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ICEMOSがMEMS技術を用いた高耐圧SJ-MOSFETを開発、オムロンの野洲事業所に生産委託

» 2011年08月05日 00時00分 公開
[EDN Japan]

 ICEMOS TECHNOLOGYは2011年8月、MEMS(Micro-ElectroMechanical System)技術を応用した高耐圧のスーパージャンクションMOSFET(SJ-MOSFET)「ICEMOS MEMS MOSFET」を開発したと発表した。また、同社は、このSJ-MOSFETの製造の前工程(ウェーハ処理)について、オムロンの野洲事業所にある200mmウェーハ対応の半導体/MEMS製造ラインで生産委託することも明らかにした。


図1 ICEMOS TECHNOLOGYのSamuel Anderson氏 図1 ICEMOS TECHNOLOGYのSamuel Anderson氏 

 すでに、耐圧650V/電流容量20A/オン抵抗170mΩの「ICE20N65」と耐圧600V/電流容量20A/オン抵抗160mΩの「ICE20N60」、2製品の販売を開始している。2011年第3四半期末までには、耐圧600V/電流容量15A/オン抵抗250mΩと、耐圧600V/電流容量20A/オン抵抗370mΩの2製品の販売も開始する予定。国内市場向けの販売は、ケイエスエスなど2社の代理店を通して行う。ICEMOS TECHNOLOGYの会長兼社長兼CEO(最高経営責任者)を務めるSamuel Anderson氏(図1)によれば、「同じ仕様の競合他社品に対して競争力のある価格で提供する」という。なお、ICE20N65とほぼ同じ仕様を持つInfineon Technologiesの「SPP20N65C3」は、1000個購入時の単価が2.22米ドルとなっている。

図2 SJ-MOSFETの構造(提供:ICEMOS TECHNOLOGY) 図2 SJ-MOSFETの構造(提供:ICEMOS TECHNOLOGY) 右側が多段エピタキシャル成長方式を用いた場合の構造で、左側がICEMOS MEMS MOSFETの構造である。上側にある構造図において、水色の部分がn層、赤色の部分がp層となっている。ICEMOS MEMS MOSFETの白い部分は、MEMS技術を用いて形成したトレンチである。

 ICEMOS TECHNOLOGYは、貼り合わせ方式のSOI(Silicon on Insulator)ウェーハの製造、SJ-MOSFETの設計や技術開発を手がけている米国企業である。Anderson氏は、「当社は、これまでの5年間でSJ-MOSFETに関する特許を100件以上取得してきた。これらの特許開発の中で得られた知見を基に、MEMS技術を用いたICEMOS MEMS MOSFETが、競合他社のSJ-MOSFETと比べて非常に高い競争力を備えていることを確信したので製品化に踏み切ることにした」と語る。

 SJ-MOSFETでは、一般的な縦型構造のMOSFETにおいてソースとドレインの間に形成されているn層の部分について、横方向(ウェーハに対して水平方向)にn層とp層が交互に並んだ構造に置き換えられている。このn層とp層が交互に並ぶ構造の製造法として広く利用されているのが、多段エピタキシャル成長方式である。同方式の場合、必要な膜厚になるまで、n層とp層の製膜をはじめとする複雑なプロセスサイクルを複数回繰り返す必要がある。一方、ICEMOS MEMS MOSFETは、厚膜のn層を単層でウェーハ上に製膜してから、MEMS技術を用いてトレンチを形成した後、トレンチの側壁からイオン注入を行うことでp層を作り込む。p層の形成後、トレンチには絶縁材料が埋め込まれる(図2)。

図3 微細化によるオン抵抗の低減(提供:ICEMOS TECHNOLOGY) 図3 微細化によるオン抵抗の低減(提供:ICEMOS TECHNOLOGY) グラフの中の2本の青い線が、SJ-MOSFETにおける耐圧とオン抵抗の特性を示している。素子ピッチを微細化することにより、SJ-MOSFETの特性は上側の青い線から下側の青い線に移行する。このため、同じ耐圧でもオン抵抗がより小さいものを実現できるようになる。

 ICEMOS MEMS MOSFETの最大の特徴は、素子の微細化が容易なことである。微細化することによって、SJ-MOSFETのオン抵抗を大幅に下げることが可能になる(図3)。Anderson氏は、「現時点において、当社が販売を開始したICE20N65などは素子のピッチは12μm〜15μmとなっている。多段エピタキシャル成長方式を用いる競合他社の製品の素子ピッチも14μm前後とほぼ同程度であり、オン抵抗の値もほぼ同じだ。しかし、当社の場合、現在と同じ製造技術で素子ピッチを5μmまで微細化することが可能だ。これに対して、多段エピタキシャル成長方式で微細化を実現するには、製膜をはじめとするプロセスサイクルの回数を増やさなければならない。このため、今後微細化を進める場合の製造コストは、ICEMOS MEMS MOSFETに優位性がある」と説明する。

 また、同氏は、オムロンを生産委託先として選択した理由として、「ICEMOS MEMS MOSFETの特徴である微細化を生かすためには、高度なMEMS技術とともにCMOS技術も保有している必要がある。オムロンは、そういった条件をクリアする数少ない企業の1つである。また、コスト面で有利な200mmウェーハに対応する工場を有していることも重要なポイントだった」と述べる。オムロンのマイクロデバイス事業推進本部 本部長で参与を務める関口義雄氏は、「野洲事業所の工場は、3階建てのうち1階が0.35μm〜0.25μmのCMOSプロセスに対応するライン、2階がバイポーラ系のパワーデバイスのライン、3階がMEMSの製造ラインとなっている。当社は、これまでもさまざまな生産委託を受けてきたが、CMOSとMEMSの両方のラインを活用する案件は初めてだ」とコメントしている(図4図5)。

図4 「ICE20N65」の処理済みウェーハ 図4 「ICE20N65」の処理済みウェーハ オムロンの野洲事業所で製造された。
図5 パッケージング済みの「ICE20N65」 図5 パッケージング済みの「ICE20N65」

(朴 尚洙)

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