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デジタルオーディオで押さえるべき基本 〜高分解能とハイサンプリングの意義とは〜デジタルオーディオの基礎から応用(2)(2/3 ページ)

» 2012年05月21日 08時00分 公開
[河合一,EDN Japan]

高分解能とハイサンプリング周波数の「真実」とは?

 デジタルオーディオの最近のトピックに、インターネットネットオーディオを中心とする「高分解能、ハイサンプリングのPCM音源ファイル再生」がある。これはオーディオ雑誌などでは「ハイレゾ音源」と呼ばれており、次のように定義されている。

  • 量子化分解能:24ビット
  • サンプリング周波数:fs=88.2kHz/96kHz/176.4kHz/192kHz

 このフォーマットにおける理論精度やダイナミックレンジ特性、広帯域周波数特性は優れたものであるが、実際の音楽ソースやオーディオ機器が相応の特性を有しているものではないことに注意してほしい。それでは、量子分解能とサンプリング周波数の意味することを詳しく説明しよう。

高分解能24ビットが意味すること

 量子化分解能が24ビットということは、PCM信号のデータ長が24ビットであることを意味する。しかし、実効的な音楽信号が24ビットの分解能を有していることにはならない。

 図3にダイナミックレンジ(DR)のデジタル理論値とアナログ特性での実用値の関係を示した。分解能が16ビット理論値のDRは約98dB、24ビット理論値のDRは約146dBであるが、実環境ではマイクロフォンを含む録音機器のアナログ特性は146dBにはほど遠い。低雑音のオペアンプ1個の雑音レベルも120〜130dB程度である。また、A-D/D-AコンバーターICは分解能が24ビットだったとしても、アナログ特性におけるダイナミックレンジは100dB程度の汎用グレードから120dB以上の高級グレードまで幅広く存在する。前述の通り、デジタルオーディオ機器の実効的なダイナミックレンジはA-D/D-AコンバーターICを含む総合アナログ特性で決定される。

図 図3 フルスケールレンジ(FSR)の理論値とアナログ特性

 もちろん、正弦波テスト信号を24ビットの分解能で表現すれば16ビットよりも量子化誤差が小さい分優位であるが、「24ビット」という表現だけが先行して、実際のアナログ精度が検証されないのは問題である。24ビットの優位点はむしろ、デジタル録音/編集工程での信号処理におけるデジタル演算誤差の最小化に効果的である。

ハイサンプリング周波数の2つの効果

 一方、ハイサンプリング周波数は周波数特性軸の拡大であり、理論的な信号帯域幅は広くなることは事実である。ただし、実際のオーディオ信号成分に20kHz以上の成分が含まれている割合、そして人間の可聴周波数帯域が20kHz上限であることを考慮すると再生信号帯域の拡大というよりも、音質の向上に対しては別の要素の効果が大きいと推測できる。

 その1つは、比較的高い周波数の信号に対するサンプル数が増えることである。例えば、周波数12kHzの信号に対するサンプル数Nは、以下のようになる。

  • fs=48kHzでは、N=4
  • fs=96kHzでは、N=8
  • fs=192kHzでは、N=16

 少ないサンプル数は、D-A変換出力波形の階段状のステップの粗密に影響する。実際の再生システムでは、LPFによってスムーズなオーディオ波形に変換されるものの、元波形に対する粗密度はハイサンプリング処理により有利に働くことは事実である。図4にハイサンプリング処理による効果のイメージ図を示した。

図 図4 ハイサンプリングによるサンプル数効果

 もう1つの効果は、デジタル、アナログの両領域でのLPFによる過渡応答特性と位相特性の改善である。例えば、カットオフ周波数が20kHzのLPFに20kHz付近の信号周波数が入力された場合、位相特性の変化が大きい領域であるため、位相乱れが大きくなる。しかも、矩形(くけい)波などのステップ応答特性においてはオーバーシュート/アンダーシュート量も大きくなってしまうのが一般的である(図5)。

 通過帯域が40kHz/80kHzというように広帯域であれば、同じ20kHz付近の信号に対する位相乱れやオーバーシュート/アンダーシュート量も小さくなる。すなわち、ハイサンプリング動作は、LPFのカットオフ周波数以下の一般的なオーディオ帯域の信号に対する品位、過渡応答特性の向上に最も効果的であると言える。

図 図5 ハイサンプリングによるステップ応答効果 (クリックで拡大します)

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