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影のごとく付きまとうノイズ超入門! ノイズ・EMCを理解しよう(2)(3/3 ページ)

» 2012年07月20日 07時00分 公開
[板垣一也TDK]
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高調波という厄介なやつ

 高調波というのは、基本波の周波数の整数倍の周波数のことをいいます。といってもいきなりでは分からないですよね。電気(電圧、電流)にはプラスとマイナスがあり、プラスとマイナスでは電線の中で電気の流れる方向が逆になります。電池のように同じ方向に流れ時間に対しても変化がないのが直流ですが(広義では変化があっても、流れる方向が同じなら直流)、流れる方向が変化するのを交番電流、一般に交流といいます。

 この交流でゼロからプラスに流れ、ピークを迎えたあと減少に転じ、いったんゼロに戻って今度はマイナスに変化して、マイナスのピークのあとまたゼロに戻るまでの時間を周期といいます。1秒間当たりの周期の回数が周波数です。例えば私たちの家庭に来ている電気は交流で、周波数は50Hz(ヘルツ)または60Hzです。家庭の電気においてはこの50Hz、60Hzというのが基本波の周波数(基本周波数)ということになります。

photo 図2 交流について

 高調波とは、これら基本周波数の整数倍の周波数の成分のことです。2倍の周波数は2次高調波、3倍は3次高調波といいます。デジタルの波形はきれいな四角型が望ましいといいましたが、ノイズ的にはむしろ逆で、できるだけ角の取れたなで肩のような形がベターです(図4を参照してください)。

 そのわけは高調波の成分の大小にあります。角のはっきりした波形というのは、高次(7次や10数次といった高い次数の高調波など)の高調波をたくさん含んでいます。その理由は難しくなるのでほかの解説書に譲ります(フーリエ級数で調べてください)。

photo 図3 デジタル波形は高調波を含む

 電気・電子機器の中で使いたいのは電力や信号である基本周波数で、高調波は邪魔でしかありません。さらにこの高調波がノイズとなって現れてくるのです。なで肩の波形はこれら高調波が比較的少ないため、ノイズの発生そのものを低く抑えることができますが、先に触れたようにしっかりと0か1かを判別できるレベルは確保しないと、そもそもの本来の機能を果たすことができません。ここに注意する必要があります。

photo 図4 なで肩波形(右)はノイズは減るが……

デジタル電子機器は危険がいっぱい?

 デジタル時代の真っただ中にいる私たちは、その恩恵にどっぷりと浸かっており、もはやアナログに戻ることは考えられません。しかし、このデジタル、0と1の組み合わせで情報を送ったり、機器に指令を出したりしていますが、この組み合わせがちょっと違っただけでも、まったく別の情報になってしまいます。

 アナログであれば、例えばラジオだと“ピー”とか“ガー”とかの騒音程度で済むこともありますが、デジタルで情報そのものが別物になってしまうと、どうなるでしょうか。

 特に安全にかかわる機器では事故につながることが懸念されます。従って、慎重に設計されています。実際、過去に尊い人命が失われるという痛ましい事故が残念ながら現実に発生してしまいました。この、デジタル信号の元の情報が変化する原因の1つに電磁気的ノイズがあるため、EMCという概念でしっかりと抑える必要があります。

 なお、私たちが普段よく使う通常のTVやオーディオ機器などは、多くは誤り訂正技術が施されており、少々の信号変化でも問題が出ないように設計されています。

えっ? 自身からのノイズで誤動作? 自家中毒の話

 さて、ここまでは何となく、ほかの機器からのノイズによる影響についてお話してきましたが、いま使っている機器そのものも電気で動いている限り、その機器自身が電磁気を発生させていることになります。

 そして、それがノイズとしてその機器自身に悪影響を及ぼす可能性があり、これを自家中毒といいます。またはイントラEMI(EMIは電磁気の放射のこと)といい、国際的には後者の方が一般的名称かもしれません。

 このように、ノイズというのは対岸の火事ではなく、自身からのノイズも大いに関係があるのが厄介なところです。そして、この電磁気は目には見えないため、どこからどう伝わってくるのかが非常に分かりにくいということが、このノイズ対策を難しくしているのです。


 今回は「場」という概念と電気と磁気の切っても切れない関係についてや、デジタルと高調波のお話、そしてそれらがノイズとなり機器に影響を与えてしまうだけでなく、自身の動作にも影響が出ることがあることをお話ししました。

 次回からは、もう少し実践的なお話に入って行きます。果たして目に見えないノイズを消すことはできるのでしょうか? また、そのノイズ対策の基本4要素とEMC設計という考え方と実践などについて解説します。

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