特集
» 2009年06月01日 00時00分 UPDATE

設計者が実践するコスト削減手法:VE活用のポイントをつかむ (1/3)

設計者にとって、製品のコストを削減することは大きな責務である。しかし、コスト削減の取り組みは、1つの確立された方法論にのっとって行わなければ、効率良く、確実に成果を挙げることはできない。この課題を解決するものとして知られているのが、VE(価値工学)である。本稿では、このVEを製品開発に適用する上でポイントとなる事柄を紹介する。

[野口 隆(野口コンサルタント事務所),EDN]

製品開発における問題点

 企業には、現状の維持ならびに将来の発展に向けて、常にたゆまぬ努力が求められる。特に、製造業では新製品の開発や原価の低減に向けた努力は不可欠であり、そのための計画や活動の良否が経営に影響を及ぼすことになる。また、情報の流通速度が高まり、市場がグローバル化した結果、製品に対する要求はますます厳しくなった。急速に技術革新が進むことに伴い、顧客の要求がより高度で、より多機能な方向に進んだことから、差異化を狙いとしてあらゆる製品の電子化/ソフトウエア対応が急拡大し、企業間の競争が激化している。

 一方、このような市場環境に対し、製品の設計/開発部門は、仕様や機能があいまいな状態で開発がスタートしてしまうなど、望ましい形で製品開発に対応できていない状況にある。特に、設計/開発部門には、コストコントロール機能が不足しているのが現状だ。この課題には、設計/開発部門が主体となって対処することになる。性能を確保することと製造コストを抑えることは、多くの設計者に課せられた共通の課題である。製品の性能を確保するのは設計者の責任だが、設計者だけでは、製造コストを予定原価以下に抑えることはできない。この問題を解決するために、製品開発の段階で、原価低減へ向けて努力することが重要となる。

 設計/開発の現場では、次のような問題が発生している。すなわち、開発プロジェクトの実情が見えない、ベテランのノウハウを活用できていない、新人や転入者に基本から指導しなければならない、設計情報を活かしきれていない、設計上の問題から頻繁に発生する不具合を撲滅できないといったことである。

図1 製品開発におけるコスト発生のパターン 図1 製品開発におけるコスト発生のパターン 

 これらの問題を解決するための取り組みとして、ナレッジマネジメントやプロジェクトマネジメントの重要性が叫ばれている。ナレッジマネジメントとは、社内の知的資産を最大限に活用する経営手法のことである。具体的には、知的資産を「暗黙知」と「形式知」に分類して管理する。暗黙知とは、暗黙のうちに誰もが持っている知識のことである。一方の形式知は、表に現われている知識であり、誰でも容易に認識できるものだ。

 一方、プロジェクトマネジメントが対象とするのは、品質、コスト、時間、リスクなど、相互に依存関係があるさまざまな要素だ。こうしたすべての要素を包含して目的を達成するために、プロジェクトを管理/運営する技術がプロジェクトマネジメントである。この手法では、個人または組織ごとに行われてきたマネジメントを標準化する作業が行われる。企画にはじまり、調査/計画、設計/施行、維持/管理までの一連のライフサイクル全体を、1つのプロジェクトとしてとらえることができるようになる。

 ナレッジマネジメントやプロジェクトマネジメントは、どちらかというと「管理」という目的を実現するために、管理者が主体となって実施することである。すなわち、設計者が直接実施することではない。また、製品開発において重要なコストを検討する活動ではなく、先述したような設計部門の悩みを解決するものではない。

 製品開発の過程には、図1に示すようなコスト発生のパターンがある。こうしたパターンで発生するコストの問題を解決する手法として、「VE(Value Engineering:価値工学)」が活用されている。VEは、製品開発の一手法であり、製品の機能に着目して、実現の手段をコストで評価するというものである。その活動の主体は、設計部門となる。以下、このVEの概要と、VEの活動を実践する上でポイントとなる事柄を紹介していく。

VEの基本

 VEの基本理論は、次のように定義されている。

最低の総コストで必要な機能を確実に達成することにより、製品またはサービスの価値をより高める組織的な活動

 これを具体的な概念に言い換えると、次のようになる。

製品やサービスの機能(Function)を実現する手段としてはさまざまな方法が考えられるが、それらの中で最もコスト(Cost)の安い手段でその働きを達成すれば、その物の価値(Value)が高まる

