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» 2011年03月01日 00時02分 UPDATE

Signal Integrity:時不変性

[Howard Johnson,EDN]

 筆者の友人のChris "Breathe" Frue(以下、Breathe)は、オーディオシステムと高速デジタルシステムの両方に関連するイコライザについてもっと深く知りたいと望んでいた。彼は筆者に次のように問い掛けた。「時間というのは、それ自体いつか終わりが来るものだよね。ということは、永遠に時間的に不変(Time Invariant)なものなど存在しないはずじゃないか」。筆者は「時不変でない回路について考えてみれば、少し理解が進むんじゃないかな」とした上で、次のように続けた。


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 「古い真空管アンプの電源リップル除去に用いるコンデンサが劣化して壊れかかっているとしよう。そうすると、真空管に供給されるDC電圧には60サイクル /秒の大きな変動が重畳されるはずだ。おそらく、アンプからはハムノイズがうるさく聞こえてくるだろう。それに加え、その電源電圧の変動に伴って増幅回路のゲインが変化し、高速のトレモロのような振動が引き起こされる。この状態で、バースト状に生じる4kHzの信号の10サイクル分を取り出してゲインを手早く実測するとしよう。その場合、60サイクルのハム波形のどの部分にあった信号なのかによって、ゲインの値は異なったものになる。これに対し、時不変システムでは、ある程度の時間幅の間でなら、実測を始めるタイミングによらずゲインの測定結果は同じになる。ある時不変システムが、仮に一定量の遅延を生じさせるものだとしよう。そのシステムへの入力をさらに一定の時間だけ遅らせると、出力はそれに相当する時間だけ余分に遅れることになる」。

 「だとすると、ハムを生じないような良いアンプは時不変ってことだね?」とBreatheが尋ねてきた。「ほとんどはね」と筆者は答えた。その上で「オーディオシステムに求められる特性の中でカギになるのは、線形性(重ね合わせ性)と時不変性の2つだ。これらの特性が備わっているなら、そのシステムは任意に組み合わされた信号を、任意の時間に、それぞれ単独の信号に対するのとまったく同様に処理できる」と続けた。

 Breatheは「君は、『まったく同様に』と言ったね。そこが重要な表現なのかな」と問い掛けてきた。筆者は「確かに」と同意しつつ、「線形性と時不変性の成立する処理にはどんなものがあるかわかるかい?」とBreatheに尋ねた。「俺の知る限りでは、両方の性質を満足する唯一の処理は単純なスケーリング関数だね」とBreatheは答えた。

 これを受けて筆者は「確かにスケーリングでは線形性と時不変性が成り立つね。実は両方の性質を満足する処理がもう1つある。それは、時間遅延(ディレイ)だ。スケーリングとディレイ、さらにスケーリングとディレイをさまざまな程度で線形的に組み合わせたものだけが、線形性と時不変性の両方が成立するものとして実現可能なんだ。これらの単純な演算がイコライザの仕組みのほとんどすべての基盤になっている」。

 Breathは「ディレイとスケーリングはとても単純なものだけど、その2つしか存在しないのかい?」と聞いてきた。筆者は「この2つがとてもうまく役に立ってくれるんだ。線形性と時不変性の要求条件が、膨大な数の面倒で役に立たない関数を取り去ってくれて、線形演算、より正確に言えば線形/時不変演算だけがシステム演算を構成するのに必要な真の要素として残ることになる。例えば、信号x(t)を考え、それから少し遅れてくる信号を減算するとしよう」。筆者は、1枚の紙に「y(t)=x(t)−x(t−Δt)」という式を書いた。Breatheはその紙を見つめながら「微積分学の時間微分の定義のようだ」と言った。「そう、そのとおり。Δt(時間の変化)が微小であれば、ほぼ正確に同じものだよ。微積分学での時間微分と、時間に対する積分演算の処理は両方とも線形で時不変な処理だ。積分は単なる累積処理で、前の値に対して継続的に値を加算する。スケーリング、ディレイ、微分/積分は線形かつ時不変な基本処理なんだよ」と筆者は続けた。

 これを受けてBreatheは「通常の受動的で線形な回路は、『一群の微分演算と積分演算とが相互に組み合わされたもの』だよね。ということは、受動的で線形な電子回路は、すべて線形/時不変な処理だってことかい?」と尋ねてきた。

 「そのとおり!」と筆者は答えた。「すべての受動的線形回路は、何がしかの線形/時不変処理を入力信号に適用するだけだ。重要な点は、どのような処理を適用するかということ、そして、そうした処理が実際にどのようなことを実行しているのかという特性評価を、どのようにして実施するかということなんだ」。

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<筆者紹介>

Howard Johnson

Howard Johnson氏はSignal Consultingの学術博士。Oxford大学などで、デジタルエンジニアを対象にしたテクニカルワークショップを頻繁に開催している。ご意見は次のアドレスまで。www.sigcon.comまたはhowie03@sigcon.com。


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