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2012年期待のエレクトロニクス技術(近未来ガジェット編)EDN/EE Times編集部が展望する(3/4 ページ)

» 2012年01月27日 20時58分 公開
[EDN]

「スマホでもいい音」、携帯オーディオの進化が止まらない

 エンターテインメントとコンピュータ機器の融合が進んだことにより、スマートフォンやタブレット端末といった携帯機器のオーディオ/ビデオ性能に対するユーザーの期待が高まっている。ビデオ性能に関しては、多くの携帯機器で高画質のコンテンツを視聴できるようになった。画面サイズが小さいにもかかわらず、優れた映像再生やグラフィックス処理が可能だ。一方、オーディオ性能となると、話はまた別だ。小型かつ薄型という形状故に、物理的な制約に関する問題が発生するからだ。

 こうした問題は、ハードウェアやソフトウェアの処理性能、あるいはメディアの質によって対処法が異なる。メディアの質とは、インターネットまたはローカルサーバからストリーミング配信されたものであるのか、もしくは機器に保存されたファイルなのかという問題である。例えば、DolbyやFraunhofer IISは、帯域幅の要件を最小限に抑えつつ、オンラインでストリーミング配信されるオーディオサービスの音質を向上するコーデック技術を提供している。

 携帯機器に搭載されるメモリーの容量は増加の一途をたどっており、機器に保存する音楽ファイルなどのサイズ(すなわち音質)は、現在ではさほど問題にならなくなってきた。音質に強いこだわりを持つユーザーの中には、CDに比べて技術的に劣っているMP3をはじめとする損失の多い圧縮ファイル形式の音質を嘆くものもいる。だが、10年以上前に最初のMP3ファイルが登場して以来、符号化/復号化の技術が著しく改善してきたことを忘れてはならない。実際に、オープンソースのLAMEなどのコーデックは、現在では非常に高品質になってきており、192キロビット/秒(kbps)でエンコードされたMP3ファイルは、目隠しテスト(ブラインドテスト)ではCDの音質と区別がつかないほどである。

 また、記録媒体の容量やインターネットの帯域幅が増えたことにより、高品質のオーディオコンテンツを、作成したり、保存したり、配信したりすることがこれまでよりも容易になっている。AmazonやiTunes Storeからダウンロードした、256kbpsで圧縮したオーディオファイルの音質では満足できないユーザーは、CDを購入してFLAC(Free Lossless Audio Codec)形式でリッピングし、「iPeng」(iOS端末の場合)や「SqueezePlayer」(Android端末の場合)といったアプリを用いれば、CDレベルの音質を持つ音楽ファイルをいつでも携帯端末で利用できるのだ。

 だが、たとえ音質が最高レベルだったとしても、現在の携帯端末に内蔵されている小さなスピーカやマイクに期待できることは、ごく限られている。ただし、スピーカ/マイクも、アンプや変換機器などの関連機器とともに着実に改良されている。最近の例を1つ挙げると、STMicroelectronicsの携帯機器向けデジタルMEMSマイクロフォン「MP34DT01」がある。パッケージ上部に音響孔を設けたことで、小型/薄型の携帯機器でも高いオーディオ性能を実現できるとしている。

 Fairchild Semiconductorは、携帯機器におけるオーディオ性能の向上を目指したイニシアチブを発表した。その後、ヘッドフォン用G級アンプ「FAB1200」や、ヘッドフォン用G級アンプとスピーカ用D級アンプを搭載した「FAB2200」を発売している。他にも、Wolfson Microelectronicsが低消費電力を特徴とするD-AコンバータIC「WM8918」を、Maxim Integrated Productsがスピーカの損傷を防止するオーディオコーデックIC「MAX98089」を発表するなど、携帯機器におけるオーディオ性能の向上を意識した製品が次々に登場している。

 また、HiWave Technologiesは、タブレット端末向けに、より大きな音量や高い音質を実現できるモジュール「SoundSleeve」を発表した。SoundSleeveは、軽量のハニカムパネルに取り付けた、1組のオーディオエキサイタで構成される。同エキサイタの出力は2W。SoundSleeveは、タブレット端末のカバー(ふた)の内側に容易に組み込めるようになっている。

 しかしながら、オーディオ性能の向上に最も有効な手段は、ソフトウェアベースの技術を用いることだろう。例えば、イコライジング(EQ)やオートゲインコントロール(AGC)などの基本技術に加え、ダイナミックレンジ圧縮(DRC)や高度な音響心理学、カスタムオーディオアルゴリズムなどが挙げられる。

 WolfsonのオーディオDSP「WM0010」は、アプリケーションプロセッサと連動して動作するもので、同社の組み込みシステムソフトウェアやアルゴリズムを搭載している。異なるアーキテクチャやシステムソフトウェアにも容易に統合できるという。また、同社は、独自のDSPコアを3個搭載し、ノイズキャンセル機能も備えたオーディオSoC(System on Chip)「WM5100」も発表している。WM5100には、Wolfsonのアルゴリズムの他、オーディオメーカーなどの顧客が開発したアルゴリズムを搭載可能である。

図3 「LM48901」の機能イメージ 図3 「LM48901」の機能イメージ

 最後に、Texas Instrumentsのオーディオプロセッサ「LM48901」を紹介しよう。タブレット端末のようにスピーカを複数備える携帯機器で、臨場感のあるオーディオサウンドを実現することを目的としており、DSPやD級アンプ、18ビットのA-Dコンバータ、I2Sなどのインタフェースを集積している(図3)。専用のツールを使えば、従来よりも音場の設計を容易に行える。最大で16個のスピーカをサポートしている。


(Rich Pell:Editor, EE Times' Audio Designline)

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