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AC-DC電源の設計ポイントスイッチング方式が抱える課題を整理する(3/4 ページ)

» 2011年06月01日 00時04分 公開
[Paul Rako,EDN]

さまざまなアーキテクチャ

 AC-DC電源の設計では、固定/可変周波数のPWM方式など、利用可能なアーキテクチャが何種類もある。固定周波数のアーキテクチャとしては、従来からフライバック方式がよく使われている(図2(a))。Fairchild社、TI社、ST社、PI社など多くのベンダーが、フライバック方式のコントローラICを数多く製品化している。


図2 アーキテクチャの例 図2 アーキテクチャの例 (a)のフライバック方式と(b)のフォワード方式は、いずれも非常に多く使用されているアーキテクチャである。

 フライバック方式では、1次側のトランジスタ(スイッチ)が閉じているときにエネルギーが伝送される。トランジスタがオフのとき、1次コイルに電流が流れるが、2次側のダイオードが電流を遮断するので、2次コイルは電流を出力に流さない。トランジスタがオフのときは、そのドレインノードの電圧がDCバス以上の値に上昇する。このとき、その電圧はトランジスタを破損させるほどにも高くなる。そのため、スナバー回路によってそのドレインノードの電圧上昇を抑える必要がある*5)、*6)。また、フライバック方式には、ほかのアーキテクチャよりもEMIの放射が大きく、過渡応答特性も悪いという欠点がある。

 電力の要件が60Wほどに達する場合には、フォワード方式の採用を検討すべきである(図2(b))。フォワード方式では、トランジスタがオンしたときにエネルギーの伝送が行われる。プッシュプルタイプのフォワード方式の場合、フライバック方式よりも2次側のリップル電流が少なく、効率も高い。また、過渡的な負荷の変化に対する応答も速い。さらに、トランスに1サイクル分のエネルギーを保持する必要がないため、より小型のトランスを使用することができる。

 フライバック方式とフォワード方式は、何十年も前から存在する。だが、いずれも85%以上の効率を実現するのはまず不可能であるため、環境への優しさを目指す昨今の傾向にはマッチしにくくなっている。このような背景もあり、PI社の「HiperPFS」のように、複数のアーキテクチャをサポートするコントローラICの利用が増えている。同ICは、PFC機能を備えており、準共振方式、非対称方式、2スイッチのフォワード方式などの構成に対応できる。

図3 非対称ハーフブリッジ方式 図3 非対称ハーフブリッジ方式 この方式では、固定周波数で制御を行う。

 図3のように、非対称のハーフブリッジ構成を採用することで、200W〜500Wの電力レベルにおいて93%の効率を達成することができる。このアーキテクチャは、出力電圧が24V程度までの設計に適している*7)。固定周波数のPWM回路を利用し、1次側においてコンデンサとトランス、インダクタを組み合わせることで、入力/出力フィルタの設計が容易に行えるようになっている。インダクタとしては、専用のインダクタを別に用意してもよいし、トランスのリーケージインダクタンスを利用してもよい。専用のインダクタを使う場合、コストと実装面積が増加するが、当然、値が明確なものを用いることができるので、その点が設計上のメリットとなる。2次側に配置するインダクタによって、出力コンデンサへのリップル電流が抑えられるため、低電圧または大電流の用途に適している。

 電力レベルが500Wを超える用途では、4つのFETを使用するフルブリッジのアーキテクチャを検討すべきである。この構成では、両極性で1次側を励振するため、トランスのコイルが最大限に活用されることになる。一方、FETに対する負荷が高いことがこのアーキテクチャの欠点だ。この問題への対処法の1つは、フルブリッジ構成に位相シフトを適用することである*8)、*9)、*10)。4つのFETの両端にコンデンサと高速リカバリダイオードを追加することで、これを実現できる。または、FREDFET(Fast Recovery Epitaxial Diode FET)を使用してもよい。これらに加えて、TI社の「UCC2895」や「UCC28950」など、2次側整流を行うコントローラICを使用する。

図4 直列共振方式 図4 直列共振方式 この方式では、可変周波数で制御を行う。

 パルスの周波数を変化させることにより、出力を調整するタイプのアーキテクチャもある。この直列共振方式は、米Vicor社が数十年前に発明したものだ(図4)。ほかの可変周波数のアーキテクチャと同様に、固定周波数のものよりも複雑な構成となるが、高い効率が得られるというメリットを持つ。通常、FETは0V モードまたは0Aモードでスイッチングするので、この種の電源は、EMI放射が少なく、FETに対する負荷も小さい。トランスの励振は正弦波で行うが、正弦波には高調波がほとんどないので、トランスにおける損失は小さくなる。この方式の欠点は、周波数範囲が広いため、入力/出力フィルタ回路の設計の難易度が高いことである。

 そのほかの可変周波数アーキテクチャとしては、準共振フライバック方式が挙げられる*11)。これはFETの両端にコンデンサを付加するタイプのものであり、88%の効率を実現することもできる。付加するコンデンサは、トランスのリーケージインダクタンスとともに共振回路を構成する。この方式では、FET が0Vまたは0Aでスイッチングすることを活用する。コントローラICにより、トランスの1次電流が常に0Aに戻るように制御することで、回路の周波数は負荷に応じて変化することになる。このアーキテクチャで利用できるものとして、TI社の「UCC28610」、あるいはPI社の「PLC810PG」など、多数のコントローラICが供給されている。

図5 LLC方式 図5 LLC方式 可変周波数で動作し、93%の効率を実現することができる。

 図5に示したLLC(インダクタ−インダクタ −コンデンサ)方式は、真の共振アーキテクチャである*12)、*13)、*14)。周波数が低くなるとインピーダンスが低くなって供給電力が増加し、負荷が小さくなると周波数が増大する。この方式に対応するものとしては、Fairchild社のレギュレータIC「FSFR2100」やコントローラIC 「FAN7621」、IR社のコントローラIC「IRS27951S」などがある。


脚注

※5…Ridley, Ray, "Flyback Converter Snubber Design," Switching Power Magazine, 2005

※6…Design Guidelines for RCD Snubber of Flyback Converters," Application Note AN-4147, Fairchild Semiconductor, 2006

※7…Designing asymmetric PWM halfbridge converters," Application Note AN-4153, Fairchild Semiconductor, 2008

※8…Mappus, Steve, "Control Driven Synchronous Rectifiers In Phase Shifted Full Bridge Converters," Application Note SLUA287, Texas Instruments, March 2003

※9…Aigner, Hubert; Kenneth Dierberger; and Denis Grafham, "Improving the Full-bridge Phase-shift ZVT Converter for Failure-free Operation Under Extreme Conditions in Welding and Similar Applications," Application Note APT9803, Advanced Power Technology, December 1998

※10…Jang, Yungtaek, and Milan M Jovanovic, "A New Family of Full- Bridge ZVS Converters," IEEE Transactions on Power Electronics, Volume 19, No. 3, May 2004

※11…Harper, Jon, "Selecting the right topology for energy-saving power supplies," Embedded.com, May 14, 2009

※12…An introduction to LLC resonant half-bridge converter," Application Note AN2644, STMicroelectronics, September 2008

※13…Choi, Hang-Seok, "Design Consideration of Half-Bridge LLC Resonant Converter," Journal of Power Electronics, Volume 7, No. 1, January 2007

※14…Yang, Bo, "Topology investigation of front end DC/DC converter for distributed power system," Electronic Theses and Dissertations, Virginia Polytechnic Institute, Sept 12, 2003


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