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» 2011年02月01日 00時04分 UPDATE

データシートでは、ここをチェック!:電圧リファレンスICを正しく選ぶ (1/4)

電圧リファレンスICは、安定した固定電圧を必要とする電子回路を設計する上で必須のデバイスである。本稿では、まず、電圧リファレンスICの基本的な構成について概説する。その上で、ネオン放電管から最新のICに至るまで、電圧リファレンスに用いられる電子部品/ICの歴史をまとめる。さらに、電圧リファレンスICを選択するにあたって考慮すべき各種仕様について説明する。

[Paul Rako,EDN]

精度はピンからキリまで

 電圧リファレンスICとは、基準電圧を得るために用いられるリニアレギュレータのことである。電圧リファレンスICに接続される負荷、入力電圧(電源電圧)のばらつき、周囲の温度変化、使用期間の長短にかかわらず、固定(または一定)の電圧を生成することができる。そのため、電圧リファレンスICは、電源回路やデータ取得システム、A-Dコンバータ、D-Aコンバータをはじめ、測定/制御システムを構成するさまざまな回路で利用されている。

 このように、電圧リファレンスICは一般的なものなのだが、実はその精度にはピンからキリまで大きな幅がある。例えば、コンピュータ機器の電源回路に用いるレギュレータであれば、公称値の数%以内の値を維持すればよい。それに対し、研究所などでの用途では、ppm(1ppmは0.0001%)の単位で基準電圧の精度と安定性が求められる。

 数十年前、一般的な電圧リファレンス回路の初期精度は±10%程度にすぎなかった。しかし、最新の電圧リファレンスICであれば100ppm、つまり0.01%もの初期精度を提供するようになっている。米Analog Devices社でアプリケーションエンジニアリングマネジャを務めるReza Moghimi氏は、「産業、科学、医療といった分野のように求められる要件が厳しい用途に向けては、使用時の環境によって性能がばらつくことのない電圧リファレンスICを提供したいと考えている」と述べる。このような市場に製品を供給することができる体制を持つICベンダーであれば、さらに高い精度を求められる、車載、軍事、航空/宇宙といった市場にも容易に対応することができるだろう。

図1 電圧リファレンスICの回路構成(提供:MaximIntegratedProducts社) 図1 電圧リファレンスICの回路構成(提供:MaximIntegratedProducts社) 直列型のリファレンスICは、端子を3本備える(a)。内蔵のオペアンプで出力をバッファリングするタイプのICも存在する。一方、シャント型のリファレンスICの端子数は2本である(b)。

 電圧リファレンスICは、自身に接続される負荷の位置によって、直列型のものと並列(シャント)型のものに分けることができる(図1*1)

 直列型の電圧リファレンスIC(以下、直列リファレンス)は、入力電圧用とグラウンド用の2本の端子と、固定または調節可能な電圧を出力する3本目の端子を備える。この出力電圧の調節は、IC内部の抵抗値を変化させることにより行う。直列リファレンスと負荷は直列に接続することになる。

 一方、並列タイプの電圧リファレンスIC(以下、シャントリファレンス)の端子は、入力電圧用とグラウンド用の2本だけである。シャントリファレンスでは、内部回路で電流を制限することにより、入力電圧とシャントリファレンスの間にかかる電圧を一定に保つ。入力電圧に対して、シャントリファレンスと負荷は並列に接続される。

 上述したように、電圧リファレンスICには2種類の構成がある。ただし、基本的に、電圧リファレンスICを含めたすべての電圧レギュレータは、負荷に対して並列構成を取ることに留意すべきだろう。直列リファレンスも、シャントリファレンスに対して、電流供給回路(とバッファ出力)を加えたものでしかなく、回路としては並列構成だと考えたほうが理解しやすい。

