コラム
» 2010年05月01日 00時00分 UPDATE

Tales from the Cube:「鼻」は強力なデバッグツール

人間の嗅覚というのは、実は私たちが思っている以上に鋭いものです。時には、“デバッグツール”として活躍することも!?

[Jim Zannis,EDN]

 技術者には、状況に応じた最良のツールを素早く見つけ、それを適用する能力が求められる。適切なツールを使用することが、設計や改修を効率的に進めるための鍵となるからだ。そうしたことから、お気に入りのツールの1つや2つは道具箱に入れて常備しているという人も多いだろう。しかし、時には、“ありあわせ”のツールでも驚くほど役に立つことがある。実際、あまりにありふれたものであるため、意識することもまれだが、いつでも、どこででも使用できる値打ちの高いツールが存在する。それは、自分の鼻だ。


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 プリント基板から発せられるにおいから、部品が過熱していたり、さらには焼けたりしていることに気付いた経験はないだろうか。あまり愉快な出来事ではなかったが、筆者も同様の経験を持っている。それはカリフォルニア州のサンタバーバラに住んでいたときのこと。当時、筆者は光学用/半導体用の真空蒸着装置のメーカーであるSloan Technology社(以下、Sloan社)に勤めていた。

 ある日、コロラド大学ボールダー校の研究チームから、筆者らのところに電話がかかってきた。そのチームは太陽電池の高効率化に関する研究を行っており、Sloan社製の真空システムを利用していた。そのシステムは、電子ビーム蒸発装置や、10kVの電子ビーム用電源、フル装備のモニター、制御系を備えたものだった。チームの研究者は、この真空システムの電子ビーム用高圧電源が故障し、修理を要するということを心配そうに伝えてきた。そこで筆者は、パワートランジスタなどいくつかの主要な部品とツール類を道具箱(と言っても、弁当箱用の小さな紙袋のことだが)に入れ、大学へと向かった。

 バスケットボールのスタジアムにも匹敵しそうなくらい広い研究所に到着すると、まずは玄関に案内された。そこからガラスドア越しに、40~50mほど離れたところにあるSloan社製の装置が見えた。研究者は、筆者が持参した道具箱に目をやりながら、「道具はそれだけですか」と尋ねてきた。筆者は「そうです。でも、必要なものはすべてそろっています」と答えた。

 ガラスドアが開くと、筆者はすぐに、「何が問題なのかわかりました。電源には何の異常もないはずです」と研究者に告げた。研究者はいぶかしそうな表情をして、「一体、どうしてそのようなことが言えるのですか。問題の装置は、ずいぶん遠くにあるのに」と尋ねてきた。筆者は、「電源の動作状態は完璧です」と答えた上で、「この場で空気のにおいを嗅いでみてください。何のにおいか気付くでしょう」と続けた。「オゾンだ」と、研究者が返した。筆者は、オゾンは強い電気アークに伴って発生するという事実を指摘するとともに、真空チャンバ内には高電圧入力端子につながったケーブルが存在し、それらのどこかが短絡しているに違いないとの考えを伝えた。

 電子ビーム用の電源には、出力保護回路が組み込まれている。この回路は、周期的に高電圧を低下(フォールドバック)させ、装置の内部回路を保護するように働いている。オゾンが発生していることから、高電圧が出力されているのは確かであり、電源は正常に動作しているはずだった。また、オゾンは、後段の安全装置に短絡があり、そのせいで発生していると思われた。そうしたオゾンのにおいが研究所内に立ち込めていたのである。

 問題が起きている個所を特定するまでには時間が掛かると思われたが、まずは装置の電源を落とし、真空チャンバの高電圧端子を確認してみることにした。すると、その端子にカーボンの痕跡があることに気が付いた。結果としては、いくつかの部品を交換することによって、問題は解決した。

 思い返せば、確かに筆者は必要なものはすべて携えていた。部品やツール類に加え、道具箱に入れる必要もない、もう1つの大事なものを持っていた。それこそが自分の鼻だったのだ。

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