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» 2011年04月01日 00時03分 UPDATE

民生機器市場にも広がるBCI技術:脳の電気信号を読み取る (1/3)

脳と電子機器を直結するBCI。これまで主に医療分野で研究開発が進められてきたが、最近では、ゲーム機器や軍用機器の市場からもBCIに熱い視線が注がれている。実際、BCIを利用したゲームコントローラもすでに登場している。では、このBCI技術は、どのような方法で実現されているのだろうか。また、この技術を利用した機器により、どのようなことが可能になるのだろうか。

[Margery Conner,EDN]

SFの世界が現実に?

 頭に命令を思い浮かべるだけでコンピュータが反応してくれる――これがBCI(Brain to Computer Interface:ブレインコンピュータインターフェース)と呼ばれる技術だ。SF映画などで、音声や身振り、キーボード入力などを使わずに、人間がマシンと通信する場面を見たことのある方もいるだろう。BCIは、このSFの世界を現実に近づけることができる技術である。

 もともと、BCIは全身麻痺の患者の治療用機器や、パーキンソン病、てんかんなどと診断された患者の脳の状態の研究などに利用されてきた。その他の応用分野としては、ゲームコントローラや軍用装置などがある。例えば、最新の人工装具の改善に取り組んでいる米国防高等研究計画局(DARPA:Defense Advanced Research Projects Agency)のバイオニックアームプロジェクトは、米ユタ大学で行われているBCIの研究に資金の一部を提供している。また、近年、軍は遠隔地から操縦可能な航空機の利用を増やしているが、いずれはBCIを航空機の操縦に利用するという動きが進む可能性もある。

BCIの実現方法

 脳は、「体液と、微弱な電気信号を発生して信号を伝達するニューロンが入った、重さ3ポンド(約1.4kg)の袋」と表現することができる。この脳内の電気信号を読み取る方法はいくつか存在する。その1つは頭骨の下にある脳の表面や内部に電極を埋め込むというものだ。この方法は人体に対するリスクを伴うことから、これまではてんかんの研究や治療といった目的のみに使用されてきた。また、ECOG(Electrocorticography:皮質脳波記録)という方法は1950年代から使用されている。ECOGは、脳の表面に直接電極を配置して大脳皮質の電気的活動を記録するというものである。

写真1 microECOGアレイ 写真1 microECOGアレイ 16個の超小型電極で構成された2個のmicroECOGアレイは、橙色と緑色のチューブの中を通るマイクロワイヤーに接続されている(a)。(b)では、32個の超小型電極で構成された1個のmicroECOGアレイを用い、その超小型電極は透明のチューブの中を通るマイクロワイヤーで接続されている。緑色のマイクロワイヤーは、大きなECOG電極に接続されている(出典:『Neurosurgical Focus』とユタ大学神経外科学部)。

 最近では米ユタ大学の研究チームが、脳と頭骨の間に直径4mm程度のシリコン電極(ECOGの電極)を配置する手法で研究を行っている。写真1*1)において、番号が振られたボタン状の大きめの電極がECOGの電極である。さらに、この例ではECOGを小型化したmicroECOGも用いている。 microECOGは、複数の超小型電極を持つアレイとして構成されている。同研究チームがこれらの小型電極アレイを頭骨と脳の間に設置して実験を行ったところ、腕の動きを制御する脳の信号を正確に感知することができたという。そこで、2種類のmicroECOGの電極を重症のてんかん患者の脳に取り付ける外科手術が行われた。脳のどの部分が発作に関連しているのかを調べ、治療に役立てるためである。これらの電極を脳に取り付けるには、患者の頭骨の一部を一時的に取り除く必要がある。

写真2 高価なEEGセンサー 写真2 高価なEEGセンサー 医療グレードのEEGセンサーシステムは価格が数万米ドルに及ぶこともある。

 写真1(a)には、16個の超小型電極で構成された2個のmicroECOGアレイが見える。オレンジ色と緑色のチューブの中には、超小型電極に接続されたマイクロワイヤーが通っている。一方、写真1(b)は、 32個の超小型電極で構成されたmicroECOGアレイを用いた例である。超小型電極は、写真の下部にうっすらと見えている透明のチューブの中を通るマイクロワイヤーで接続されている。また、緑色のマイクロワイヤーはECOG電極に接続されている。なお、超小型電極の輪郭は、読者にわかりやすいよう、写真編集用のソフトウエアで描画してある。

 脳の電気信号を取得する方法には、もう1つ、頭皮上に電極を置くEEG(Electroencephalography:脳波記録)というものがある。上述したECOGとmicroECOGは、脳の内部に電極を埋め込む手法と、EEGの中間的手法だと言える。外科手術が必要で、リスクの高いECOGに比べ、EEGの処置は比較的簡単である。接着剤によって電極を頭皮にしっかりと固定するだけでよい。ただし、この方法の場合、脳内の電気信号は頭皮上の電極に達するまでに頭骨を通過することになる。ここで問題なのは、骨の伝導率は低いので、信号が急速に減衰してしまうことだ。もともと微弱な脳内の信号は、脳を取り囲んでいる膜や頭骨、皮膚、毛髪を通過する間にほとんど判別できないものとなってしまうのである。医療用EEGで使用する電極には伝導性の高いゼリーが必要だが、ゼリーを塗ったり落としたりするのには手間がかかる。また、このような医療グレードのEEGセンサーシステムは、価格が数万米ドルに及ぶこともある(写真2)。そのため、実際の治療に使用するのは難しく、研究レベルにとどまっている。


脚注

※1…"Reading the Brain without Poking It: New Electrodes May Help Amputees and Paralyzed," University of Utah News Center, http://www.unews.utah.edu/p/?r=062409-1


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