ネオン放電管とダイオード

写真1 ネオン放電管 写真1 ネオン放電管 (提供:http://www.giangrandi.ch/)1960年代に半導体技術者が固体材料ベースの電圧リファレンスICを開発するまでは、ネオン放電管が電圧リファレンス用の部品として使用されていた。
画面1 ネオン放電管のオシロスコープ波形 画面1 ネオン放電管のオシロスコープ波形 (提供:http://www.giangrandi.ch/)黄色で示したネオン放電管の電圧は、放電管内部のガスがイオン化しないと、これよりも高い値に上昇する可能性がある。ガスがイオン化して放電管が導電すると、放電管内を流れる交流電流(青色の波形)にかかわらず電圧は降下し、比較的一定な値に維持される。
図2 ツェナーダイオードの電圧–電流特性(提供:ルネサスエレクトロニクス) 図2 ツェナーダイオードの電圧–電流特性(提供:ルネサスエレクトロニクス) ツェナーダイオードは、電圧‐電流特性を表すグラフの右側においては、通常のダイオードと同じように動作する。一方、左下部では、電圧降伏が生じて比較的一定の値が維持されている。

 ICやダイオードが登場する前の時代、エレクトロニクス技術者は、ネオン放電管を電圧リファレンス用の部品として使用していた(写真1)。ネオン放電管は、ガラス管と、ガラス管の内部に組み込んだ2つの導電性端子、そしてガラス管の内部に封入した希ガスから構成されている。

 単原子から成る希ガスは、標準的な環境下において、無色無臭で化学反応性は低い。一般的な希ガスとしては、ヘリウム、ネオン、アルゴン、クリプトン、キセノン、ラドンの6つが挙げられる。これらの希ガスは、66V〜200Vの直流電圧が印加されるとイオン化することが知られている。ガスのイオン化が生じると、ネオン放電管の電圧は、直流で48V〜80Vという電圧まで低下して維持される。また、ネオン放電管に印加する電圧が、この維持電圧以下に低下すると、ランプは消灯する。再度点灯させるには、再びイオン化が生じるだけの電圧を加える必要がある(画面1)。

 ネオン放電管は、わずか10–12A、つまり1pAの電流で動作する。1966年には米Signalite社が、精度が±0.5Vのネオン放電管を製造していた*2)

 しかし1970年代に入ると、ネオン放電管に代わって、シャントリファレンスの1種であるツェナーダイオードが登場した(図2)。ツェナーダイオードという名称は、その効果を発見した研究者であるClarence Zener氏にちなんで名づけられた*3)

 ツェナーダイオードをアバランシェダイオードの一種であると考える技術者もいるが、両者は異なる物理現象に基づいていたものだ*4)、*5)、*6)。ツェナー降伏は、pn接合における電荷キャリアの量子力学的なトンネル効果によって生じる現象である。また、高濃度にドーピングされた接合において生じることも知られている。一方、アバランシェ(なだれ)降伏は、pn接合において発生する大きな電界によって電荷キャリアが加速されることで発生する。加速されたキャリアは衝撃イオン化を起こして、電荷キャリアが増加するのだ。また、低濃度にドーピングされた接合において生じる点でも、ツェナー降伏とは異なる。

 ツェナーダイオードのメーカーは、pn接合におけるドーピング条件を変えることで、アバランシェ降伏とツェナー降伏という2つの物理現象を利用して、異なる降伏電圧を持つダイオードを製造している。降伏電圧が5.6Vまでのダイオードではツェナー降伏が利用され、降伏電圧がそれ以上のダイオードで、アバランシェ降伏が利用されることが多い。2つの物理現象は、温度係数も異なる。ツェナーダイオードは温度係数が負であるのに対し、アバランシェダイオードは温度係数が正である。なお、降伏電圧が5.6Vのダイオードでは、2つの物理現象を同時に利用しているので、正の係数と負の係数が打ち消しあって温度係数が小さくなる。


脚注

※1…"Series or Shunt Voltage Reference?" Application Note 4003, Maxim Integrated Products, March 19, 2007, http://bit.ly/aQxYS5

※2…Bauman, Edward, Applications of Neon Lamps and Gas Discharge Tubes, Carlton Press, September 1966, http://scr.bi/biF0re

※3…"Clarence Zener," Wikipedia, http://bit.ly/boLopP

※4…Van Zeghbroeck, Bart, "Principles of semiconductor devices," 2007, http://bit.ly/9430PE

※5…"ECE 3950," Slides 25〜29, Villanova University, http://bit.ly/cIZe9T

※6…Kruger, Anton, "Zener and Avalanche Diodes," http://bit.ly/b0UORE


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