 さらに、この概念を式で表すと、以下のようになる。

 V=F/C

 ここで、Vは価値、Fは機能、Cはコストである。

 VEは次に示す特徴を備えている。

・顧客本位の考え方:顧客は、製品(もの)を買うのではなく、製品が果たしている機能(働き)に金を支払う。また、価値は、製品の提供側が決めるのではなく、顧客が決めるものである。従って、価値の改善も顧客の立場で行うことが重要である

・機能中心のアプローチ:VEは、すべての「もの」を「もの」としてではなく、それが果たしている「機能」としてとらえる。材料費や加工費などを下げるのではなく、現状の目的(機能)を達成する手段を変更して、コストを削減する。また、設計者のアイデアによって、定常業務では情報が不足していたり検討が不十分であったりするために実現できない機能を発掘することもできる

・一般性の排除と特殊性の追求:検討の対象とする製品が抱える具体的な問題を具体的に改善する。その際には、特殊性を追求し、特定部分に対するアプローチによって改善を図る。問題点を再分化し、機能を明確に分析して現状を疑ってみた上で、具体的な手段を考える

VEの進め方

図2 VEの基本ステップ 図2 VEの基本ステップ 

 上述した理論を製品開発プロジェクトに適用し、VEを実施する上では、その進め方が重要になる。VEの進め方は、VEの基本を組み入れた企業独自の方法や、対象とする特定の製品に最適化された方法などさまざまである。いずれにせよ、進め方の良否が、後述するVEの効果の大きさに影響を及ぼすことになる。

 本稿では、大手電機メーカーで長年にわたって実績を積み上げている実践方法をモデルとして紹介する。その基本ステップは、図2に示したようなものとなる。VEを実施する際には、この基本ステップにのっとって作業を行い、一段ずつ階段を上るように進めていき目標達成を目指す。

 以下、各ステップでの実施内容とポイントとなる事柄についてまとめる。

【ステップ1】 対象の選定

 VEの最初のステップは、対象とする製品を選定することである。選定に当たっては、新製品の開発計画や収益計画など、企業戦略をベースとした総合的な判断が必要になる。また、VEによる成果は経営に直結させねばならず、そのためにも、特に効果の大きなプロジェクトをVEの対象として選定することが重要である。

 選定に当たっての基本的な考え方は、VEの概念である「顧客が要求する機能とコストのバランスにより、価値を高める活動」という観点から見れば、まったく新しい製品やモデルチェンジなどの種類は問わず、すべての製品が対象になり得ると考えてよい。とはいえ、当然のことながら、経営戦略上重要で、VEを実施することにより、さらに価値を向上させる必要がある製品を対象とすべきである。もう少し具体化すると、新規開発あるいは開発途上にある製品、VEの効果が経営に直結し、しかも活動による成果が大きな製品、市場価格の低下が大きいために収益を圧迫することが予想される製品、モデルチェンジなどで新たな設計が必要となる製品などが候補となる。また、シリーズ化されたすべての製品や類似製品をまとめて対象にしたり、高額な製品や生産数量の多い製品を対象にしたりするなど、トータルでの金額が大きな製品を選定すべきだ。

 なお、VEの実施時期と製品化の時期は同期していることが望ましい。選定した製品に対しては、分析を進めるために必要となる売り上げ計画や生産時の条件を基にして、目標原価の設定や製品への適用計画などを明確にしておく。

【ステップ2】 実施計画の設定

 このステップでは、実施計画を作成してVEを進めるための準備を行う。ここで作成するプログラムの良否が、活動成果に大きな影響を与えるので、そのことを念頭において計画を立案する。

 このステップで具体的に行うことは、実施内容を設定することと、情報収集の目的/実施時期を決めることである。実施内容としては、実施方針、実施時期と活動期間、アプローチ方法などを決定する。また、情報収集の目的と実施時期については、製品関連情報、コスト情報、情報収集にかかる費用の見積り方法などを検討する。

 以上の内容を踏まえ、VEの対象とする製品の規模を確認し、実施計画を決定する。作成した実施計画は、VE計画書としてまとめ、会社幹部や事業部門の承認を得て、関係部門などに承知させておく。そのためには、キックオフ会などを開催するとよい。

