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「タッチ技術」選択の指針(2/2 ページ)

» 2009年05月01日 00時00分 公開
[Andrew Hsu(米Synaptics社),EDN]
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各方式の使いどころ

 ここまで、種々のタッチ技術について説明してきたが、それぞれの使いどころはどのように考えればよいのだろうか。本稿では、最も一般的な抵抗膜方式と、近年注目されている投影型静電容量方式の2つについて説明する。

■抵抗膜方式

 抵抗膜方式のタッチ技術を提供するベンダーは、30年間にわたって技術革新を続け、その欠点のうちのいくつかを改良してきた。今日では、抵抗膜方式のタッチスクリーンを使用する場合、適切に特性が評価されたコンポーネントを容易に利用できる。また、製造技術の進歩と、この方式自体が成熟していること、そして今日までに数多くの製品が生産されていることから、最も低いコストを実現できる選択肢となっている。コストが最重要課題であり、性能は“適度に良好”であれば十分であるようなアプリケーションには、抵抗膜方式が最適だと言え、これに勝る方式はまずない。

 抵抗膜方式のタッチスクリーンでは、プラスチック、金属製のスタイラス、それらが手元にない場合には爪なども入力デバイスとして使用することができる。入力デバイスとして使用できるかどうかの基準は、狭いターゲット領域に十分な力を加えることができるか否か、柔軟な操作が可能であるかどうかということになる。

 抵抗膜方式の欠点としては、特にポリマー膜が機械的に磨耗/損傷しやすいことが挙げられる。ポリマー膜が損傷すると、ITOのコーティングに傷がつき、抵抗値が変化して、電圧の線形性が劣化してしまう。その結果、タッチされた位置の測定精度が低下してしまうことがある。

 もう1つの欠点は、抵抗膜方式はその機械的な性質により、劣悪な環境には適していないということだ。湿気の影響を受けやすく、温度や湿度によるポリマー層の伸縮がコーティングに悪影響を及ぼし、精度が低下する可能性がある。この精度の低下は、検出位置がずれるという症状として現れるので、機器の再校正が必要となる。

 そのほかに、ベゼルやウェルを使用することから、抵抗膜方式のタッチセンサーには、ほこりがつきやすい。また、多層のタッチ層をディスプレイに重ねなければならないので、透過率の低下や反射率の高さ、大きな散乱によって、光特性が低くなる可能性もある。

 再校正の問題に対して、タッチ技術のベンダーらは、4線式の実装による測定手法を改良することで対処しようと試みた。例えば、検知点を4カ所追加した8線式システムでは、感度の高い電圧勾配測定を行うことにより、広い温度範囲への対応が可能になる。これにより検出位置のズレも軽減されたが、残念ながら外側の層の環境的/機械的劣化に起因する問題には対処できていない。

 また、4本のワイヤーを基板上に使用し、外側のポリマー層をプローブとしてのみ使用する5線式システムであれば、外側のコーティングの機械的/環境的劣化の影響を受けにくい。しかし、5線式システムも8線式システムも実装コストが増大するため、携帯型機器のメーカーはこれを積極的に採用してはいない。

■投影型静電容量方式

 1990年代初めに、ノート型パソコンのトラックパッドやタッチパッドとして、投影型静電容量方式のタッチ技術は初めて量産レベルで利用されるようになった。それ以来、トラックパッドにおける事実上標準の方式として活用されている。2001年には、初めてMP3プレーヤ用のスクロールホイールにも採用された。それを機にスマートホン分野にも参入している。

 投影型静電容量方式には、堅牢性、デザインの柔軟性、複数の指を検知する能力、高いユーザーエクスペリエンス(操作性に対するユーザー満足度)を備えるといった利点がある。

 また、投影型静電容量方式では、強固な表面の下に実装することができるため、本質的に劣悪な環境に適している。例えば米Google社の提唱する携帯電話機向けプラットフォーム「Android」をベースとする米T-Mobile社製「G1」は、検知エレメントをカバーやケースの下に搭載し、静電容量方式のソリッドステートセンサー(可動部/接点のないセンサー)であるという側面をより向上させて堅牢性を実現している。また、静電容量方式を採用した場合、抵抗膜方式とは異なり、ベゼルやケースの開口部分が必要ないため、デザイン的に高い柔軟性が得られる。そのほか、韓国LG Electronics社の「PRADA Phone」では、携帯電話機の表面にタッチセンサーを組み込んで、高いデザイン性を実現している。さらに、抵抗膜方式で問題となる透過率の低下を低減できるというメリットもある。

 このように多くの利点を持つ投影型静電容量方式だが、最大の利点は何なのかと言えば、やはりマルチタッチ(複数の接触)に対応可能であることだ。抵抗膜方式でも、マルチタッチに対応できることを示したベンダーも存在する。しかし、抵抗膜方式はもともとこの用途向けに設計された技術ではない。あくまでも、1つの接触個所のみを検出するのが一般的である。一方、投影型静電容量方式のタッチスクリーンは、マルチタッチに適している。画面の拡大/縮小に用いられるピンチングや、複数ユーザーによる同時使用といった、複数の指を使用するケースに対応することが可能だ。こうしたマルチタッチ機能を機器に搭載したい場合、投影型静電容量方式を選択するのが最適である。

