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長大ケーブルに生じた“幽霊信号”Tales from the Cube

» 2010年02月01日 00時00分 公開
[Jeff Fries(米GE Transportation社),EDN]

 少しばかり前のことだが、筆者は列車の車輪を検出するための装置で発生した不具合の対策にかかわったことがある。その装置は、通過する列車の車輪を検出するために電磁誘導センサーを使用していた。そのセンサーから信号が出力され、その信号がツイストペアケーブルを経由して中央処理装置に送信される仕組みだった。問題となったのは、このセンサーが、実際には存在しない車輪の存在を表す“幽霊信号”を出力するということだった。


 この事象に対し、明確な手掛かりは存在しておらず、その時点での調査からは問題の輪郭も把握できていなかった。そこで対策の手始めとして、考えられる原因と起こり得る症状を図によって表すことから着手した。その結果、原因として最も可能性が高いと思われたのは、電源からセンサー回路にノイズが混入しているのではないかということだった。そこで、近傍のほかの回路から電源回路を絶縁し、電源自体もグラウンドから浮かしてみた。しかし、予想に反して、その結果からは電源には幽霊信号を検出してしまう原因は存在しないということが明確になっただけであった。次に、中央処理装置内でのグラウンドのとり方に焦点を当てて検討してみた。解析の結果、グラウンド経路の抵抗値は1Ω以下であり、問題はなかった。

 続いて、センサーから中央処理装置に引き渡される信号の波形がどのようになっているかに重点を置いて検討を行った。具体的には、センサーからの主要なアナログ信号をデータ取得装置で取り込んでみることにした。その結果、取得したデータに異常が見つかった。強力にフィルタリングされた後のアナログ信号に、顕著な乱れが認められたのだ。さらに詳細な調査を行ったところ、この信号の乱れが車両の通過と同時に生じていることがわかった。また、この乱れには周波数が100Hzの繰り返し信号成分が含まれていることも判明した。このような経緯から、50Hzの高架電源を動力源とする電車から生じる整流ノイズが問題なのではないかとの考えに至った。この考えは論理的なものではあったが、そのノイズがどのような経路で装置に混入するのかという疑問が残った。

 問題となっていた装置には、ハードウエア/ソフトウエアで構成した強力なフィルタが組み込まれていた。しかし、その強力なフィルタの作用が何らかのノイズを約50kHzの車輪検出信号の帯域内に引き込み、システムの動作に影響しているのではないかという懸念が浮かび上がった。電車の推進システムが、広範囲の高調波成分を放出することはよく知られている。だが、そうした高調波のうち50kHzの成分が、センサーと中央処理装置をつなぐケーブルに電磁結合するものなのだろうか。装置ではシールドを施したケーブルを使用するとともに、そのシールドを受信端でグラウンドに接続していることから、当初はそのような状況は起こり得ないと考えていた。

 結論の出ない苦しい日々が1週間ほど続いたころ、昔の教科書に載っていた一節を思い出した。それは、「ケーブル長が波長の1/20を超える場合には、ケーブルのシールドの受信端だけではなく、両端をグラウンドに落とすべきである」という内容だった。試しに計算してみると、信号周波数50kHzに相当する波長の1/20は300mとなった。それに対し、筆者らのシステムでは、ケーブル長が2000mに達する場合もあった。教科書に載っていた一節は、高速デジタル回路の設計に関するものだったのだが、この考え方は、低周波のアナログ信号を伝送するケーブルに対しても有効なのだろうか。

 このように、確信はなかったのだが、われわれは配線の形態を変更してみることにした。長さが300mを超えるケーブルについては、シールドの両端をグラウンドに落とすようにしたのである。結論としては、この処置を施すことで、筆者らが抱えていた問題は解決した。

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