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» 2012年08月27日 07時00分 UPDATE

熱設計の本質(1):「熱ってどういうもの?」の基本を押さえよう (1/2)

高性能・高集積化かが進む製品開発の現場。製品開発における「熱」の問題はますます深刻化し、熱対策をより意識しなければならない状況です。今回は「熱」について知っておきたい基本事項を解説します。

[藤田 哲也,株式会社 ジィーサス]
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@IT MONOistで掲載された記事を転載しています



 製品開発の現場では、製品の高性能・小型化が進み、ますます熱設計を必要とする時代になっています。私自身はいまでも現役の実装設計者のつもりでいますが、最近は熱設計ニーズが多いため、熱設計の教育やコンサルティングの仕事をする比率が高くなっています。

 ここ数年、「熱」をキーワードとする事故がマスコミをにぎわすことが多く、つい最近もiPod nanoの充電中の発熱事故が話題になっていました(私も初期型iPod nano愛用者です)。情報開示が浸透してきたため、明らかになった事故が増えているといったこともありますが、それだけでなく、熱に端を発する問題が起きやすい世の中になっているようです。今回は2回に分けて熱の基本と熱が製品に与える影響について解説します。

増える製品の事故

 私は時々、「製品評価技術基盤機構(nite)」の「製品安全・事故情報」のページで、「熱」をキーワードに事故情報検索を行いますが、熱に関する事故事例は大きく2つに分かれるようです。1つは数十年使われていた、いまでは信じられないほど「長寿命の電気製品」で、もう1つは数カ月〜数年で故障する「短命の電気製品」です。

 30年以上前の扇風機が壊れたことが話題になったことがありますが、私の実家にも私が生まれる前に購入した扇風機があり、50年以上たったいまでも動きます。事故事例の原因はコンデンサが劣化して発熱し、内部のワックスが溶け出した、というものでした。いまの一般的なコンデンサからは想像もつかない原因です。

 その一方で、最近は数カ月〜数年で故障する電気製品も増えているようです。先日、「熱」を故障原因のキーワードに含む事故事例を検索したところ、1000件程度ヒットしました。試しに使用期間が5年未満の事例を手作業で分類すると、約3割に当たる件数の事故がありました(使用期間が未記入の事例もあるため、正確な数値ではありません)。家電の寿命が約5年〜7年といわれているので、事故事例の約3割は「寿命を全うできない製品」と考えることもできます。

 なぜいまの電気製品は寿命が短く、事故を起こすことが多いのでしょうか? 「買い替えを促すため意図的に寿命を短く作っている」という考え方もありますが、寿命だからといって事故を起こしてもらっても困ります。事故事例の原因を見ると、使用期間が数十年で故障した製品は「経年劣化」が原因ですが、使用期間が短い製品では「接触不良」「製造不良」「部品不良」という原因が多く見られます。

 これらが原因で部品または接続部が高温になり、はんだ割れや基板炭化などが進行し、スパークが発生して周囲の可燃部品に引火する、というのが重大事故のお決まりパターンのようです。しかし、昔に比べて製品の信頼性は上がっているはずなのに、なぜ最近の製品は「接触不良」や「製造不良」「部品不良」が起きやすいのかという疑問が浮かびます。

製品の「不良」は何故起こる?

 熱の話題なので、熱が原因ということはお気付きだとは思いますが、でも私はそれ以前に「品質重視というよき日本企業の常識的考え」が、結果的に事故を増やしているのではないか? と考えています。「高品質=高機能・コンパクト」という考え方から、製品の高密度・高集積化を繰り返すことにより単位機能当たりの消費電力が低下しても、それ以上のスピードで発熱が集中するため、たとえエコ製品でも熱設計に苦労しなければならない状態なのだと思います。

 それともう1つ、世代間の技術の断絶が大きな原因になっていると思われます。私が以前在籍していたメーカーもそうですが、最近訪問した複数のメーカーでも「設計基準はあるが、なぜそう決まったのか分からない」という声をよく耳にします。要するに、先人が苦労して設計基準や評価基準を作り上げたが、団塊世代の大量退職やリストラの影響で、技術が継承されずに「設計基準」という結果だけ残ってしまったという現象です。

 あまり話題にはなっていませんが、それは「結果」としての設計基準や評価基準が残っているためで、それ自体が原因だとは誰も思わないからだと思います。現実には高密度・高集積化は進行しており、本来なら設計基準や評価基準も進化してなければならないのですが、古い基準で設計や試作品を評価するため不具合が素通りしてしまうという現象が起こっていると考えています。

 例が悪いかもしれませんが、昔の携帯機器は充電するためのクレードルがありましたが、最近はACアダプタやUSBケーブルを直接つなぐだけのものもあります。クレードルで充電する場合は、たとえ本体が熱くなってもあまり気になりませんが、ケーブル接続だけなら充電中に本体を机の上などに置いておく必要があり、それで「充電中に熱くなる」という現象が新たに認知されたのかもしれません。本来なら添付品変更による使用形態の変化を考慮して評価すべきだったのが、そういう評価基準に変更されていなかったのかもしれません。

 熱設計というより、品質・信頼性の話題になってしまいましたが、なんとなく熱設計の必要性を感じ取っていただけたでしょうか?

なぜ熱設計が必要になるのか

 熱設計を行う理由は、製品の品質・信頼性を確保するためです。製品の品質とは、簡単にいえば「カタログに書いた機能がちゃんと動作すること」であり、信頼性とは「その機能を“ある期間”保持すること」です。“ある期間”は製品によって違いますが、例えば「家電なら7年ぐらい」とかの期待寿命があります。ユーザーとしては、その間は少なくとも使い続けたいし、それを期待して製品を購入するはずです。

 そして品質・信頼性よりもっと大事な目的として「安全性確保」があります。これは先に書いたような事故を起こさないためのものです。製品の安全性・品質・信頼性を確保するためには熱設計が必要ですが、そもそも熱とは何なのかをもう一度おさらいしてから、熱が製品へ与える影響を考えてみましょう。

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