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センサー励起や回路バイアスに使える定電流源オペアンプ+トランジスタ“ちょい足し”回路集(1)

オペアンプICに個別トランジスタを“ちょい足し”して性能を高めたり機能を拡充する定番回路集。今回は、センサーの励起用や回路の電流バイアス用に使える、高安定かつ高精度の定電流源を紹介します。

» 2012年04月05日 12時00分 公開
[藤森弘己,アナログ・デバイセズ]

「オペアンプ+トランジスタ“ちょい足し”回路集」連載一覧

今回紹介する回路の概要

実現できる機能 高安定・高精度の定電流源
こんな場面で有効 センサーの励起用や回路の電流バイアス用に定電流源が欲しい。でも、ツェナーダイオードとトランジスタを組み合わせて構成する簡易的な定電流源では性能が足りない。




 アナログ信号処理の中で基準として使う信号源やバイアス源の多くは、「電流」ではなく「電圧」の信号源です。しかし、センサーの励起用や回路の電流バイアス用として、電流出力の基準信号源(定電流源)が必要になることもあります。そうした定電流源は、簡易的にはトランジスタとツェナーダイオード(定電圧ダイオード)を組み合わせて実現できますが、安定度と精度はそれほど期待できません。オペアンプとトランジスタを使えば、高安定・高精度の定電流源を手軽に作ることができます。

 図1は、この定電流回路の全体図です。電流は、トランジスタQ1から流れ出す方向(ソース)に出力されます。この電流を制御するのがオペアンプA1です。このオペアンプの非反転入力()端子には、基準電圧源IC(ADR510などが使えます)を接続し、電源電圧VDDから1.0Vだけ低い電圧を作り出して印加します。

図1 図1 定電流源回路 この図では、電源デカプリングなどは省略しています。(クリックで画像を拡大)

 さて、オペアンプの帰還増幅が機能していれば、反転入力()端子と非反転入力端子の電圧は常に等しくなります。いわゆるバーチャルショート(仮想短絡)ですね。ここで図2を見てください。オペアンプは、仮想バーチャルショートの効果により、反転入力端子の電圧が非反転入力端子と常に同じ(電源から1.0V低い電位)になるようにトランジスタを制御します。具体的には、反転入力端子は抵抗R1につながっていますから、この抵抗の両端にかかる電圧が1.0Vになるようにトランジスタのベースを駆動するわけです。

図2 図2 動作原理 (クリックで画像を拡大)

 例えばR1が100Ωの場合、そこに流れる電流IRはオームの法則より、10mA(1V÷100Ω)になります。この電流がトランジスタのエミッタ(E)に流れ込んで、コレクタ(C)から流れ出し、定電流源の出力になります。R1の値を変えれば、定電流出力の大きさを調整することが可能です。また、この出力電流の安定度と精度は、ほぼR1の抵抗値の精度によって決まります。

 実際にコレクタから流れ出る電流は、エミッタに流れ込む電流とベース電流IBの合計なので、その大きさはIR−IBになります。つまりIB分が出力電流の誤差になっています。この誤差を小さくする方法としては、2つのトランジスタを図3(a)のようにダーリントン接続して電流増幅率を高めるか、トランジスタの代わりにFETを使って誤差の元になる電流(FETの場合はゲート電流)を小さく抑えるという手があります。

図3 図3 応用例 (クリックで画像を拡大)

 今回紹介した回路で使用するオペアンプは、正側の電源電圧に近い同相入力電圧で動作し、出力も電源電圧に近い値まで振る必要があるので、レールツーレールの入出力に対応できる品種が適しています。もしそうでない場合は、図3(b)のようにダイオードを挿入し、順電圧を利用して同相電圧を引き下げてもよいでしょう。

 このようにオペアンプにトランジスタを組み合わせて構成する定電流源回路の注意点は、出力のコンプライアンス電圧です。これは、出力に抵抗負荷をつないだり、0Vではない信号源を接続したりした時に、どれぐらいの電圧までなら正しく動作できるか(設計通りの大きさの電流を供給できるか)という性能で、この電圧が高いほど定電流源として柔軟性があるといえます。

 この定電流源回路を正しく動作させるには、上は正側の電源電圧からリファレンス電圧(今回の例では1.0V)分だけ低い電圧まで、下は負側の電源電圧からトランジスタのベース・エミッタ間電圧VBE(約0.65V、ダーリントン接続時はその2倍)分だけ高い電圧まで確保する必要があるので、その電圧を電源電圧から差し引いた値が対応できるコンプライアンス電圧になります。

 なお出力電流の値は、R1の値を変える他に、基準電圧源の品種を変えてリファレンス電圧を調整することでも変更できますが、大きな値のリファレンス電圧を使うと、コンプライアンス電圧の範囲が狭くなるのであまり得策ではありません。


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