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進化の分岐点を迎えるカーナビ(3/5 ページ)

» 2009年07月01日 00時00分 公開
[本誌編集部 取材班,Automotive Electronics]

低価格の組み込み型カーナビ

 PNDの登場は、既存の組み込み型カーナビ市場に大きなインパクトを与えた。パイオニアの高柳氏によれば、「欧米市場では、PNDへの満足度が高い。また、日本でも自動車の用途が街乗り中心の顧客層には、PNDが受け入れられつつある」という。

 しかし、PNDは、急速に市場を拡大しすぎたこともあってか、“コモディティ化”が急速に進んでいる。価格は、2004年の数百米ドルから、現在では市場の過半が250米ドル以下にまで下落した。150米ドル以下の製品も珍しくない。こうした激しい低価格化に加えて、現在の世界のPND市場がTomTom 社、Garmin社、台湾Mitac社、米Navigon社の4社で90%を占めていることもあり、「もはや、日本のカーナビメーカーは同じ土俵では戦うことができない」(高柳氏)状況にある。

写真3パイオニアの組み込み型カーナビ「楽ナビLite」 写真3 パイオニアの組み込み型カーナビ「楽ナビLite」 日本での販売価格は約9万円と安価に抑えている。米国では、DVD-ROMを持たないモデルを約850米ドルで販売している。

 しかし、高柳氏は、「PND市場の拡大は、ナビゲーションの価値を知ってもらうきっかけになっているという側面もある」と語る。パイオニアがPNDユーザーに行ったアンケート結果によれば、次に購入するカーナビとして、「PNDではなく組み込み型カーナビが欲しい」とする人が20〜30%いたという。そして、「この20〜30%を取り込むため」(高柳氏)に、パイオニアは従来よりも低価格の組み込み型カーナビを投入した。同社が2007年に米国で発売したDVD-ROMタイプの製品は価格が1000米ドル。2008年には地図データをフラッシュメモリーに格納するタイプの製品を最低価格850米ドルで発売した(写真3)。いずれも販売は好調である。

携帯電話機との競合

 今後、現在のPNDの地位を脅かすと言われているのが携帯電話機である。通信機能により測位を支援するアシスト型GPSを搭載することにより、すでに歩行者用のナビゲーション機能は、携帯電話機の一般的な機能となっている。そして、KDDIが2005年から開始した「EZ助手席ナビ」をはじめ、携帯電話機によるカーナビサービスも数多く存在する。

 もともと、携帯電話機などで通信を行うことによりさまざまなサービスを可能にする「テレマティクス」は、組み込み型カーナビの将来的な機能として語られていた。その代表例と言えるのが、本田技研工業が提供する純正カーナビ向けサービス「インターナビ」である。2003年にサービスを開始した「インターナビ・フローティングカーシステム」では、インターナビ会員の自動車の走行データを通信機器を介して蓄積し、会員間での交通情報の取得や渋滞予測のために利用することができる。また、2008年からは、地図データの変更があったときにリアルタイムで地図データを更新し、常に最新の状態に保つサービスを開始している。

 携帯電話機は、この通信機能を備えていることから、テレマティクス機能を持つカーナビのサービスを機器単体で実現しやすいと考えられている。また、携帯電話の通信料金がより低額になったり、モバイルWiMAXなど広域無線通信のインフラが確立されたりすれば、組み込み型カーナビの通信機能を利用したサービスがさらに発展する可能性がある。

 PNDの分野でも、通信機能の取り込みに向けた活動が始まっている。Garmin社は2009年2月、台湾ASUSTeK Computer社と共同で、PND機能を備える携帯電話機を開発した。また、三洋電機の山下氏は、「現時点で、携帯電話機のナビゲーション機能の性能や操作性がPNDよりも劣っていることは確かだ。しかし、将来的にPNDが通信機能を持つことは必須になると考えている。携帯電話機を上回るには、地図データを含めた情報を新鮮に保ち、ナビゲーション専用機器としての付加価値も提案できるようにしければならない」と述べている。

外とも中ともつながる

 PNDや携帯電話機にない、組み込み型カーナビならではの機能が、自動車の走行系と連携する車両協調システムである。2008年に、トヨタ自動車と日産自動車が、カーナビと連携してブレーキ動作を支援するシステムを発表している。また、ナビゲーション機能とは直接関係しないものの、カーナビの表示ディスプレイを使った機能は、すでに数多く存在する。バックモニターに代表される駐車支援システムが代表的だが、最近では、ハイブリッド車におけるエコ運転度の詳細表示でも活躍している。

 これまでのカーナビは、自動車の本来機能とはかかわらない、ダッシュボード中央に設置されるスタンドアロンのシステムであった。今後のカーナビは、無線通信により外界とつながるのか、もしくは自動車の中にある走行系のシステムとつながるのか、どちらにしろ「つながる」ことが求められることになりそうだ。

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