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破断したコイルの検出方法Design Ideas

» 2010年07月01日 00時00分 公開
[Juan Pablo Caram,EDN]

 本稿で紹介するのは、鉱山(採鉱場)などで使用されるベルトコンベアにおいて、破断しているコイルを検出することを目的として考案したものである。ベルトコンベアのベルトには、細いコイルが多数埋め込まれているものがある。ベルトが傷むと、その部分が伸びてしまい、埋め込まれたコイルが破断に至ることがある。

 本稿で紹介する方法では、この破断したコイルの検出に、検出用に用意した別のコイル(以下、検出用コイル)を使用する。検出用コイルとベルトに埋め込まれたコイルとを磁気結合させ、破断したコイルが通過する際に、2つのコイルの合成インダクタンスが変化することを検出原理として利用する。


図1検出用コイルを用いた発振回路 図1 検出用コイルを用いた発振回路 この発振回路は、L1、C1の値に応じた周波数で発振する。L2が発振回路の横を通過する際、発振周波数に変動が生じる。

 図1に示したのは、検出用コイルL1を使用して構成したLC発振回路である。ベルトに埋め込まれた正常なコイルが、この検出用コイルの横を通過すると、発振周波数が変化する。その際、ベルトコンベアのベルトの走行速度が一定であれば、発振周波数は一定の周期で変調を受けることになる。一方、破断したコイルが通過する場合には、正常なコイルが通過する場合よりも、変調を受ける周期が長くなる。これが検出すべき現象である。

 この回路の発振周波数fは、検出用コイルのインダクタンスL1、コンデンサC1を用いて以下の式で表される。

 この発振回路は、消費電力は多いが、安定して動作する。また、この回路の発振条件は、LC定数の広い範囲に対して、Q値(Quality Factor)が低い場合にも、あるいはトランジスタがどのようなものであっても成立する。しかも、振幅は広い周波数範囲に対してフラットである。なお、図1の抵抗S2は検出用コイルの抵抗成分を表している。

 図中のインダクタL2とスイッチS1は、ベルトに埋め込まれたコイルが正常な場合と破断した場合とを表している。つまり、S1を閉じた場合が正常なコイルに相当し、S1が開いた場合が破断したコイルに相当する。上述したように、検出用コイルL1とベルトに埋め込まれたコイルL2に結合があれば、2つのコイルから成る系の合成インダクタンスが減少し、結果として発振周波数が上昇する。

 次に問題になるのは、この発振周波数の変化をどのようにして検出するのかということである。言い換えれば、FM復調回路、つまり周波数?電圧変換回路をどのように構成すればよいのかというのが、次に考えるべきことだ。これを簡単に実現するには、発振回路からの信号を、適切に周波数特性を調整したローパスフィルタに通せばよい。発振回路の周波数範囲が、フィルタの周波数特性においてロールオフが始まる領域にくるように設定すれば、それよりも周波数が高くなるほど、減衰が大きくなる。その結果、FM波形はAM波形に変わり、包絡線検波回路を使って簡単に復調することができる。

図2ローパスフィルタ/包絡線検波回路 図2 ローパスフィルタ/包絡線検波回路 ローパスフィルタにより、発振回路からのFM変調波を包絡線信号に変換した上で、後段の包絡線検波回路に通す。

 図2に、発振回路からの信号を受け取るローパスフィルタ/包絡線検波回路を示した。初段のローパスフィルタは、抵抗R5とコンデンサC2から成るありふれた構成のものである。それに続く包絡線検波回路は、ダイオードD1、抵抗R6、コンデンサC3から構成されている。この回路の出力電圧が一定の閾(しきい)値電圧より高いか低いかを検知することによって、検出用コイルとベルトに埋め込まれたコイルの結合状況がわかる。その閾値電圧は、実験を行って最適な値に設定する。

 この閾値電圧を用いた判定処理は、アナログコンパレータを使用するか、または信号をデジタル化してマイクロコントローラで処理すればよい。後者の方法であれば、直前に正常なコイルが通過した時点からの時間の経過も測定することが可能である。本稿では、前者のアナログコンパレータを用いる回路を示すことにする。

図32段目のローパスフィルタ 図3 2段目のローパスフィルタ このローパスフィルタにより、包絡線検波回路からの出力に含まれるリップルを除去する。
図4コンパレータ回路 図4 コンパレータ回路 IC6の出力は、C6の端子電圧がR15で設定される電圧を超えるとハイになる。

 図2の包絡線検波回路からの出力には、リップルが含まれている。そこで、さらに2段目のローパスフィルタ(次数は2次)を付加することにより、周波数成分の弁別がより正確に行えるようにする。図3に示すローパスフィルタを使用すれば、システムとしての周波数応答を損なうことなく、無視できる程度までリップルを低減することができる。

 この2段目のローパスフィルタの出力を受け取るのが、図4に示したコンパレータ回路である。図において、可変抵抗R14は、コンパレータIC5の閾値電圧の設定に使用する。そのレベルは、検出用コイルL1とベルトに埋め込まれたコイルの結合がある場合と結合がない場合の各出力電圧のセンター値に設定する。ダイオードD2、コンデンサC6、抵抗R12、コンパレータIC6から成る部分は、タイマーとして動作し、破断したコイルが存在するか否かを知らせる役割を果たす。そのタイマーの時間は、コイルの通過に要する時間よりも、わずかに長く設定する。正常なコイルが通過する際には、C6が最大電圧まで急速に充電され、その後、ゆっくりと放電する。コイルが通過する時間が一定値以内であれば、C6の端子電圧は可変抵抗R15で設定する閾値電圧より低くはならない。そのため、コンパレータIC6の出力はローの状態を保ち、LEDのD3が点灯する。一方、破断したコイルが通過した場合には、C6の端子電圧が低下してIC6の出力がハイになり、その結果、LEDのD3が発光しなくなる。

 この回路を現場で使用するには、作業者に警報を確実に気付かせるよう、出力をラッチするのが望ましい。そうすれば、電源を切断してベルトコンベアを停止させることができるし、さらには破断個所の表示と早急な修理も可能になる。回路を構成する部品は、さほど精度の高くない一般的なものでかまわない。ディスクリートのトランジスタやオペアンプ、発振回路、フィルタ、復調回路、磁気結合回路などが使用されているので、学習用教材としても役立つだろう。

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