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北米市場で過熱するEV開発競争

» 2010年04月01日 00時00分 公開
[Automotive Electronics]

 2010年1月に米ミシガン州デトロイトで開催された『北米国際自動車ショー(NAIAS)2010』では、2次電池を走行エネルギー源とする電気自動車(EV)の勢いがひときわ目立った。

 NAIAS 2010では、日産自動車、米Ford Motor社、米Tesla Motors社、中国BYD Auto社、韓国CT&T社をはじめとする多くの自動車メーカーが新型のEVを展示した。会場となったCobo Center内では、EV専用の展示スペースとして3万7000平方フィート(約3437m2)が充てられた。実物の松の木やスイセンの花を配した1/4マイル(約400m)のテストコースが設営され、来場者はバーチャルな森の中でEVのテスト走行を楽しむことができた。

 EVの開発に注力する自動車メーカーの中でも、その意気込みを強く打ち出していたのがFord社である。同社は、この展示会で、EV用2次電池システムを自社で開発することを発表した。同社会長のWilliam Clay Ford氏は、「われわれは、2次電池システムの開発が当社の21世紀における中核事業の1つになると信じている」と語った。

 このようにEVに対する思い入れを強く打ち出した陣営と対照的なのが、電動システムとともに内燃機関を備えるハイブリッド車(HEV)とプラグインハイブリッド車(PHEV)に希望を託す自動車メーカーである。米General Motors社は、同社PHEVの「Chevrolet Volt」を、予定どおり2010年末までに市場に投入することを強調した。一方、トヨタ自動車は、コンパクトタイプのHEVのコンセプトカーを展示し、今後もハイブリッド技術の開発に注力する姿勢を明確に示した。そして、今後数年間で、新たなHEVを8車種投入すると発表した。トヨタ自動車の広報担当者は、米Design News誌の取材に対し、「すべての車種でハイブリッドモデルを開発する」とも語っている。

2つの課題

 EVの開発にあたって課題となっていることとしては、主に2次電池のコストと満充電からの走行距離の2つが挙げられる。これら2つの課題が解決されていないこともあり、EVはまだ広く一般に普及する段階に達していないと考える企業も多い。そうした企業は、現在のEV用2次電池の価格は、電池セルだけで見ても1kWh当たり700米ドル以上であり、制御システムや冷却システムを含めた2次電池システム全体では1kWh当たり900米ドル以上に達すると主張する。このことは、長めの走行距離が設定される大型のEVの場合には、2次電池システムのコストだけで4万米ドルを超える可能性があることを意味する。さらに、仕様に書いてある走行距離を実際に再現できるかどうかについては、高性能のEVでも疑わしいと言われている。加えて、2次電池の充電には6〜8時間もかかる。

 それでも、10年前に、最も成功を収めているHEV「プリウス」の開発をトヨタ自動車が推し進めたのと同じように、数多くのEVメーカーが市場に足掛かりを築こうと努力を続けている。

 EVの開発に注力する日産自動車は、EV専用車種として開発した「リーフ」を2010年内に発売する。リーフは5人乗りの乗用車で、走行距離は100マイル(約160km)、価格は3万米ドル台を予定している。購買層として想定しているのは、都市部で通勤に利用するユーザーである。同社の広報担当者であるBrian Brockman氏は、「リーフは、一般の消費者に向けて、走行時にCO2を排出しない『ゼロエミッション車』を提供するための最初の一歩と考えている。短期間のうちに内燃機関に取って代わるものにしようというのではなく、ゼロエミッションを経済的に実現できる車を提供するのが目的だ」と説明する。

写真1「Focus」のEVモデル(提供:Ford社) 写真1 「Focus」のEVモデル(提供:Ford社) 

 Ford社は、EV用2次電池の技術開発に注力すると同時に、2010年に小型商用車「Transit Connect」、2011年にコンパクトカー「Focus」のEVモデルをそれぞれ発売する計画である(写真1)。また、BYD Auto社は、NAIAS 2010で5000ポンド(約2270kg)もの2次電池パックを搭載し、走行距離が200マイル(320km)に達する「e6」を展示した。e6は、2010年内の発売が予定されている。同社は、搭載するリチウムイオン電池のコストについて、正極材料として低価格のリン酸鉄リチウムを採用していること、大規模な2次電池製造工場を自社で保有していることから、「大幅なコスト削減が可能だ」と強調した。

 一方、日産自動車は、EVを普及させるためには、充電インフラの整備も重要だと考えている。同社は現在、米国内の政府機関や電力会社と共同で、シアトル、ポートランド、サンフランシスコに加え、フェニックスからツーソンにかけての地域で充電インフラのネットワークを展開しようと準備を進めている。また、EV用充電器のメーカーである米eTec社と提携し、サンディエゴとテネシー州を含む5つの地域で公共の充電ステーションを提供することにしている。

 EVメーカー各社は、最終的には充電電圧が440Vの公共充電ステーションを整備し、2次電池の電力をほぼ完全に使い切った状態から、約25分間で80%まで充電できるようにしたいと考えている。これが実現すれば、EVの実質的な走行距離が伸びる可能性がある。Brockman氏は「90〜100マイル(約145〜169km)ほど運転したところで、サンドイッチでも食べながら駐車場で充電すれば、その後さらに70〜80マイル(約113〜129km)は運転できるだろう」と語っている。

走行距離の限界

 EVの存在感が増すに連れて、消費者は徐々にその走行距離の問題に注意を向け始めている。ドイツBMW社は、EV「MINI E」のフィールドテストでテストドライバーが「寒冷時の航続距離に関する問題」を経験したことで、その難しさを実感している。ニュージャージー州メープルウッド在住のソフトウエアエンジニアであるTimothy Gill氏は、自らのブログにおいて、冬の特に寒い時期に、MINI Eの走行距離である100マイルに達する12マイルも前で動かなくなったことを「87.8マイルでストップ、けん引」と題して紹介している。

 こうした走行距離の限界については、MINI Eのフィールドテストの参加者であれば理解しているだろう。しかし、今後EVを運転するであろう多くの人々には認識されていない可能性がある。マサチューセッツ工科大学(MIT)スローン自動車研究所の所長で機械工学教授を務めるJohn B Heywood氏は、「われわれは、一般の人々が走行距離の限界についてあまり考えたことがないという印象を持っている。実際に、走行距離に限界のあるEVに乗ったことがないから、それがどういう意味を持つのか理解できないのであろう。これは非常に大きな問題だ」と語る。

 こうした理由から、トヨタ自動車は、EVではなくHEVを選んだ。同社は、2012年に小型のEVを発売することを予定してはいるものの、先述したとおり、HEV優先の姿勢を明確に打ち出している。NAIAS 2010に来場していたトヨタ自動車の担当者は、「EV用2次電池は驚くほど高価だ」と語り、1kWh当たりのコストは1000〜1200米ドルになる場合もあると見積もっていた。

 それでも消費者は、技術が一定のレベルに達すればEVを購入してみたいと考えている。MINI Eで走行中に立ち往生してしまったGill氏は、「普通、2人乗りで100マイルしか走れない車に数万米ドルも支払わないだろう。それでもEVの技術は着実に向上している。まだ主流にはなっていないが、いずれそうなる日が来るはずだ」と期待している。

(Design News誌、Charles J Murray)

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