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» 2009年12月01日 17時33分 UPDATE

医療用超音波装置のアナログフロントエンド (1/3)

超音波を利用した診断は、がんの化学療法や胎児の診断など、さまざまな医療分野で使われている。最近では手のひらサイズの持ち運び可能な超音波診断装置なども世に出てきた。進化を遂げている超音波装置であるが、その設計には検討が必要となる多種多様な項目が存在する。本稿では、最新の超音波診断装置で用いられる技術を紹介するとともに、特にその複雑なアナログフロントエンドに注目して詳細に解説を行う。

[Paul Rako,EDN]

医療向けの超音波診断装置

 超音波診断技術は、さまざまな医療現場で使用されている。同技術を使えば、受診者の体内の臓器の画像を取得したり、血流を測定したりすることができる。また、この技術は標的型薬剤送達(Targeted Drug Delivery)などの治療の用途にも使用されている。この用途では、装置はパルス波形を生成し、それが患者の血液中の微小球と結合する。パルスは微小球を分解し、薬剤を正確に標的へと送達する。そのほか、がんの化学療法や、動物の医療分野で使われる場合もある。さらに、エレクトロニクスの進歩により、多様な新しい用途に適用可能な、より小型で高速な装置が出現している。持ち運びが可能な装置や3D、4Dの処理が行える装置も、この分野に登場してきている(写真1)。

写真1 持ち運び可能な超音波装置 写真1 持ち運び可能な超音波装置 持ち運びが可能な超音波装置により、医師は外傷や急を要する状態に関する情報を早期に得ることができる(提供:米国陸軍曹長SeanKimmons氏)。

 超音波診断装置の開発者は、ターゲットとする用途について慎重に検討し、機器の設計において、従来の技術とドップラー技術のうちどちらを使用するか、PW(Pulsed Wave:パルス波)とCW(Continuous Wave:連続波)のうちどちらを用いるのか、あるいはチャンネル数、S/N比(信号対雑音比)、A-Dコンバータの選定、消費電力、ケーブルの選択、コストといったさまざまなトレードオフ項目について検討を行う必要がある。


主要な検討項目

 上述したとおり、設計者は実にさまざまな項目について検討を行わなければならない。ここからは、そうした項目のうち代表的なものをピックアップして具体的に説明していく。

■PWかCWか

 超音波を用いた診断装置は、従来方式とドップラー方式の2つに分類することができる。B(Body)モードまたはB(Beam)スキャンとしても知られる従来方式は古くから使われている技術で、体内の臓器を透視したり、胎児の様子を調べたりするために使用される。一方のドップラー方式は、ドップラー効果を利用したものである。ドップラー効果は、1842年にこれを発見したオーストリアの数学者Christian Doppler氏から名付けられた。ドップラー効果は、観測者と波(音波や電波など)の発生源との相対的な速度により、波の周波数が変化する現象のことである。救急車が近づいてくるとき、真横に来たとき、遠ざかっていくときのサイレンの音を思い出せば、この効果については思い当たるだろう。PW(パルス波またはカラー)ドップラー方式では、速度情報を基に符号化を行い色として画面上に表示する。CW(連続波またはスペクトル)ドップラー方式は、音の連続波を体内へと分散し、反射信号の位相のずれを測定する。CWドップラー方式は、速度情報のみを出力し、動きがどこで生じたかについての情報は出力しない。

 すべての超音波システムにおいて、方向性信号の送受信のための信号処理手法である、ビーム形成(Beam Forming)およびビーム走査(Beam Steering)方式を使用することができる。医師は、PWドップラー技術を利用することで、受診者の内臓器官や血流などを透視することが可能になる。CWを用いたシステムでは、どこに血液が流れているかを知るすべがないため、特定のポイントを対象とする必要がある。このため医師は通常、CWドップラー技術を、従来方式の超音波信号パスへのアドオンとして使用する。従来の超音波システムで動脈や静脈を検出してから、CW技術の高い分解能でその血流を詳しく調べるのである。

 ビーム走査を採用するドップラーシステムは、ビームを走査し、高い空間分解能を実現する圧電トランスデューサの線形アレイを使用する。線形アレイの中央のパルスを遅延させることにより、体内の1カ所に集中してパルスを送信することができる*1)

■チャンネル数

 超音波装置のチャンネル数は、16個〜512個といった具合に幅がある。持ち運びのできる超音波装置などの場合、チャンネル数は少ない。一方、チャンネル数が多い装置は移動するのに車輪付きカートが必要になるほど大型になる。当然のことながら、信号チャンネルが多いほどコストとサイズだけではなく消費電力も大きくなる。

