用コンピュータで1msごとに車輪の運動量を計算して、タイヤが発生する1万分の1秒ごとの駆動力を測定する。車速と比較すれば路面とタイヤの状態を推定することができ、スリップが生じないようにモーターの回転力を制御する。運動制御を行った場合と制御しなかった場合の車体速度と車輪速度の関係は図1の通り。

 2次元車両運動の制御については、左右の車輪を独立に駆動することと、前後輪をアクティブに操舵することで、ほぼ理想的な旋回性能を実現できるという。また、ハブの中に横力を計測するセンサーを内蔵し、横滑りが発生したときは、遠心力を打ち消すための駆動力を後輪に与えることで、車両のスピンを防止する。

最大トルクは680Nm

写真B 藤本博志研究室の「FPEV2-Kanon」 写真B 藤本博志研究室の「FPEV2-Kanon」 

 小型EV「FPEV2-Kanon」は、研究成果の実証のために独自設計した実験車である(写真B)。製作するにあたって、?ギアレス構造の高トルク、高出力インホイールモーターの搭載 ?アクティブ前後輪操舵の実装、の2点を開発ターゲットとして決めたという。

 FPEV2-Kanonの車体サイズは2300mm×1600mm×1510mm、車体重量は650kgである。以下に、システムの主な特徴を挙げる。

 インホイールモーターは、東洋電機製造製で最大トルクは340Nm、最大出力は10.7kW、最大回転数は1500回転/分。「インホイールモーターは後輪に2基搭載しており、合計で最大トルクは680 Nmとなり、5リットルクラスのエンジンと同等のトルクが得られる」(藤本氏)という。

 車両制御用のコントローラはdSPACE社製の「AUTOBOX-DS1103」を使用した。また、ステアリングシステムは、ドライバーの操舵を電気信号で前後輪に伝達するステアバイワイヤー方式とした。アクティブステアリング用のモーターは、Maxon社製のDCモーターである。

 電池はリッセル製のリチウムイオン電池を採用し、1個当たり出力15Vの電池セルを10個接続した。電池から出力された電圧をチョッパ回路で300Vに昇圧してインバータに給電する。

完全追従制御で応答性を0.1m秒に

 同研究室では、車両運動制御の限界にも挑戦している。すでにHDDなどで実用化されている「パーフェクトトラッキング(完全追従制御)」技術を応用すれば、「モーター制御を現在の1m秒の応答速度ではなく、0.1m秒で制御することができる」(藤本氏)という。そのためには、スイッチング速度を0.01m秒に引き上げなくてはならないが、「今後、SiCのトランジスタが量産されれば、低損失でスイッチング速度を100kHzまで向上させることができる」(藤本氏)と述べる。


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