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発振器選択の手引きシリコン/MEMS発振器の登場で何が変わったのか(3/3 ページ)

» 2009年06月01日 00時00分 公開
[Paul Rako,EDN]
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MEMS発振器の登場

 MEMS発振器にも、水晶発振器と同様のアンプと、おそらくは同様のPLL回路が使用されている。しかし、振動子として、水晶振動子ではなく、小さなシリコン製のMEMS振動子を使用する点が大きく異なる。MEMS振動子により、MTBF(Mean Time Between Failures:平均故障間隔)、衝撃耐性、信頼性が向上する。SiTime社のマーケティング担当バイスプレジデントであるPiyush Sevalia氏によると、「例えば、JEDEC(Joint Electron Device Engineering Council:半導体技術協会)の規定に準拠して、HTOL(High Temperature Operating Life:高温動作寿命)の試験を行った場合、水晶のMTBFが1000万〜3000万時間であるのに対し、シリコンのMTBFは5億時間にも達する」と説明する。


写真1 MEMS発振器の例(提供:SiTime社) 写真1 MEMS発振器の例(提供:SiTime社) 電子部品にはさらなる小型化が求められており、発振器もその例外ではない。SiTime社のMEMS発振器の厚さは、名刺よりも薄い0.2mmを達成している。

 また、水晶発振器の場合、1kHzの外部振動が存在するだけでジッター性能に影響が及ぶ。それに対し、MEMS/シリコン発振器では、この程度の振動では影響を受けない。MEMS発振器は、基本周波数で共振するが、偶発的な振動で変調することはない。

 MEMS発振器の製造における課題の1つが、MEMSであるシリコン振動子の部分を原子レベルでクリーンに保たなければならないことである。振動子の部分に単分子の層があるだけで仕様を満たさなくなる可能性があるため、メーカーはさまざまな手法を用いてこの問題に対処している。例えば米Discera社は、部品の使用期間中に生じるガスや物質を吸収するために、希薄な状態のガス成分も除去できる反応性の物質「getter」を使用する。一方、SiTime社は、ドイツRobert Bosch社が最初に開発した技術を利用している。

 MEMS素子を封止する方法としては、素子の上部にガラスまたはエポキシ樹脂のキャップを配置するのが一般的である。しかし、SiTime社は、これとは異なる技術を採用している。

 まず、MEMS振動子の構造を作り込んでから、そのすき間をガラスで埋め、その表面にポリシリコンを積層することによりキャップする。そして、フッ化水素ガスを導入してすき間を埋めているガラスを溶解する。その後に、1000℃以上の高温下で、振動子の動作に悪影響を及ぼすガスや物質を燃焼/除去するとともに、上から分厚いポリシリコンを積層することで封止を完了する。

 これらの処理はすべて、エピタキシャル反応器という、この世で最もクリーンな環境を提供する高真空タイプの半導体製造装置の中で行われる。この新しい技術により、SiTime社は、水晶発振器に匹敵する品質を持つシリコン発振器を製造している。また、同社の製品では、MEMS振動子とCMOS回路が、水晶発振器よりも小さく薄い1つのパッケージに収められている(写真1)。

 Discera社とSiTime社の発振器は、どちらもPLL回路を集積しているので、動作をプログラムすることが可能である。Discera社は、携帯型プログラマと200個のMEMS発振器をセットにした、500米ドル未満のキットも提供している。携帯型プログラマは、パソコンのUSBポートに接続することができる。Discera社のセールスおよびマーケティング担当バイスプレジデントを務めるGerry Beemiller氏は、「このキットにより、周波数1MHz〜150MHzの範囲で、非常に高精度な発振器をプログラミングすることができる」と語る。

 一方、SiTime社は、開発現場でプログラミングすることによる利便性ではなく、要求される仕様を満たす製品を短期間で納入できることを売りにしている。同社の製品には、水晶を加工するプロセスが存在しないので、任意の周波数で動作する製品を数日で提供できるという。

選択のポイント

 デジタル電子機器において、その内部で持っている時間が正確であることは常に重要なことだ。セラミック発振器や性能の低いシリコン発振器が要件を満たさない場合には、さまざまな種類の水晶発振器の中から選択すればよい。しかし、水晶発振器以外にも、Silicon Laboratories社製の高性能なシリコン発振器や、SiTime社、Discera社製のMEMS発振器といった選択肢も存在することを考慮すると、発振器の選択は単純な作業であるとは言い難い。

 精度、消費電力、ジッター、プログラマビリティといったすべてのトレードオフ項目と、スペクトル拡散に関する要件を理解することが必要である。また、FCCのテストに通らなかった場合に備え、少なくとも電源やシステムクロック用にスペクトル拡散発振器を用意しておくことが望ましい。このような事態は、製品をいざ出荷しようという最悪のタイミングに生じるからだ。さらに、代替品となる高性能の発振器を用意しておけば保険になる。上記のすべての項目と、アプリケーションの要件に対する適合性を検討すれば、適切な発振器を選択することができるだろう。

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