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【UPS第1弾】オフラインUPS編:小型UPSの動作システムと回路技術を解説ソリューションコラム第4回(1/2 ページ)

» 2012年12月20日 00時00分 公開
[PR/EDN Japan]
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パワエレ技術研究所 所長 工学博士 田本 貞治

※株式会社ユタカ電機製作所に在籍後、パワエレ技術研究所を設立。専門分野:UPS、高精度交流電源の設計開発、デジタル電源の研究開発


UPS(無停電電源装置)があれば停電しても大丈夫

 先の3.11の大震災では広域な停電発生により重要な装置の電源が喪失して大きな問題になりました。一方、高速インターネットの拡大とともに、家庭においても光通信電話が普及してきましたが、この電話は停電になると使えなくなり、困った方も多かったと思われます。このような停電時に威力を発揮するのがUPS(無停電電源装置)です。UPSは、商用電源が供給されている通常通電時には内蔵されたバッテリを充電しておき、停電するとバッテリに蓄えられたエネルギーを交流電力に変換して、光通信電話のモデムやパソコンなどに電力を供給し続けます。また、重要なデータが保存されているサーバーなどは、UPSを設置しデータが失われることがないようにするのが必須となっています。本稿では、オフィスや家庭で使用できる小型UPSの動作システムや回路技術について解説します。

 UPSには大別して2種類の方式があります。ひとつは、商用電源が供給されているときはそれをそのまま出力し、停電が発生した時だけバッテリから交流電力に変換して各種装置に供給するオフラインUPSと、もうひとつは、目に見えない瞬時停電などでも安定した電力を出力し続けるオンラインUPSがあります。本稿では、このオフラインUPSとオンラインUPSについて2回に分けて解説します。

 今回は一般家庭などでも使用されるオフラインUPSについて解説します。

オフラインUPSとは

 オフラインUPSは常時商用運転方式と言われ、図1のように商用電源が供給されているときは充電器により内蔵のバッテリを充電しておきます。その際、負荷の機器には商用電源をそのまま出力します。停電すると、瞬時にバッテリの直流電源からインバータにより交流電力に変換し、商用電源ラインから切り換えて出力します。商用電源が復帰すると、インバータから商用電源に復帰します。

 この方式は商用電源とインバータとをスイッチにより切り換えるため、僅かな間ですが瞬断(出力波形の不連続)が発生します。また、商用電源をそのまま出力するため、この電源の電圧変動などもそのまま出力され、出力電源の品質は商用電源に依存し改善することはありません。しかし、この方式は回路が簡素で安価なため、パソコン向けなどに多量に使用されています。

 オフラインUPSの中には、図2のような方形波電圧が出力されるものがあります。本来商用電源で動作するコンピュータなどは正弦波電圧で動作するように設計されています。そのため、方形波電圧を入力すると不具合を生じるものもあり、UPSの選定においては注意が必要です。ところが、安価なUPSはほとんどが方形波出力です。この問題点については、後ほど解説します。

オフラインUPSのブロック図 図1 オフラインUPSのブロック図
オフラインUPSの出力電圧波形 図2 オフラインUPSの出力電圧波形
オフラインUPSにはどのようなバッテリが使用されるか

 回路について解説する前に、UPSで使用されるバッテリについて触れます。UPSで使用するバッテリは、停電が発生するたびに繰り返して使用できることが求められます。そのため充電式のバッテリでなければなりません。代表的な充電式バッテリとしては、自動車などに使用されている鉛バッテリ、携帯電話などに使用されているリチウムイオンバッテリ、家庭用の工具などに使用されているニッケル水素バッテリが挙げられます。安価なオフラインUPSには、リチウムイオンバッテリやニッケル水素バッテリは高価なため使用されず、自動車などに使用される鉛バッテリが使われています。

オフラインUPSの回路を調べる

 ここからはオフラインUPSで使われている回路について見ていきます。図1に示すように、オフラインUPSの内部は、バッテリ充電器、低いバッテリ電圧を昇圧するバッテリ電圧昇圧回路、直流電圧を交流電圧に変換するインバータにより構成されます。それでは個々の回路動作を見ていきます。

バッテリ用充電器

 オフラインUPSは図1に示すように、商用電源が入力されているときは、鉛バッテリを充電します。鉛バッテリは、リチウムイオンバッテリやニッケル水素電池と比べると、充電制御は比較的簡単です。一般的に図3のような定電圧・定電流充電が使用されます。バッテリが放電して空のときは充電電流が制限できる定電流で充電し、バッテリが満杯に近くなると定電圧充電に切り換える方式が適用されます。