 ただし、メーカーが主張するチャンネル数は、実は購入者にとってわかりにくいものになっているケースがあるので注意が必要だ。あるメーカーは、信号処理技術によって見かけ上のチャンネル数を増やし、フロントエンドのアナログチャンネル数の2倍の数をチャンネル数として主張している。一方、メーカーによっては、アナログチャンネルを、それよりもチャンネル数の多いトランスデューサに対して多重化しているケースがある。例えば、64チャンネルのトランスデューサに対して、16チャンネル幅のアナログ入力部分を切り替えて使用するといった具合だ。おそらくは、1度に1つずつトランスデューサ素子を切り替えることにより、トランスデューサ長における全ビーム形成領域を“塗りつぶして”いるのであろう。さらに、あるメーカーは、送信器の数を受信器の数よりも多くして、各トランスデューサ素子に1つのアナログチャンネルを使用する場合よりも精度を落とした結果を出力するようにしている。ポータブル超音波装置を製造する米SonoSite社の市場イノベーション担当バイスプレジデントを務めるLee D Dunbar氏によると、「素子よりもアナログチャンネル数を多くして、素子間に着目することにより、空間分解能を上げることができる」という。

■3Dと4D

 この市場において最近開発されたのが3D超音波装置であり、トランスデューサが線形ではなく2次元のアレイになっている。この手法では、システムソフトウエアにより受診者の体内の3D画像を生成する。

 なお、4D超音波装置では、3D画像に時間軸が加わる。これにより、体内の臓器の様子などを動画によって観測することができる。

■S/N比とA-Dコンバータ

 超音波画像は、アナログ信号パスのS/N比の影響も受ける。信号チェーンのダイナミックレンジが低いと、超音波システムは反射信号を識別することができない。また、アナログチップのノイズフロアが高いと、従来方式の超音波では体内の奥まで観測することができず、小さな特徴は見逃してしまう可能性がある。加えて、CWドップラー方式では、血流における遅くて小さな変化をとらえることができない。しかし、チャンネル数とS/N比のトレードオフにより、正確な画像を生成するための十分な情報をシステムソフトウエアに提供することができる。

 ほとんどのアナログ信号パスと同様に、受信器パスの最初のアンプがS/N比を制限する。体内へより大きなパルスを送ることにより、S/N比を上げることができるが、当然、上限値を超えてはならない。また、超音波システムのA-Dコンバータは、その前段にあるアンプチェーンに対し、十分なS/N比を確保したものである必要がある。最新のシステムでは、PWパスに対しては12ビット、CWパスに対しては少なくとも18ビットのA-Dコンバータを要する。こちらでも同様に、フロントエンドのアンプの出力を増幅することにより、アナログ信号チェーンにおけるS/N比を上げることができる。だが、そうすると電力の消費量も増加するのは明白だ。さらにもう1つ気掛かりなのは、数百チャンネルのシステムを構築すると、それらすべての情報を処理するためのデジタル処理やソフトウエアが必要になる点である。それにより、消費電力も大きくなってしまう。

■トランデューサ

 トランスデューサは通常、圧電効果を持つ水晶で構成される。また、音波を生成して受信する、MEMS(Microelectromechanical System)をベースにしたCMUT(Capacitive Micromachined Ultrasonic Transducer:静電型超音波マイクロトランスデューサ)の開発も進んでいる。このようなデバイスの利点の1つは、反復型の線形/2次元アレイを構成できる点である。米Maxim Integrated Products社の戦略マーケティング担当ディレクタであるJohn Scampini氏は、「CMUTは、相互接続に関する問題点をすべて取り除いてくれる」と述べる。トランスデューサはシリコンダイで実現するため、設計者はトランスデューサ自体に回路を搭載することができる。ただし、残念ながらそのようなデバイスは、まだ研究段階にある。

■ケーブルの選択

 一般的に、ほとんどの超音波装置において、トランスデューサヘッドには信号処理能力が備わっていない。その代わりに、すべてのチャンネルが同軸ケーブルによって接続されている。同軸ケーブルは150Vのパルスを送信可能で、過度に減衰することなく受信信号を伝送するために浮遊容量を小さく抑えたものでなければならない。超音波画像処理装置や、そのほかさまざまな民生/電子機器をターゲットとする米Gore社は、電気的には75Ωの同軸ケーブルと同等だが、より細いリボンケーブルを製造している。重いケーブルを操作する超音波検査では、しばしばオペレータに身体的な影響(反復運動過多損傷)が生じてしまう。Gore社の細く柔軟性の高いリボンケーブルは、こうした問題を解決する手段となるだろう。

 また、64素子のトランスデューサに対し、16個のアナログチャンネルを多重化して仮想チャンネルを生成するタイプの装置は、トランスデューサヘッドに多重化回路を搭載していることがある。この場合、ケーブルは16個のアナログチャンネルのみを収容すればよいため、太さとコストを64チャンネルケーブルの1/4にすることができるという利点がある。


脚注:

※1…Brunner, Eberhard, "How Ultrasound System Considerations Influence Front-End Component Choice," Analog Dialogue, Volume 36, No. 3, May-July, 2002


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