【ステップ3】 機能の分析

 「機能」とは、その製品が目的を達成するために持っている「働き」のことである。顧客から要求された製品は、その製品が持っている働きにより、顧客に利益をもたらす。顧客は製品を買うのではなく、その製品が持っている働きを買うのである。

 このような背景から、機能の分析のステップでは次のようなことを行う。まず、顧客が要求している目的や働きは何なのかということを追及し、明確に定義する。続いて、顧客に必要な機能を抽出し、それらの関連を明確にする。さらに、関連する各機能の重要度を評価する。

表1 機能の分類方法 表1 機能の分類方法 

■分析の概要、進め方

 機能を分析するための基本は、機能を定義すること、機能を表現すること、機能を分類すること、機能を系統図で表現することである。それぞれ、より詳しく説明すると以下のようになる。


表2 ニーズによる機能の分類方法 表2 ニーズによる機能の分類方法 

・機能の定義:「機能」とは、その製品が果たすべき「目的」あるいは「働き」のことである。目的とは、その対象の持つ役割、使命、存在理由のことだ。また、働きとは、目的を果たすために、その対象が持っていなければならない論理的な務めである

・機能の表現:機能は、できるだけ本質をとらえられるものに抽象化し、「名詞」と「動詞」で表現する。具体的には、名詞と動詞の2語で、「○○を○○する」という形で簡潔に表現する

・機能の分類:機能は、重要度と必要度の2とおりのアプローチで分類される(表1)。重要度による分類には、基本機能と2次機能があり、必要度による分類には、必要機能と不必要機能がある。また、ニーズの観点から分類すると、顧客が要求する機能とメーカーが設定する機能があり、表2に示す相互関係がある

図3 機能系統図の基本形 図3 機能系統図の基本形 

・機能系統図での表現:各機能は「目的‐手段」の関係で結び付きあっており、機能のネットワークを形成している。各機能に対し、基本機能を定義すると同時に、各機能間の「目的‐手段」の関係を明確にして、相関関係を明らかにする。結果は機能系統図で表す(図3

 製品には多くの機能がある。それらを、上述したような形でわかりやすく定義していかなければならない。表3に示したのは、機能の定義を効率良く進めるための手順である。この手順に沿って各機能を定義していく。


表3 機能の定義の手順 表3 機能の定義の手順

■機能評価の進め方

 ここまでの流れで定義した各機能は、機能用語を用いて定性的に表現されている。これを、定量的に表現することができれば、個々の機能の重要度を見極めることが可能になる。そして、各機能を定量的に表現するためには、機能を評価する必要がある。

 VEで一般的に用いられる機能評価方法は、「相対評価法」と「絶対評価法」に分かれる。相対評価法は、各機能を重要度で比較して、定量的数値で表現する方法である。具体的な相対評価法としては、「FD(Forced Decision)法」が広く使用されている。これに対し、絶対評価法は、機能固有の仕様や特性などに着目して、定量的に表現する方法である。この方法では機能をスペックなどで表現するので、適用範囲は特定の製品に限定される。

 機能分析は、VEの最も重要なステップである。かなりの時間を要することになるが、この後のステップへの影響が大きいので確実に進めること。

VEの生い立ち

 VEは、1947年に、米国の大手電機メーカーであるGeneral Electric(GE)社の購買課長によって、資材の購入費用を低減する手法として開発された。開発当初は、VA(Value Analysis)と呼ばれたが、その後、米国国防省船舶局がVEと命名した。同局は「設計段階におけるコストコントロール技法」としてVEを正式に導入し、各契約業者にVEの実施を要求した。

 1960年、米国ハーバード大学のハインリッチ教授が来日し、VAの手法について各地で講演を行った。これにより、日本企業にVEが紹介されたことになる。この講演を契機として、自動車、電機の大手を中心に、多くの企業がVEを導入して活用している。中には、VE活動推進のための専任者を設けている企業もある。

 1965年には、日本VE協会が設立された。同協会は、米国VE協会との積極的な交流により、VEの普及と技術の向上に努めている。名称も「VE」に統一された。その後、VEは多くの中小企業にも導入されるようになり、現在では世界的規模で普及している。


       1|2|3 次のページへ

Copyright© 2017 ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

RSSフィード

EDN 海外ネットワーク

All material on this site Copyright © 2005 - 2017 ITmedia Inc. All rights reserved.
This site contains articles under license from UBM Electronics, a division of United Business Media LLC.