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» 2011年04月01日 00時00分 UPDATE

普及の鍵は、ミリ波レーダーの低価格化:大衆車にも求められる「予防安全」 (1/7)

自動車の予防安全システムに用いられているセンサーのうち、事故回避に最も役立つものがミリ波レーダーである。この車載ミリ波レーダーについては、現在、大衆車にも広く搭載できるように低価格化を図るべく開発が進んでいる。本稿ではまず、車載ミリ波レーダーの特性や、使用されている周波数帯域に関する各国/地域の法規制について説明する。その上で、大手ティア1サプライヤや送受信ICを開発する半導体メーカーによる低価格化に向けた取り組みを紹介する。

[本誌編集部 取材班,Automotive Electronics]

予防安全システムの主役は77GHz帯ミリ波レーダーに

 自動車の重量は、一般的な乗用車でも1トン前後。それが、人間や自転車をはるかに上回る速度で走行する。このような物体が、ほかの物に衝突するなどして起こる交通事故では、乗員の人命を含めてさまざまな被害がもたらされることになる。

 自動車の安全システムは、このような交通事故による被害を軽減するために開発された。大まかには、衝突安全(パッシブセーフティ)システムと予防安全(アクティブセーフティ)システムに分けることができる。前者の衝突安全システムは、事故が発生した際、その被害を軽減するためのもので、シートベルト、エアバッグ、高剛性のボディなどが該当する。国内の年間交通事故死者数(事故発生から24時間以内に死亡した人数)は、1970年に1万6765人まで増加したが、2010年には4863人にまで減っている。この事故死者数の大幅な低減に貢献したのが、衝突安全システムの普及だと言われている。実際に、現在量産されている国内市場向け乗用車は、シートベルトは100%、運転手用のエアバッグもほぼ100%、標準で装備している。

 一方、事故の発生そのものの防止や、衝突前の事故被害の軽減を図るためのものが予防安全システムである。代表的な例としては、ブレーキ時の車輪のロックを防止するABS(Antilock Brake System)や、カーブなどにおけるステアリング操作時の横滑りを防止するESC(Electronic Stability Control)、高速走行時に前方を走行する車両との車間距離を維持するACC(Adaptive Cruise Control)、衝突前に自動的にブレーキ操作を行うプリクラッシュなどが挙げられる。搭載率が国内で89%、世界平均で76%というABSを除き、衝突安全システムと比べると予防安全システムの普及は進んでいない。予防安全システムを現在よりも普及させることができれば、交通事故の死者数や負傷者数、発生件数などをさらに減少させることが可能だと言えよう。

 数ある予防安全システムの中でも、特にACCとプリクラッシュは、交通事故の被害を低減する効果が大きい。そのため、自動車への普及拡大が期待されている。しかし、現時点では、システムが高コストであることから、高級車のオプションとして採用されている程度にすぎない。ACCとプリクラッシュを、大衆車にも搭載できるようにするには、まずシステムのコストを下げる必要がある。そのためにポイントとなるのは、センサーとして利用されているミリ波レーダーである。このミリ波レーダーが、コスト高の大きな要因とされているのだ。

耐天候性の高さがメリット

 自動車の安全システムのキーデバイスとなるのがセンサーである。例えば、ABSは、車輪のロックを検知するための車輪速センサーを搭載している。現在、車両の外側に存在するもの(ほかの走行車両、歩行者、自転車、障害物、車線、交通標識など)を検知する車両周辺監視センサーがカーエレクトロニクス技術の進展によって注目を集めている。

表1各種車両周辺監視センサーの検出特性(古河電工の資料を基に本誌が作成) 表1 各種車両周辺監視センサーの検出特性(古河電工の資料を基に本誌が作成) 

 表1に、予防安全システムに用いられる車両周辺監視センサーの特性を示す。これらの中でも、77GHz帯 /24GHz帯のミリ波レーダーは、耐天候性が高い(雨や雪、霧などの天候に左右されない)ことを最大の特徴としている。ACCやプリクラッシュは、どのような走行環境であっても効果を発揮することが求められるので、これらにはミリ波レーダーが広く採用されている。

 一方、ミリ波レーダーの最大の課題は先述したように高コストであることだ。2000年前後に乗用車のオプションとして採用されていた、ミリ波レーダーを用いたACCの価格は50万円を上回っていた。このため、耐天候性の面では課題があるものの、コスト面で優れるレーザーレーダーやカメラを用いた低価格の ACCやプリクラッシュも開発されている。ダイハツ工業の軽自動車「ムーヴ」では、2006年発表のモデルから、レーザーレーダーとカメラを組み合わせた ACCとプリクラッシュの機能を持つシステムがオプションとして用意されている。同システムのACCとプリクラッシュに相当する部分の価格は20万円程度と見られる。また、富士重工業の「レガシィ」では、2010年モデルから、ステレオカメラだけでACCとプリクラッシュの機能を実現した「EyeSight(ver.2)」を10万円でオプションとして追加できるようになった。

 このようなほかのセンサーを用いたシステムの低価格化を受けて、高コストとされるミリ波レーダーを用いたACCやプリクラッシュの価格低減も進んでいる。「クラウン」や「レクサス」など、トヨタ自動車の高級車では、ACCとプリクラッシュの機能を持つミリ波レーダー搭載システムが14万7000円でオプション提供されている。

 ある自動車システムが広く普及するためには、その販売価格が10万円以下になることが1つの目安とされている。ACCとプリクラッシュの価格も、EyeSight(ver.2)の登場によって10万円というラインに到達した。今後は、10万円以下の価格を実現するための施策が重要になってくるだろう。特にミリ波レーダーについては、後述する低コストの送受信ICの開発が進んでいることもあり、大幅な低コスト化が期待されている。

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