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» 2010年08月01日 00時00分 UPDATE

対応機器で解決されるべき課題とは?:3D普及への道 (1/3)

3D映画の公開や、3Dテレビ、3Dビデオカメラの発売や発表が相次ぐなど、3D業界の勢いは加速するばかりだ。今後も3D対応機器やコンテンツが増加するのは間違いないが、一般家庭に3Dテレビを普及させるには、3Dメガネやディスプレイ、コンテンツの配信方法についての課題を解決しなければならない。本稿では、3Dの実現方式について簡単に見直した後、3Dを普及させる上で問題となる事柄を指摘してみたい。

[Brian Dipert,EDN]

3Dにたどり着いた映画業界

 2009年末に公開された3D映画『アバター』は、世界中で爆発的なヒットを記録した。それ以外にも、3D映画が続々と封切られ、3Dテレビを大手メーカーが相次いで発表するなど、3Dへの関心は高まるばかりである。筆者は、2010年1月に米国ラスベガスで開催された『CES(Consumer Electronics Show)』で多種多様なハードウエア、ソフトウエア、サービス、コンテンツを目にしたり、『アバター』が注目を集めたりする前から、萌芽期にあった3D業界に着目し、観察を続けてきた。数年前、次の大ブームを巻き起こすのは3Dだろうと筆者に気付かせてくれたのは、過去の教訓である。

 1920年代後半、白黒映画は無声映画からトーキー(映像と音声が同期した映画)へと移行し始めた。当初、この移行を後押ししたのは、視聴者と、コンテンツをより魅力的なものにして市場を拡大したいとする映画会社であった。トーキーへの移行は緩やかに進んでいった。しかし、第2次世界大戦の終わりには、白黒テレビが一般家庭に普及し始め、状況に変化が訪れる。映画制作会社や映画館の経営者は、映画を観に来る人々の目と財布が、テレビに奪われる可能性があると考えた。そのため、白黒映画からカラー映画への移行が、急速に進められることになったのである。

 1953年の終わりには、NTSC(National Television System Committee:全米テレビジョン放送方式標準化委員会)規格が策定され、最初のNTSC放送が開始した。それに不吉な前兆を感じた映画会社や制作者は、テレビに対抗するために、新たな措置を講じようと考えた。そして登場したのが、ワイドスクリーンとサラウンドサウンドである。ワイドスクリーン映画は登場するや否や注目を集め、競合するワイドスクリーン技術の間の差異を業界が解決すると、直ちに普及した。サラウンドサウンドを最初に採用したのは、1940年の『ファンタジア』(米Walt Disney社)だが、サラウンドサウンドが映画館で広く採用されるようになったのは、ワイドスクリーンよりも後のことである*1)

 話を現代に戻すと、高精細ワイドスクリーン画面と、Hi-Fi(高忠実度)サラウンドサウンドオーディオシステムは、今や一般家庭にも普及している*2)。これらの技術を利用するのは、高品位の音声/ビデオコンテンツである。CD、DVDなどの光ディスクや、さまざまな有線/無線のブロードキャストチャンネルを介して、高品位コンテンツは家庭で視聴されている*3)、 *4)

 これに対して映画業界は、1950年代に一度は試そうとした、より競争力を持つ技術に目を付けた。それが3Dである。現在のところ、その思惑どおり、3D映画は大きな成果を収めている。

 ちなみに、3Dの導入の前に、映画業界にはもう1つの新たな進化があった。それはデジタル映画という概念だ。ハロゲン化銀フィルムを感光材に用いる従来の映画技術に対し、デジタル映画にはいくつかの利点がある。しかし、そのほとんどが映画館や制作会社に対するものであった。すなわち、配布や決済が容易で、繰り返し上映してもメディアが劣化しないという利点である。従って、デジタル映画というだけで、観客を映画館に引き付けるのは難しい。ただし、デジタル映画技術には、アナグリフ方式メガネ(赤と青のフィルタを利用した2色レンズメガネ)よりも優れた3D映像の映写と視聴を可能にするという利点もある。このアナグリフ方式メガネは、50年以上前に業界に導入されたものだが、その後すぐに廃れてしまった*5)

 さて、映画館の経営者には気の毒だが、3Dは、おそらく映画業界が思っていたのよりも早く一般家庭向けに登場してしまった。このことから、映画館の行く末を心配する向きもあるだろう(別掲記事『映画館の役割も変わる?』を参照)。では、3Dは一般家庭で急速に普及するのだろうか。ここで振り返ってみると、2009年の米国におけるNTSCからATSC(Advanced Television Systems Committee)への移行は、標準画質のCRT(ブラウン管)から高精細の液晶ディスプレイやプラズマディスプレイへの移行を促進することには成功した。一方で、ハードウエアとコンテンツライブラリの両方において、DVDからBlu-rayディスクへの移行を促進させようという民生電子製品業界の試みは、それほど成功してはいない*6)

 ここ数年間の景気後退により、消費者の購買意欲は低下し、民生電子製品業界は大きな打撃を受けた。現在、同業界は、3Dが消費者の関心と購買意欲を高める起爆剤になるかもしれないと期待している。しかし、それに向けて解決しなければならない課題も多い。

映画館の役割も変わる?

 3D技術が急速に家庭に浸透すれば、映画館とホームシアターとの間には、たいした違いがなくなってしまうかもしれない。だからといって、これが必ずしも映画館の役割の終えんにつながるというわけではない。

 例えば、コンサートやスポーツなどのイベントを映画館でライブ放映するという試みがいくつかの国や都市で行われ、大成功を収めている。これらのほとんどは2Dで放映されたが、多くのイベント会場のインフラ設備を考えれば、3D放映が実現するのもそう遠い話ではないと思われる。2012年夏のオリンピックや次のスーパーボウル、あるいは、バンド椀?のライブ演奏、コンサートなど、自宅から離れた場所で開催されるイベントが、大画面の3D映像とサラウンドサウンドで、しかもライブで楽しめるのならば、筆者は喜んで見に行くだろう。



脚注

※1…Dipert, Brian, "Expanding options bring surround sound to the forefront...and the back...and the ceiling...and the floor...," EDN, Jan 10, 2002, p.34

※2…Dipert, Brian, "Master of some: direct-view-display technology," EDN, March 3, 2005, p.38

※3…Dipert, Brian, "CES 2009: Blu-ray's continued struggles and the ramping ascendancy of online," EDN, Jan 9, 2009

※4…Dipert, Brian, "Transporting high-def video broadcasts: Are wireless networks up to the task?" EDN, Aug 20, 2009, p.24

※5…Dipert, Brian, "Display enhancements accept no compromises," EDN, Dec 7, 2000, p.47

※6…Dipert, Brian, "Thin air : ATSC reception isn't always easy," EDN, May 14, 2009, p.20


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