 バッテリの充電容量は、充電電流と時間の積で決まります。時間をかければ少ない電流で充電することができるので、製品価格を抑えるために小さな電流容量の充電器で充電される例が多く見られます。一般家庭用で使用される300W程度の小型UPSでは12Vで4AHから7AHのバッテリが多く使用されます。これらは、0.1CA程度の電流で充電されます。ここで、CAとはバッテリ容量を電流に読み換えたものです。例えば7AHのバッテリで0.1CAは、0.7Aの充電電流ということになります。AHはバッテリ容量を表しています。7AHのバッテリでは、1Aで7時間使用できることを表していまが、この規定は20時間かけてバッテリを放電したときの容量で、短時間放電の場合は放電時間が短くなることに注意する必要があります。

 充電回路は一般的に図4のようなフライバック・コンバータ回路が使用されます。フライバック・コンバータは回路が簡素で電圧安定性も良好なので、小容量の充電器としては打って付けの回路です。制御には図4のようなフライバック・コンバータ用の制御ICを使用し、スイッチング・トランジスタにはMOSFETが使用されます。

鉛バッテリの定電圧・定電流充電法 図3 鉛バッテリの定電圧・定電流充電法
バッテリ充電回路の例 図4 バッテリ充電回路の例

低いバッテリ電圧を昇圧するバッテリ電圧昇圧回路

 UPSの出力電圧は、商用電源と同じでなければなりません。方形波電圧のUPSでも出力電圧はAC100V相当である必要があります。そのためにはバッテリ電圧をAC100Vのピーク電圧のDC141V程度の電圧まで昇圧する必要があります。この回路をバッテリ電圧昇圧回路といいます。

 一般的にバッテリの昇圧回路は図5のようにプッシュプル・コンバータが使用されます。これは、トランスを使用して、低電圧のバッテリ電圧を高電圧に昇圧する回路となっています。この回路では、低電圧で大電流のMOSFETを使用します。また、プッシュプル・コンバータ用の制御ICを使用します。このコンバータは商用電圧が供給されているときはスイッチング・トランジスタをOFFにして停止しておき、停電が発生すると瞬時に起動するようにします。

バッテリ電圧昇圧回路の例 図5 バッテリ電圧昇圧回路の例

交流電圧を作り出すDC-ACインバータ回路

 停電時の交流電圧を発生する回路をDC-ACインバータといいます。安価なオフラインUPSでは商用電源のような正弦波ではなく、図2に示す方形波の電圧を出力します。商用電圧はAC100Vの正弦波交流電圧で、正弦波のピーク電圧は141Vです。図2の方形波出力でもやはり電圧実効値はAC100Vである必要があります。また、ピーク電圧も141に近いことが望まれます。ところが、図6(b)のピーク電圧が141Vの方形波電圧の実効値はAC141Vになり、AC100Vより大きくなってしまいます。図6(a)のように電圧実効値を100Vの方形波にするとピーク電圧も100Vに下がり、電圧不足になってしまいます。商用電圧で動作する機器はAC100V±10V以内の電圧で動作するように設計されていますので、このような低い電圧では、うまく動作できなくなる可能性があります。そこでこの問題を解決するひとつの方法として、出力を図6(c)に示すような3値の階段波にします。ピーク電圧は141Vに近づけ、実効電圧がAC100Vになるように方形波の幅を狭くします。

 このような方形波電圧を出力できるDC-ACインバータ回路を図7(a)に示します。この回路はトランジスタを4個使用しています。図7(b)のように、4個のトランジスタのQ1,Q4とQ2,Q3を、タスキ掛けに交互にON-OFFさせると方形波の交流電圧を発生できます。このとき、トランジスタがONしている時間を調整するとAC100Vの実効電圧に合わせることができます。

オフラインUPSの方形波出力(AC100V)と正弦波電圧波形 図6(a) オフラインUPSの方形波出力(AC100V)と正弦波電圧波形
オフラインUPSの方形波出力(AC141V)と正弦波電圧波形 図6(b) オフラインUPSの方形波出力(AC141V)と正弦波電圧波形
実効電圧をAC100Vに修正した方形波 図6(c) 実効電圧をAC100Vに修正した方形波
DC-ACインバータ回路 図7(a) DC-ACインバータ回路
DC-ACインバータのトランジスタの動作と出力電圧波形 図7(b) DC-ACインバータのトランジスタの動作と出力電圧波形
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提供:ルネサス エレクトロニクス株式会社 / アナログ・デバイセズ株式会社
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