メディア

電子ブックリーダーにも高性能プロセッサを紙の書籍と同じユーザー体験を実現するために(2/2 ページ)

» 2011年08月16日 16時19分 公開
[Franck Nicholls(Freescale Semiconductor),EDN]
前のページへ 1|2       

電子ペーパーの特徴

 電子書籍専用端末の表示デバイスとして広く利用されているのが電子ペーパーである。電子ペーパーは、電子書籍の表示デバイスとして、液晶ディスプレイと比べて多くの長所を備えている。例えば、電子ペーパーは、電力を用いずに表示した内容をそのまま保持することができる。従って、ページを書き換えるとき以外は電力を消費しない。また、外光を用いる反射型ディスプレイなのでバックライトが不要である。このため、読み手であるユーザーの眼に心地よく、日光の中でも読み易いというメリットがある。電子ペーパーという名の通り、紙に近い性質を備えているのだ(図1)。

図1 電子ペーパーと液晶ディスプレイの比較ル 図1 電子ペーパーと液晶ディスプレイの比較ル  60倍に拡大した電子ペーパー(a)と液晶ディスプレイ(b)の表示。同様に、400倍に拡大した電子ペーパー(c)と液晶ディスプレイ(d)の表示も比較した。

 とはいえ、電子ペーパーにはいくつかの欠点もある。最も大きな欠点は、書き換え速度が遅いことだ。電子ブックリーダーに最も広く利用されているE Inkの電子ペーパーの場合、モノクロの画面表示を行うマイクロカプセルの色を黒から白(もしくは白から黒)に変えるための制御信号である「Waveform」を送信する必要がある。Waveformは、グレースケール表示にも対応している。ただし、グレースケール表示の分解能を高くすればするほど書き換え時間が長くなってしまう。例えば、書き換えタイミングの周波数が85HzのE Ink製電子ペーパーでは、黒から白への書き換えに260msかかる。これに対して、16階調のグレースケール表示を用いて黒から白に書き換えるには600msの時間が必要になる。

図2 電子ペーパーのゴースト 図2 電子ペーパーのゴースト  黒フラッシュを使わない場合、書き換え後にうっすらと書き換え前の文字表示が残ってしまうことがある。

  電子ペーパーでは、文字色である黒から背景色の白に書き換える際に黒の表示が影のように残る「ゴースト(gohsting)」という現象が発生することがある。現行の電子ブックリーダーでは、書き換えが済んだ後に残るゴーストの発生をできる限り少なくするために、画面上のすべてのマイクロカプセルを16階調のグレースケール表示で白から黒に一端書き換えた後、表示したい内容に書き換えている。ページ書き換えのたびに画面全体が黒くなる“黒フラッシュ”が起こるのは、このようなプロセスを経て表示が行われているからである(図2)。

「クイックフリップ」とアニメーション

 電子ブックリーダーの開発者は、電子ペーパーを用いて、液晶ディスプレイと同じような表示を行いたいと考えている。そういった表示の1つが、連続でページめくりを行う「クイックフリップ」機能である。E Inkの電子ペーパーを用いている電子ブックリーダーでは、黒フラッシュを行っているためにページの表示速度が制限されている。その結果、ユーザーは、紙の書籍と同じように電子書籍のページを連続してめくることができなくなってしまうのだ。

 この問題に対処するために利用されているのが、必要なピクセルだけを書き換える部分的書き換え(Partial Update)である。この部分的書き換えは、ソニーの「Reader」の手書きメモ機能などにも活用されている。また、E Inkの電子ペーパーは、黒から白に書き換えるのに260msかかる。これは、1秒間に4フレームの書き換えが可能なことを意味している。この書き換え速度であれば、クイックフリップを実現することができる。ただし、電子ペーパーに対して新しいページの表示内容を連続して送信するためには、十分な前処理能力を持ったプロセッサが必要になるだろう。

 なお、クイックフリップの最中は、黒フラッシュを行わないので必ずゴーストが発生してしまう。このため、ユーザーがページめくりを止めたところで、黒フラッシュを使って表示内容からゴーストを除去しなければならないだろう。

 液晶ディスプレイと同様の表示としてもう1つ挙げられるのがアニメーションである。85Hz動作のE Ink製電子ペーパーの画面は、先に述べたとおり1秒間に約4フレームの書き換えを行うことができる。しかし、液晶ディスプレイ上で表示されるアニメーションのフレーム速度にははるかに及ばない。それでも、部分的書き換えを活用することで、電子ペーパーの実効フレーム速度を向上することができる。

 例えば、i.MX508は、E Ink製電子ペーパー上の16個の領域を同時に書き換えることが可能なコントローラを内蔵している。理論的には、1秒間64回というフレーム速度を実現できるわけだ。このコントローラの機能を使っても、標準的な映像ファイルを電子ペーパー上で再生することはできない。しかし、アニメーションを用いたユーザーインタフェースにより、ユーザー体験を強化することは可能だ。

* * *

 Cortex-A8コアを搭載するi.MX508などの高性能のプロセッサ製品を用いることにより、電子ブックリーダーの可能性はさらに広がるだろう。例えば、プロセッサの高い処理能力を、電子ブックリーダー専用のアプリで活用するような場面も出てくるかもしれない。さらに、近い将来、カラー表示が可能な電子ペーパーが登場すれば、より高い書き換え速度が要求されるようになるだろう。そのためにも、より高性能のプロセッサ製品を準備しておく必要もあるかもしれない。

前のページへ 1|2       

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

RSSフィード

公式SNS

EDN 海外ネットワーク

All material on this site Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
This site contains articles under license from AspenCore LLC.