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» 2009年08月01日 00時00分 UPDATE

Wired, Weird:電源回路から「音」がする

音の発生源はインダクタ。PWM制御は使っていたが、可聴音が出るような周波数ではない。では何が原因なのだろうか。トラブル解決策とあわせて解説した。

[武田 英夫,EDN Japan]

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 筆者はこれまで派遣社員として、さまざまな会社でさまざまな回路を目にしてきた。トラブルを抱えた回路、無駄の多い回路などいろいろである。本連載では、その中からいくつかの事例を取り上げ、どういう現象が起きていたのか、何が問題だったのか、どう改善したのかといったことを紹介する。本稿の内容を読者の設計実務に役立ててもらえれば幸いである。

 また、回路設計という実務から離れた業務上の改善ポイントなどの指摘も行いたいと考えている。併せて参考にされたい。

レギュレータに起きた異変

図1 問題のあった電源回路 図1 問題のあった電源回路 

 今回取り上げる例は、電源回路から異音が発生するという現象である。その電源回路は外部業者が開発したもので、その回路に用いられているインダクタから人の耳で認識できる音が発生するというものだった。

 その電源回路は、図1のようなものであった。スイッチング方式のレギュレータIC1(シャープ製の「PQ1CG2032FZH」)を利用した一般的な回路だ。よく調べた結果、次のような問題があることがわかった。

(1)IC1の4番端子(OADJ端子)の配線パターンが広い

(2)電圧検出用の信号線を電源回路の出力端まで延ばしている

(3)電解コンデンサ(出力コンデンサ)C2が、電源回路の出力端の近くに付加されている

 これらのうち、IC1の4番端子の配線パターンが広く、ノイズを拾いやすいことが特に大きな問題だ。

 IC1は、PWM(パルス幅変調)制御によって出力電圧を調整する方式を採用している。発振周波数は一定で、出力電圧が下がるとパルス幅(デューティ比)が大きくなって出力電圧が上がる方向に働き、それによって出力電圧を一定に保つという一般的な動作を行う。

 IC1の4番端子は、電圧検出用の入力端子である。この端子にノイズが混入したため、2番端子(VOUT端子)の出力が図2のような間欠発振を起こしていたのだ。この間欠発振が、異音の主な原因である。スイッチングレギュレータICは、本来は耳に聞こえない周波数で発振しているが、図2のような間欠動作となっていたため、間欠周期の逆数の周波数成分が音として聞こえていたのだ。なお、その出力波形は、間欠発振を起こしていただけでなく、本来のきれいな矩形波ではなく、形も崩れていた。

 また、問題点の(2)については、次のような経緯が考えられる。図3に示したのは、配線の抵抗成分による電圧降下を補償するために、負荷からセンス信号を取り出すリモートセンス回路である。問題となった電源回路の設計者は、こうしたリモートセンスの考え方にのっとって、出力端子の電圧を安定させるつもりだったのであろう。しかし、高周波でスイッチングしているレギュレータでは、長い配線は禁物である。

 続いて、問題点(3)について説明する。レギュレータICの内部スイッチがオンになった瞬間は、図4のように電流が流れる。一方、オフになった瞬間は、図5のように電流が流れる。ノイズの放射を小さくするには、インダクタL1、ダイオードD1、出力コンデンサC2で構成されるループ(図5の右側)を小さくしなければならない。そのため、基板レイアウトでは、C2をL1の近くに寄せて配置するべきである。「電源回路の出力端にも、コンデンサがないと心配だ」ということであれば、出力端にC2とは別のコンデンサを追加すればよいだろう。

 また、図5は、内部スイッチがオフした瞬間に、D1からC1に向かってグラウンドラインに流れる電流が急激に途絶えることも示している。この部分の配線が長いと、寄生インダクタンスが大きくなり、無視できないレベルの電圧変動が発生する。そこで、この配線を短くするために、C1はIC1の近くに配置するべきである。

図2 IC<sub>1</sub>の2番端子の出力波形 図2 IC1の2番端子の出力波形
図3 リモートセンス回路 図3 リモートセンス回路
図4 スイッチがオンした瞬間の電流 図4 スイッチがオンした瞬間の電流
図5 スイッチがオフした瞬間の電流 図5 スイッチがオフした瞬間の電流

配線は短く、部品は1カ所に

図6 改善後の電源回路 図6 改善後の電源回路 

 上述した事柄を踏まえ、回路基板を図6のように改造した。図中の配線や部品の配置が、実際の基板レイアウトに対応しているとイメージしていただきたい。実際には、すでに出来上がっている基板の手直しなので、出力コンデンサC2を動かせないといった制限があったが、図6の状態を目指して次の改造を行った。

  • 電圧検出抵抗R1、R2を4番端子の近くに寄せた(これによって、抵抗の反対側の配線が長くなるのは問題ない)
  • 図1−(1)の部分の配線を短くし、R2をL1の直近に配置した
  • ノイズの影響を抑えるために、R1とR2は値の小さいものに変更した
図7 ノイズ源のモデル(その1) 図7 ノイズ源のモデル(その1) 

 これらの対策について、説明を加えよう。抵抗R1、R2を4番端子の近くに配置しなおしたのは、ノイズが混入する原因となる配線パターンの面積を減らすためである。この電源回路の出力電圧は、1.26〔V〕×(R1+R2)/R1の式で決まるので、R1、R2の比率は変えずに値だけ小さくし、インピーダンスを下げることにした。この対策については、図7に示すように考えることができる。図中の抵抗R3は、現実の抵抗器ではなく、空中から混入するノイズ(電磁波ノイズ)と等価的な信号源インピーダンスを表している。R1、R2の値を下げれば、4番端子のノイズ電圧が小さくなることが理解できよう。

図8 ノイズ源のモデル(その2) 図8 ノイズ源のモデル(その2) 

 なお、ノイズを拾ってはならない端子部のパターン面積が広いと何が問題なのかは、図7と同様のモデルにより説明することができる。すなわち、面積が広いと、図8のように並列抵抗が増えるのと同じことが起きるのだ。合成抵抗R3の値が小さくなるため、ノイズが大きくなるのである。

 本件のトラブルについては、上述した対策によって回避することができた。出力波形はきれいな矩形波となり、異音も聞こえなくなった。     

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