コラム
» 2010年03月01日 00時00分 UPDATE

Tales from the Cube:高価な計測器を超える“鷹の目”

5万米ドルもする計測装置よりも、長年の経験や知識によって磨かれた“勘”の方が、不具合の発見に役立つことがある。

[Benoit Leveille,EDN]

 数年前、筆者はケーブルテレビ用機器の顧客サポートを行っていた。担当していたのは、高周波装置だ。その装置には、衛星放送の受信器やケーブル一体型の増幅器、テレビ信号用の変調器など、さまざまな機能ブロックが含まれていた。筆者らは古いアナログ方式のスペクトラムアナライザを使って試験を行っていたが、試験の条件を適切に設定することで、ほとんどの信号の良否を表示画面上で判定することができた。筆者はそこで8年間も検査担当として働いていたので、どのような信号であれ、問題を見つけられる自信があった。

 ある日、最も重要な顧客から、映像にひどいノイズがのるというクレームが寄せられた。そして、その顧客からは、「問題となっている一流メーカー製の変調器をそちらに送付した」との連絡も入った。筆者らの部署は、正式な修理センターではなかったので、顧客には「その変調器は、近くの修理センターに転送する」と伝えておいた。

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 筆者らは、変調器を受け取ると、修理センターに転送する前に、まずはテレビ受像機に接続してみることにした。すると、画面には明らかにノイズがのった映像が表示された。そこで、スペクトラムアナライザを使って調べたところ、映像搬送波に対する帯域内ノイズのレベルが-40dBにも達していた。一般的な要求値は-60dBで、しかもそのメーカーの製品であるなら、さらに低い値でなければならないのにだ。筆者らは、このような調査結果を付けてその変調器を修理センターに送付した。

 3週間後、修理センターから変調器が返送されてきた。驚いたことに、報告書では「何の問題もない」と断定されていた。変調器は相変わらず欠陥品のままだったので、当方の技術者が修理センターの担当者に電話で状況を伝えたところ、再度修理センターに返送するよう要請された。当方の技術者は、変調器が手元にある間に、ノイズの原因を探ろうと考えた。そして、その作業を筆者が担当することになった。

 筆者は、変調回路に何らかの問題があると推定した。そこで回路を実際に調べてみたところ、1個のトランジスタが動作不良を起こしており、そのために映像ベースバンド信号が減衰していることがわかった。ベースバンド信号が減衰すると、AGC(自動ゲイン調整)回路による増幅度が大きくなる。その結果、ベースバンド信号とともに帯域内のノイズも増幅されていたのだ。筆者らは、以上のような分析結果を付けて、修理センターにその変調器を再送した。

 数日後、修理センターの担当者から電話が掛かってきた。先方の言い分は、相変わらず「問題は見いだせない」ということだった。当方の技術者は、修理センターの担当者に電話を掛けた。数分間のやりとりの後、修理センターの担当者は、「こちらに誤りがあるなどとは言わないでくれ。あの変調機は、5万米ドルもする試験機でチェックしたのだ」と言って、議論を打ち切った。想像するに、工場の大規模で高価なデジタル試験機が、不可解な計測値とともに、「この製品は規格を満足しています」とのメッセージを表示したということであろう。筆者らは変調器を再返送してもらい、自分らの手で無償修理を行うことにした。

 現在では、ほとんどの計測器はデジタル方式のものとなっている。しかし、この種の計測器でどのようなチェックが行われているのかには疑問を感じる。例えば、機器のサンプリングレートと計測の対象とする信号のレートの違いは考慮されているのだろうか。筆者らの場合、計測条件を変更し、2度、3度とチェックを繰り返す。筆者は、変調器の例のような経験から、長年にわたって蓄積した知識と熟練の技に代わり得るものはないと考えている。鋭い眼力、判断力、論理の展開力、そして簡素で適切な計測器があれば、高価なデジタル計測器のボタンを押すだけの試験よりも、はるかに価値のある結果が導き出せるのだ。

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