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スイッチング電源の焼損Wired, Weird

スイッチング電源は、変換効率の高さから従来のシリーズ電源を置き換えた画期的な電源だ。だが、登場した当初は安全性に課題が残る製品も多かった。例えば、焼損である。どうやってこの問題を解決したのだろうか。

» 2011年05月01日 00時00分 公開
[山平 豊 (ホックス(HOKS)),EDN Japan]

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 30年ほど前に、スイッチング電源が登場したことで、AC-DC電源の概念が大きく変わった。それまでのシリーズ電源では30%ほどしか得られなかった効率が、80%程度にまで向上したのだ。また、スイッチング周波数を高くすることによって小型のトランスを使うことが可能になり、製品の軽量化が実現された。1980年代には「軽薄短小」という言葉が流行していたが、スイッチング電源は電気製品の構造を大きく変化させ、この軽薄短小の実現に大きく寄与したのである。

 このように、スイッチング電源は脚光を浴びる存在だったのだが、当時は事故/トラブルの事例や専門の設計者が少なかったため、安全について考慮されていない欠陥品が数多く製造されていた。今回は、そうした状況下で筆者が経験した、半導体製造装置における大きな被害の事例を紹介しよう。

 当時は、コストを低減するために、マルチ出力のスイッチング電源が多く用いられていた。ロジック用に5V、リレー用に12V、モーター用に15Vといった複数の出力を備えるタイプの製品だ。このような電源を1台の半導体製造装置に30個ほど使用し、年間では1万個近く使用していたのだが、そのすべてが欠陥品だったのである。

 欠陥の原因は、過電圧を監視する回路が付加されていなかったことにあった。当時、平滑コンデンサとしては、耐久性が85℃/3000時間のアルミ電解コンデンサが主流となっており、それが半年ほどでドライアップ(電解液の蒸散)していた。その結果、5Vの電源はリップルが多くなる程度で済んでいたのだが、 12Vや15Vの電源では、1次側へのフィードバック量が多いため、電圧が20V近くまで跳ね上がり、回路の部品が焼損するというトラブルが多発していたのである。

 当時は装置メーカーの側も人材不足で、技術者が十分に確保されていなかった。そのため、事故の発生が予測されることはなく、問題が発生した後も適切な対策が施されていなかった。このとき、筆者は半導体製造装置の業界に転職したばかりだった。装置について勉強するために、製造の現場へ入って装置の状況を確認していたのだが、そのときに見た次のような光景が今でも目に焼き付いている。それは、装置の配線接続が終了した後、電源を投入するときに、5〜6名の現場担当者が装置の周りをうろうろ歩いているというものだ。「何をしているの?」と尋ねると、「電源が燃えると、においが出るので、そのにおいを嗅ぐためだ」という返事だった。「まさか!」と驚いたのだが、電源を投入すると、装置1台につき数個の電源が実際に焼損していたのである。

 電源の設計があまりにひどかったので、筆者はメーカーと直接交渉を行ったのだが、メーカーいわく、「電解コンデンサは有寿命部品であり、寿命になった時点での電源製品全体の保証は行えない」とのことだった。つまり、電源の設計ミスではないという主張である。

 責任の所在はともかくとして、そのままでは被害が大きすぎる。そこで、電源メーカーに過電圧監視回路の追加を提案した。電力量が大きい15Vの電源に過電圧監視回路を追加し、1次側にサイリスタを付加するというものだった。15Vの電源部分において過電圧を検知した時点でサイリスタをオンさせることにより、電源の出力を停止させる機能を実現するというのが提案の内容だ。この過電圧監視回路をすべての電源に追加することとし、出荷済みの装置についてもすべての電源を交換した。これによって、当時の金額で10億円を超える損失が発生した。

 電気/電子部品には寿命があり、これ自体はやむを得ないことだ。重要なのは、部品が寿命に達したときに、どのような現象が発生するのかを予測し、もし焼損や発煙、さらには火災などの大きな問題が発生する可能性があるのなら、その前に機器を停止させる回路を付加することである。

 最近は、メーカーの製造物責任(PL:Product Liability)が明確になり、各メーカーともそのことを十分に認識しているので、大きな事故は徐々に少なくなっている。ただし、製品の開発、設計、製造、サービスなどの業務が細分化された結果、何か問題があっても組織間の壁によって問題が隠されて、その後大きな社会問題に発展してしまうケースが存在する。各部門が互いに情報を公開し、大きな問題の発生を事前に防止するための仕組み作りが求められていると筆者は考える。

 今回は、かなり古いトラブルの例を紹介したわけだが、実際には、現在のスイッチング電源にも課題がある。1つは高調波の発生/無効電力の増加、もう1つは過大な突入電流である。これらについては次回詳しく説明するが、「これまでの電源の功罪を理解し、発想を転換することで、より部品や環境に優しい電源を生み出すことができる」ということを、次回への前置きとして表明しておきたい。

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