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デジタルオーディオで押さえるべき基本 〜その特徴を再確認しよう〜デジタルオーディオの基礎から応用(1)(3/3 ページ)

» 2012年04月23日 08時00分 公開
[河合一,EDN Japan]
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ピュアオーディオ再生機器の処理技術

 それでは、このようなデジタルオーディオの再生システム(図4)に搭載されている処理技術の概要に話題を移そう。CDDA/DVDに代表されるPCM信号のD-A変換システムは、ディスク再生プレーヤー機器であれば、ディスクの光学ピックアップを含むメカトレー部とD-A変換部で構成されている。

 光学ピックアップで読み取られたデジタルデータは強力な誤り訂正を有する復調回路でPCM信号に変換されて出力される。AVアンプやPC/USBオーディオプレーヤーでは、デジタルオーディオ・インタフェース(S/PDIF)やUSBインタフェースで受信した信号を専用デコーダーLSIによって、PCM信号に変換して出力される。

 これらの機器では、D-A変換はD-AコンバータICで実行される。現在のオーディオ用D-AコンバータICの変換方式は、ΔΣ変調型が一般的である。ΔΣ変調型オーディオD-AコンバータICの動作を、以下にまとめた。

図 図4 デジタルオーディオ再生システムの概要 (クリックで拡大)

オーバーサンプリング・デジタルフィルタ動作

分解能がNビット、サンプリング周波数がfs(CDDAでは16ビット、fs=44.1kHz)の入力PCM信号はオーバーサンプリング処理によって、サンプリング・スペクトラムfsを8倍の周波数に変換して高域側にシフトさせる。これをオーバーサンプリング処理という。そして、fs付近のスペクトラムをデジタルフィルタ機能で減衰させる。これをデジタルフィルタリング処理という。

このような処理により、fs付近のスペクトラムを除去し、高域にシフトすることにより、D-Aコンバータ出力に対するアナログフィルタの負担(回路規模)を軽くすることができる。このアナログフィルタは一般的には「ポストLPF(低域通過フィルタ)」と呼ばれる。例えば、fs=44.1KHzで20kHzの信号を再生すると、サンプリング定理により、D-Aコンバータ出力には20kHzの信号に加えて、44.1kHz±20kHzのサンプリング・スペクトラムも出力される。

 この内、低域側の周波数は24.1KHzとなるため、20KHz信号を通過させ、サンプリング・スペクトラム24.1kHzを除去させるためには、11次〜13次と高次のローパスフィルタが必要になってしまう。これに対して、×8fsのサンプリングスペクトラムは352.8kHz±20kHzとなり、また×1fs〜×4fs間のスペクトラムはデジタルフィルタ機能によってある程度抑圧できる。従ってその分、LPFを簡略化できる。間違えてはならないのは、オーバーサンプリング・デジタルフィルタはサンプリングスペクトラムに対する処理機能であり、後述するΔΣ変調器で扱う量子化ノイズとは直接関係しない。

ΔΣ変調器

 ΔΣ変調器はノイズシェーパーとも呼ばれる。一般的なΔΣ変調動作は、、x64fsのスピードで動作させ、PCM信号を1ビット(高性能品ではマルチビット化されている)のPDM波に変換する。この動作での帯域内(通常、信号周波数20kHzまでをオーディオ帯域として扱い、これを帯域内と称する)の量子化ノイズレベルはデバイスのダイナミックレンジ特性と似ている。逆に、帯域外(帯域内の逆で、通常20kHz以上の周波数帯域を帯域外と称する)での量子化ノイズは大きくなるので後述のポスト(LPF)で除去しなければならない。

D-A変換

 ΔΣ変調器がD-A変換を実行しているように表現されているケースが見受けられるが、正確には前述のPDM(Pulse Density Modulation)波をアナログ信号に変換するD-A変換部が存在する。このD-A変換には主に2種類の変換方式があり、「SCF(スイッチド・キャパシタ・フィルタ)方式」と「カレント・セグメント方式」がある。SCFではPDM波をフィルタ機能でアナログ信号に変換する。一方のカレント・セグメント方式では、PDM波をアナログ信号ソースでスイッチングさせることにより、アナログ信号に変換する。

 D-A変換されたアナログ信号は、純粋なオーディオ信号に加えて、帯域外のΔΣ変調による量子化ノイズ・スペクトラムと、デジタルフィルタで除去しきれないサンプリング・スペクトラムを含んでいる。これらはD-AコンバータICの後段の「ポストLPF」で除去する。一般的にポストLPFは、オーディオ信号のライン出力レベルを得るためのラインアンプ機能を兼用させることが多い。ポストLPFの周波数特性は、アナログ信号の通過帯域周波数とカットオフ周波数を決定する。

 次回は、デジタルオーディオ信号の理論精度や処理に焦点を絞り、「高分解能」や「ハイサンプリング」といった言葉の意味すること、D-A変換部の処理で押さえておくべきポイントを、詳しく解説する予定だ。 


Profile

河合一(かわい はじめ)

 オーディオを専門とした評論家、ライター。日本オーディオ協会会員、AES(Audio Engineering Society)正会員。

 山水電気に1976年4月に入社。サービス部や技術管理部などでオーディオ機器および電子回路の設計、半導体評価といった基礎・応用技術の開発に携わる。1985年1月に日本バーブラウンに転職し、高精度リニアーICのアプリケーションエンジニアを担当した。業界トップクラスの性能のアナログIC(オペアンプ、計測アンプ、絶縁アンプ、対数アンプなど)や、コンバータICの応用技術と高精度アナログ信号処理技術を取得。1980年代後半以降、デジタル・オーディオ用コンバータICの専任となり、多くのデバイス開発に携わる。アプリケーションエンジニアマネジャーとして全世界の顧客対応を担当した他、フィールドアプリケーションエンジニアに対する技術トレーニングも実施。

 Texas InstrumentsがBurr Brownを買収したことに伴い、2001年1月に日本テキサスインスツルメンツに移籍。デジタル・オーディオ用コンバータ製品のアプリケーションマネジャー、オーディオ・エキスパートとしてシステム/アプリケーションの開発支援業務を幅広く担当した。これまでに、オーディオ関連の技術資料や技術記事を多数執筆。2009年6月にフリーランスの評論家、ライターとして活動を開始した。



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