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ICの電力管理、最大の課題は検証手法(3/3 ページ)

» 2009年02月01日 00時00分 公開
[Ron Wilson,EDN]
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DVFSの問題点

 パワーゲーティングから動的電圧周波数スケーリング(DVFS)へと進むと、問題はさらに複雑になる可能性がある。NXP社のChopra氏は、「動的電圧周波数スケーリングの設計は非常に複雑で、検証作業を完全に不可能にしてしまうことがある」と述べる。回路内の電圧アイランドにおける電圧のすべての組み合わせの一つ一つが、検証時における新しいコーナーとなるからである。

 検証作業のステップ自体は、パワーゲーティングのそれとほとんど変わらない。まずシーケンサの動作が設計者の意図に沿っているかどうかを検証する。ただし、ハードウエアに加えてアプリケーションソフトウエアが関連してくるため、この時点での問題はさらに複雑になる。動的電圧周波数スケーリングでは、あるブロックの現在の処理が高速である必要がないということをソフトウエアで検出することにより、ブロックの電圧を変更可能とする。実際、動的電圧周波数スケーリングの設計では、シーケンスが非常に複雑になるため、ステートマシンの代わりにマイクロコントローラやCPUが使用されることが多い。これにより、シーケンスの検証においては、ハードウエアの検証の問題にソフトウエアの検証の問題が加わることになる。

 次に、電圧変更時に隔離されたブロックが正しいイベントシーケンスをたどっているか否かを検証しなければならない。この作業は悪夢のように複雑なものになる恐れがある。シーケンサ、クロックゲーティング回路、状態保持回路、隔離バッファのそれぞれが異なる電圧/クロックドメインにあり、異なるタイミングで動作している可能性があるからだ。eInfochips社のRanpura氏は、「シミュレータが電圧レベルの差をキャプチャすることができなかったために、クロックゲーティング信号が早く発行されてしまうケースがあった」という例を挙げた。

 IBM社のFloyd氏は、「互いに接続されたブロックが異なる電圧と周波数で動作している場合、システム全体としては非同期であっても、局所的には同期をとる必要がある」と指摘する。「当社は、非同期パスを検出し、それらが同期ドメインを横切る際の属性をチェックするツールを開発した。例えば、クロックのサイクル時間に変調をかけて、損失するデータがないことを検証するといったことが行える」とFloyd氏は語る。

 シグナルインテグリティも問題になり得る。東芝のKrishnamoorthy氏は、「コーナーのすべての組み合わせにおいて、動作が機能的に正しいことを確認すればよいというものではない。電圧によって、クロストークも変動する可能性があることを覚えておいてほしい」と警告する。例えば、信号を発行するブロックが低い電圧で動作している場合、その信号には問題はないかもしれないが、信号を発行したブロックが高い電圧と高い周波数で動作しており、その信号が停止中のブロックを横切る場合には、深刻な問題が生じる恐れがある。

システム的なアプローチ

 電力管理機能を設計に導入した場合、検証時にチェックしなければならない項目を細かく挙げていくと、きりがないように感じられる。そうした中、多くの専門家は「隔離されたブロックとしてではなく、システムとして検証しなければならない」ということを強調する。特に、信号レベルや非同期クロックドメインが数多く存在するパワーゲーティングや動的電圧周波数スケーリングでは、主要な問題の多くは、ブロック内ではなく、ブロック間で生じる。従って、検証チームは、電圧と周波数のさまざまな組み合わせにおけるブロック間の相互作用について精査する必要がある。

 CPFやUPFといった新しい手法は、フルチップのレベルでこのような複雑な問題に対応することを支援する。しかし、CPF/UPFのいずれも、広く使われているツールと互換性があるわけではなく、設計チームによって一般的に使用されているわけでもない。例えばIBM社は、検証におけるドメインのタグ付けやタグの検証に独自の社内ツールを用いて、システムの電力の状態が既知で矛盾がないものになるようにしている。

 アーキテクチャのレベルにおいても、電力管理の導入に伴い、検証手法がこれまで以上に強力なものへと変化することが求められている。NXP社のビジネスライン標準ICおよびマイクロコントローラ担当システム/アーキテクチャ/アプリケーションマネジャであるRob Cosaro氏は、「ICの設計には、現時点では、機能ブロックに基づく論理設計の階層と、実装に基づく物理的な階層が存在する。これらに加えて、クロックと電圧ドメインに基づく第3の階層が登場しつつある。電力管理によって、新たな階層が定義されつつあるのだ」と述べる。そして、この新しい階層をアーキテクチャ設計の段階で明確にしておくことが、検証を成功させるための最も重要な要素かもしれない。

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