 そのほかの利点としては、環境の変化に応じてシステムの自己校正が行えることが挙げられる。この特徴から、抵抗膜方式よりも環境的な問題にうまく適応することできる。

 スタイラスの代わりに指が使える点も、ユーザーの操作に柔軟性を与えると言えるだろう。スクロール操作に対応するフリッキングやドラッグアンドドロップなど、指によるジェスチャに対応するのは、静電容量方式のタッチスクリーンのほうが容易である。抵抗膜方式のタッチスクリーンでは、確実にタッチするには、一定の圧力を加え、それを維持しなければならない。そのため、操作に指を使用するのは非実用的であり、ドラッグアンドドロップ操作と同様の効果を得るには、スタイラスが必須となる。

 ここまでに述べたように、投影型静電容量方式には、数多くの利点がある。しかし、コストが高いことやソフトウエアへの依存度が大きいこと、入力が不正確であることといった欠点もある。これらの欠点の多くは、同方式が実用化されてから、まだ比較的、日が浅いために生じているものだ。コストについても、抵抗膜方式に匹敵するレベルになることが期待されている。

 上述したように、投影型静電容量方式では、指によるジェスチャや複数の指の使用が可能であることから、ユーザーエクスペリエンスに優れている。しかし、このような入力操作を実現するには、ユーザーインターフェースとタッチ技術との間の密接な統合が必要となる。つまり、機器の製造企業や、それらの企業にアプリケーションを提供するサプライヤは、そのようなユーザーとの相互作用を実現するために必要となるソフトウエアを開発して、統合を図らなければならない。このこともコストが上昇する要因となる。しかし、このような高度な機能に対するエンドユーザーの需要が高まれば、OEM企業の投資の有効性が保証され、ソフトウエアに起因するコスト上昇の問題も解決されるだろう。実際、Apple社のiPhoneが注目されてから、同様の機能を備えた製品が多数販売されるようになった。このことから、上述したようなシナリオが成り立つことが確実視されており、この欠点は解消されると見られる。

 そのほかの欠点としては、入力デバイスとして使用するものは、基本的に導電体でなければならないことが挙げられる。つまり、以前に購入した機器に付いていたお気に入りのスタイラスがあったとしても、それがプラスチック製であれば、入力デバイスとして使用することはできない。先の太い特殊なスタイラスが必要である。また、導電性のスタイラスを使ったとしても、ゴム手袋をはめていると同様の問題が生じてまったく機能しない。

 また、指が大きい人や爪の長い人は、2つの文字の間に新たな文字を挿入するといった作業が困難である。画面に文字などを入力する際、指での操作は、先の細いスタイラスを用いるよりも正確さに欠ける。この問題は、ソフトウエアによって軽減することができるが、指による入力位置をきめ細かく特定する能力は、課題として残る。とはいえ、創造的なユーザーインターフェースを設計することにより、投影型静電容量方式の欠点であるこの問題を回避することは可能だろう。

用途に応じた選択

 あるアプリケーションにおいて、どの方式を使用するのかを決断する際には、いくつかの要因について検討する必要がある。例えば、その方式を利用する場合のコスト、アプリケーションの環境、タッチスクリーン自体の寸法、タッチスクリーンの寿命や使用頻度などである。ATMなどの用途にタッチスクリーンを使用する場合、画面サイズや、乱暴な使用に対する堅牢性などの面で制約が生じる。また、POS端末など画面の小さなアプリケーションや、米UPS(United Parcel Service of America)社、米FedEx社などが使用している配達端末などにおいては、何万回ものタッチ操作を行っても確実に動作する高い耐久性が求められる。

 スマートホンや高機能な携帯電話機、デジタルスチルカメラ、ポータブルメディアプレーヤ、リモコン、携帯型ゲーム機などにおいては、どの方式を使用するかという選択に対し、それぞれに独自の制約が課せられる。低消費電力であることや、コスト競争力が高いこと、ハードウエアボタンを減らす代わりに画面サイズが大きくなる傾向に対応できるようソフトウエアによる仕様変更が可能であること、消費者の好みの変化に応じて製品のデザインを柔軟に変更できること、消費者にとって使いやすく操作方法が習得しやすいことなどである。

 特に携帯電話機においては、メガピクセルレベルの画素数のカメラや、オーディオ/ビデオ用の大容量ストレージ、無線LAN接続、音声通話といった具合に機能が増加していることに伴い、画面のサイズを大きくし、ハードウエアボタンの数を減らしたいという要求が高まっている。それにもかかわらず、多様な入力コントロールが求められる。この場合、タッチスクリーンを採用することで、ハードウエアボタンが不要になり、ディスプレイを大きくすることができる。また、入力コントロールをタッチスクリーン上に配置することで、ソフトウエアによって、それらの用途を要求に応じて容易に変更できることが望ましい。それにより、機能の数は膨大であるのにもかかわらず、機器の使い勝手の向上を図ることが可能になるだろう。その場合、タッチ技術に求められるのは、デザインの柔軟性、大画面に対応可能な堅牢性、マルチタッチ機能などの高いユーザーエクスペリエンスを得るための高度なソフトウエアである。このような理由から、投影型静電容量方式が適している。

 最も普及しているタッチ技術である抵抗膜方式のタッチスクリーンは、この20年間で、数多くのアプリケーションにおいて、信頼性やコスト効率に優れたタッチインターフェースを実現してきた。一方、投影型静電容量方式は、携帯機器設計の次の選択肢として頭角を現しつつある。今後は、複数ユーザーによる操作に対応できるユーザーインターフェースとして、画像処理方式が注目を集めるだろう。

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