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試験の観点から見たLTE対応システムの開発に必要なものとは?(5/5 ページ)

» 2010年09月01日 00時00分 公開
[Reiner Goetz/Anne Stephan/Meik Kottkamp (ドイツRohde&Schwarz社),EDN]
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基地局の開発と試験

 基幹装置メーカーにとっては、LTEの基地局を迅速かつ効率的に開発することが主な課題である。通常、メーカーはネットワークの商用サービスを開始するかなり前に試験システムを配備する。可能であれば、試験の段階で、試験システムと商用プラットフォームを一緒にネットワーク上で稼働させる。メーカーが2009年にLTE実地試験を数多く実施したのは、こうした理由からである。メーカーはGSMやW-CDMAなどの運用で得た長年の経験を基に、どの開発段階でどの試験を行うかを判断する。表1は、メーカーが受信器と送信器で実施した測定項目の一覧である。

表1送信器と受信器の測定項目 表1送信器と受信器の測定項目 

 LTEではMIMOを採用しているため、信号解析器を使用して検証するには、基地局のアンテナシステムを拡張する必要がある。2本の送信アンテナからプリコーディングされたMIMO信号を測定するには、2本のアンテナのデータストリームを同時に記録しなければならない。LTEは、送信側で非常に複雑なプリコーディングマトリクスを使用する。例えば、EVMなどのモジュールパラメータの測定では、通常、2本の送信信号の情報が必要になる。すなわち、モジュール試験装置には2台の解析器を接続するような設定が要求される。1台目の信号解析器の測定値は、マスター/スレーブベースで2台目に転送される。


図7 複合信号の生成 図7 複合信号の生成 このeNodeB信号の信号点配置図(コンスタレーションダイアグラム)は、異なる伝送速度や変調方式を採用した複数の要素を、どのように1本の複合信号に重ねるかを示している。

 また、LTEでは、複数のユーザー端末が同じ周波数チャンネルを使用する。各ユーザー端末は伝送速度が異なることもあるし、変調方式もQPSK(Quadrature Phase Shift Keying)、16QAM(Quadrature Amplitude Modulation)、64QAMといったように異なる可能性がある。加えて、基地局の送信信号はユーザーデータのほか、リファレンス/チャンネル推定情報、シグナリングデータを含んでおり、これらのデータが1つの複合信号を構成する(図7)。

 さらに、MIMOでは送信信号に対して正確な時間調整が要求される。そのため3GPPの試験仕様には、2本以上のアンテナの信号が最低90nsの精度で同期することを確認する試験が含まれている。この要求が満たされれば、基地局の各アンテナからのMIMO信号をRF信号上で複合し、その複合信号を信号解析器の入力として使用できる。

 受信器の試験では、標準に準拠したLTE信号を、さまざまな伝播モデルに沿って基地局の受信パスに適用する必要がある。通常はPRBS(擬似ランダムビット列)信号が使用される。信号長が既知の場合、基地局はPRBS信号を復元できる。また、簡単な比較によって誤り率を得ることが可能であり、この誤り率を使えば、異なる伝播条件下における基地局の受信性能を評価することができる。

 受信器の試験には多様な干渉シナリオと電波の伝播条件が適用されている。そのため、信号発生器はリファレンス信号を発生できなければならない。試験装置上で自由に信号を複合でき、リファレンスチャンネルや指定した伝播チャンネルモデルを作ることができれば、自由に試験シナリオを設定可能だし、エラーの検出も大幅に簡略化できるだろう。

 最近の基地局の設計では、RRH(Remote Radio Head)が一般的になっている。こうした設計では、RF部品と基地局増幅器はアンテナのリモートフロントエンドに直接搭載される。この設計の利点は、アンテナと接続するRFケーブルの線路損失を防いで、基地局の有効出力電力を増大できることである。ベースバンド信号は光ケーブルによってRRHに送られる。W-CDMAの基地局向けには、CPRI(Common Public Radio Interface)とOBSAI(Open Base Station Architecture Initiative)の2つのデジタルインターフェース規格がある。モジュール化設計を推進するほかに、こうしたインターフェースを標準化すれば、開発段階での誤りを発見しやすくなる。また、インターフェースの標準化は他社製のモジュールの併用も可能にする。さらに、基地局のベースバンド信号を複数のRRHに接続できるため、例えば建物内に最適な通信環境を構築することも可能になる。

 現在、LTE向けに最適化されたインターフェースの標準化作業が進められている。試験/測定装置、とりわけ信号発生器と信号解析器では、ベースバンド‐RF間のデジタルインターフェースをサポートできることが要求される。そうすれば、ベースバンドモジュールやRFモジュールを単体で試験できるからだ。一般的にはコンバータモジュールが、測定中の装置のデジタルベースバンド信号を標準形式に変換している。

 リソースを迅速かつ柔軟に割り当てるために、基地局は、帯域幅と変調方式の情報を含む一定のチャンネル容量をユーザー端末に割り当てる。こうした割り当ては、利用可能なネットワークセルの容量といった各種パラメータに基づいて行われる。また、基地局はパケットを正しく受信したかどうかを確認する。すなわち、データパケットを再送する必要があるのか、あるいは新しいパケットの送信に進んでもよいのかをユーザー端末に対して知らせているのだ。受信器の試験において、基地局の受信部の制御手順が適切に動作していることを確かめるには、信号発生器がユーザー端末の送信信号をエミュレートし、基地局からの応答がわかるようにする必要がある。基地局からの応答を信号発生器の別の端子に入力すると、信号発生器は、同じパケットの再送を要求するか、または新しいパケットの送信を要求するかを即時に決定する。

 LTEには、その前身技術であるW-CDMAより簡略化されている部分もある。しかし、ユーザー端末はMIMOの処理が加わったことなどで全体的には複雑になり、測定試験システムに対する要求は厳しくなったと言えるだろう。W-CDMAで使用した多くの測定方法はLTEにも適用できる。しかし、RFとプロトコルの両方に測定項目が新たに加わり、パラメータ表示の範囲が広くなったほか、LTE基地局の試験では、例えば、高速フィードバックの手順を確認するために接続のオプションが拡大された。高速フィードバックの手順は、MIMO信号の発生や信号解析と同様に必要なものであり、メーカーは、この手順をマルチパス方式を用いて実現している。従来の通信システムへのハンドオーバーについて試験する場合には、複数の通信方式に対応可能なプラットフォームがあれば非常に便利である。

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