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» 2010年06月01日 00時01分 UPDATE

ポイントは「動的抵抗」と「クランプ電圧」:ESD保護デバイスの性能を見極める (1/2)

電子機器におけるESD対策は、今も昔も変わりなく、設計者にとっての大きな課題である。今日では、最終製品において、従来よりも高いESD耐性が求められるケースも少なくない。しかし、やみくもにESD保護デバイスを追加してもコストの上昇を招くだけだ。そうならないためには、ESD保護デバイスの性能を正しく評価し、必要十分な保護を適用する必要がある。

[Chi T Hong (米California Micro Devices社),EDN]

電子機器に迫る脅威

 ノート型パソコンや携帯電話機、あるいは米Apple社のポータブルオーディオプレーヤ「iPod」などのように、軽量で小型の民生機器には、90nm以下の微細なプロセス技術を用いたASICが使用されている。このような微細プロセス技術を用いたICは、より低いレベルのESD(Electrostatic Discharge:静電気放電)によっても、大きな損傷を受ける危険性がある。

 ASICにESDが印加される状況としては、USB(Universal Serial Bus)やHDMI(High Definition Multimedia Interface)など、ホットプラグ(活線挿抜)の機能を有するインターフェースのコネクタに、エンドユーザーが直接手で触れるケースが考えられる。人間の帯電レベルは、決して無視できるものではない。例えば、カーペットの上を歩く人が生成するESDは、パルス幅が1nsで電流値が30Aにも達するようなものとなり得るからだ。このように、ESDによって生じるパルス電流は、ASICを破壊するに十分な大きさなのである。さらに悪いことに、チップメーカーは、チップのESD耐性を従来よりも引き下げる傾向にある。

 このような状況に置かれていることから、機器設計者は、製品に対して適切にESD保護デバイスを適用することが不可欠になっている。では、どのようにして最良のESD保護デバイスを選択すればよいのだろうか。

問題なのは残留電流

 従来、ESD対策には、IEC(International Electrotechnical Commission:国際電気標準会議)が1995年に規格として承認したIEC 61000-4-2を参考にした方法が用いられてきた。IEC 61000-4-2は、最終製品の利用環境におけるデバイスのESD耐性を測定するための規格である。同規格では、8kVの接触放電と15kVの気中放電について定義している。ESD保護デバイスに対し、IEC 61000-4-2を適用して試験を行うことで、そのESD保護デバイスが耐えることのできる電圧値がわかる。しかし、この方法では、DUP(Device Under Protection:保護の対象となるデバイス)がそのESDに耐えられるかどうかは保証されないという問題がある。

 では、どのような評価を行えばよいのだろうか。これについて理解するには、ESDが印加された際にどのような現象が起きているのかを正しく把握する必要がある。

 ESD保護デバイスを付加した機器では、次のようなことが起きる。まず、ESDが印加されると、ESD保護デバイスはパルス電流の大部分をグラウンドへと短絡する。ただし、短絡することができるのはあくまでも大部分であり、完全ではない。そのため残留電流が生じる。そして、この残留電流がDUPに印加されることになる。結果として、DUPは、この残留電流に耐えなければならないこととなる。

 残念ながら、IEC 61000-4-2にのっとった試験を行っても、どれだけの残留電流がDUPに印加されるのかはわからない。それを知るには、ESD保護デバイスのクランプ電圧と動的抵抗の値を把握する必要がある。つまり、IEC 61000-4-2規格のみを基準としてESD保護デバイスを選択するのは容易なことだが、回路を確実に保護するには、それよりもずっと複雑な作業が必要になるのだ。

動的抵抗とクランプ電圧

図1 残留電流の測定方法 図1 残留電流の測定方法 ESD保護デバイスによって短絡できなかった分が、残留電流としてDUPに印加される。この電流は、図のような評価系により測定できる。
図2 ESDによるDUPの破壊 図2 ESDによるDUPの破壊 ESDデバイスの動的抵抗が大きい場合、残留電流が大きくなり、DUPに重大な破損が生じる可能性がある。
図3 ESD保護デバイスによる破壊の防止 図3 ESD保護デバイスによる破壊の防止 動的抵抗が小さければ、DUPに流れる残留電流が減少する。言い方を変えると、動的抵抗の小さいESD保護デバイスはグラウンドへのエネルギーの経路を大きく確保するので、DUPに流れる電流が削減されるということである。

 上述したとおり、ESDの発生時に、ESD保護デバイスはパルス電流の大部分をグラウンドへ短絡する。そして、短絡しきれなかった電流が残留電流となってDUPへと流れる。このような仕組みであることから、残留電流は図1の方法によって測定することができる。このとき、DUPにかかる電力は、ESD保護デバイスの動的抵抗とクランプ電圧に依存する。DUPが破壊されるのは、ESD保護デバイスの動的抵抗とクランプ電圧が大きく、残留電流も大きくなる場合だ。動的抵抗とクランプ電圧の組み合わせにより、ESD破壊が生じるのである(図2)。

 ESDにより生じたパルス電流は、ESD保護デバイスによって短絡された電流と残留電流の和に等しい。従って、ESD保護デバイスを通過する電流(短絡によるシャント電流)が多いほど、残留電流は少なくなる。また、ESD保護デバイスのシャント電流は、クランプ電圧を動的抵抗で割った値に等しい。言い換えると、ESD保護デバイスを流れる短絡電流と動的抵抗は、互いに反比例の関係にある。そのため、ESDデバイスの動的抵抗が大きいほど、多くの残留電流がDUPへと流れることとなる。逆に、動的抵抗が小さければ残留電流が減少し、ESDによる破壊を防ぐことができる(図3)。つまり、ESD保護デバイスによる保護の効果は、動的抵抗とクランプ電圧によって決まるということである。

 なお、ESD保護デバイスの性能を比較する際には、クランプ電圧も重要である。ESDの発生時には、ESD保護デバイスのクランプ電圧が低いほど、DUPに印加される電力が抑えられるからだ。言い換えれば、クランプ電圧と動的抵抗の両方を小さくすることにより、ESD破壊を防ぐことができる。両者の値を知ることで、ESD保護デバイスの性能のより正確な評価が可能になる。

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