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CFL/SSLの課題を探る白熱電球を超える日は来るのか?(2/2 ページ)

» 2009年06月01日 00時00分 公開
[Margery Conner,EDN]
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SSLの課題は「熱」

 コスト削減、連邦政府による規制、CFL技術の向上が相まって、家庭にもオフィスにも、より高効率なCFLの照明が採用されるようになっている。しかし、効率の良い照明はCFLだけではない。HB LEDを用いたSSLもCFLと同等の効率を得ることができる。また、色、寿命、パッケージの面で無限のバリエーションを実現する可能性を秘めている。こうしたことから、HB LEDを用いたSSLも、オフィス、映画館、家庭、街路用の照明として使用され始めている。

 照明用LEDのうち、比較的消費電力が少ない種類のものは、表示器に使用される。システムの状態を示す用途としては十分な明るさを確保することができ、消費電流は約20mA〜40mA程度で済む。それに対し、HB LEDの消費電流は通常、350mA〜1.5Aである。例えば、米Cree社のHB LED「XLamp XP-E」は、350mAで114lm(ルーメン)〜122lmの照度を実現する。また、一般にSSL向けのHB LEDは、1日の点灯時間が3時間の場合で2万5000時間(22年間)以上の寿命を持つ。こうした特徴から、堅牢性が求められる用途や、街灯などのように電球の交換が困難な用途などに適している。テキサス州オースティン、アラスカ州ジュノー、ノースカロライナ州ローリーなどの都市では、光熱費とメンテナンスコストを節減するために、街灯にHB LEDを使用している。

 SSLは、HB LEDをはじめ、冷却部品、AC-DC/DC-DCコンバータなど、いくつかの部品から構成される。こうした部品の存在は、lm/W(ルーメン/ワット)で表される照明効率の低下を招いてしまう。例えば、AC-DC/DC-DCコンバータは、単体で10〜15%の効率低下をもたらす可能性があり、照明効率の低下を招く。街灯のように、スペースがさほど重要ではない用途に対しては、HB LEDチップを大きなアルミニウム上に配置し、チップが生成するすべての熱を受動的に放散させることもできるが、家庭用やオフィス用の照明ではスペースの制約があるため、熱の放散がSSLにおける最大の課題となっている。

 LEDでは、電子と正孔が放射再結合または非放射再結合を起こす。放射再結合が起きると、LEDはバンドギャップに応じたエネルギーを持つ光を生成する。一方、非放射再結合では発光せず、LEDの結晶格子を振動させて熱を発生させる。結晶中の不純物は非放射再結合を起こす原因となるので、LEDメーカーは、不純物を最小限に抑えるために製造プロセスを絶えず改善している。しかし、HB LEDのチップサイズが大きくなれば、不純物も増えることは避けられない。すなわち、チップが大きくなるほど欠陥が生じる可能性は高くなるということだ。また、白熱電球とは異なり、LEDは熱を赤外エネルギーとして放射することができないことや、従来の白熱電球のソケットは放熱体として機能しないということも、さらに問題を悪化させている。

写真2 Nuventix社の冷却デバイス 写真2 Nuventix社の冷却デバイス 同デバイスは、空洞の中に配置されたダイアフラムから成る。電磁ドライバでダイアフラムを1秒間に100〜200回振動させることにより、空洞の穴から小さな空気ジェットが噴射される。従来のファンと比べると非常に静音性に優れている。

 加えて、LEDの温度が高くなるに連れて、照明効率と全体の電力効率は低下する。HB LEDを高温の状態で使い続けると、効率の低下だけでなく、わずかな変色と寿命の低下も生じる。HB LEDの熱を拡散する方法の1つとして、小型の電気機械式ファンを使用することが挙げられるが、それによって消費電力が増加し、照明効率が低下し、耳に聞こえるほどのノイズが生じ、信頼性が低下して、機械的な可動部品に影響を与える。HB LED用の冷却器としては、小型で、静音性、効率、信頼性が高いものが理想的である。

 こうした理想的な製品と呼べるものに、米Nuventix社のファンレス冷却器「SynJet」がある。SynJetは、必要な電流がモーターよりもかなり少なく、5V電源で動作する。同冷却器は、小さなノズルから高速な空気ジェットをパルス放射する電磁結合ダイアフラムを用いている。ノズルを離れた空気は、周囲の空気を取り込んで規模を増す竜巻のように、周囲の大気を取り込んで放射する(写真2)。

 Nuventix社は、HB LED器具向けの標準的な製品として、MR-16型とPAR-38型のランプベースに似た構成のものを供給している。MR-16型とPAR-38型構成の製品は、それぞれ最大20Wおよび50Wを放散することができる。米Lightspeed社(米Avnet Electronics Marketing社のSSLおよびLEDビジネスユニット)のディレクタを務めるCary Eskow氏は、「SynJetを用いることにより、照明効率が80lm/Wの内蔵型HB LEDの場合で、数千lmを実現することが可能だ」と語る。SynJetの価格は、少量購入の場合で、約15米ドルからとなっている。

写真3 CoolInnovations社のフィン付きヒートシンク 写真3 CoolInnovations社のフィン付きヒートシンク 先の丸いピンが、やや外側に向けて、間隔を開けて並んでいる。この構造により、対流が生じる環境においてSSLのHBLEDチップを冷却することができる。

 受動ヒートシンクにも進歩が見られる。カナダCool Innovations社のフィン付きヒートシンクは、ピンを直立させず、ピンの先端がやや外側に広がるように設計されている(写真3)。このようにすることで、直立させた場合に比べてより高い性能を実現できるという*5)。例えば、高さが1.5インチ(3.8cm)で1インチ(2.5cm)平方のフィン付きアルミニウム製ヒートシンクの場合、ピンを直立させたときの熱抵抗が16.14℃/Wであるのに対し、外側に広げたときには12.65℃/Wと、22%程度改善される。同様に、高さが2インチ(5.1cm)で5インチ(12.7cm)平方のヒートシンクでも、直立させた製品では0.74℃/W、外側を向いた製品では0.64℃/Wと、こちらも14%良い値となる。

 広く使用されている白熱電球の代替品としてSSLを使用し、最終的にはCFLからの置き換えも狙うとすれば、それは長い年月を要する壮大な挑戦となるだろう。SSLの開発を少しでも促進するために、米国エネルギー省は2008年5月、「L Prize competition」という発明コンテストを立ち上げた。その狙いは2つある。1つは、顕色性や照明出力、照明分配、ランプ形状、サイズ、フォームファクタ、外観、動作環境といったあらゆる点において、白熱電球と同等の性能を持つSSLの開発を促すこと。もう1つは、信頼性が高く、安価で入手しやすいSSLを開発することである。業界の専門家らは、コンテストの賞金は1000万米ドルほどになると予測している。


脚注:

※5…Conner, Margery, "Flared-pin heat sinks use natural convection to cool ‘green’ appli cations," http://www.edn.com/article/CA6625122.html


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